アマリーラさんが思い出させてくれる
「もしかして、結界を破るために協力させたから……最後に、私やソフィー達を守るために結界を使ったから……大きくなるくらいの魔力が足りないって事なの?」
スピリット達の攻撃で、荒れ狂っていた力から私達を守った結界。
さらに、外から流れ込む赤い光の残滓から、私を始めとした内部の皆を守るための多重結界……それでなくても、他にも魔法で強力な攻撃をしたりしていたのだから。
結界に向けた弓矢とミスリルの矢の威力増強も、フィリーナが自信をなくしかけるくらいの魔力が使われていたみたいだし。
完全に、エルサちゃんが大きくなれないのは、結界を破る作戦に協力してもらった私達のせいね。
「そうだけどだわ、でも結界を破ればどうにかなると考えていたのだわ。リクとの繋がりが戻れば、魔力が回復して大きくなるくらいはできたはずなのだわ」
「完全に、エルサの見込み違いなの。モニカが反省する事はないの。それに、エルサがいなければ結界も破れなかったの」
「そう、そうよね……」
エルサちゃんが、どこか元気がないのは魔力が少ないせいなのに……と思ったら、大きくなれない事よりも申し訳なさを感じてしまうわ。
ユノちゃんに言われても、一応納得はできるけど……どこか罪悪感のようなものは拭えない。
無理をさせてしまったわ。
それがなければ、リクさんの結界を破る事もできず、今ここでこの先どうするかを考える事もできなかったとはわかっているのだけどね。
「モニカ殿、エルサ様、どうかされましたか……?」
「アマリーラさん? どうしてここに……シュットラウル様の所にいたんじゃ……」
ソフィーの処置をフィネさんに任せ、ユノちゃん達と話していた私の後ろから窺うような声。
振り返ると、声の主はアマリーラさんだったわ。
アマリーラさん……シュットラウル様と一緒にいたはずなのにどうしてここに……?
「何やら、結界の外に出て行きそうで行かなかったので……侯爵様も気にされていたようです。それから……何やらリク様の力を感じましたので、いてもたってもいられませんでした」
「リクさんの力って……」
もしかしなくても、赤い光の残滓とかね。
いえ、結界の外から入り込んで来る熱気を、リクさんの力だと勘違いしている可能性もあるわ。
とにかく、アマリーラさんはチラチラと結界の外を見つつ、細長い尻尾や耳を忙しなく動かしている様子から、喜んでいる様子に近いのがわかるわ。
……私達を窺いながらも、声が少し弾んでいる事からも間違いなさそうね。
「……成る程、地面の熱で靴どころか足が溶かされると。ふむふむぅ……」
「足までは溶かされていませんけど、ソフィーが火傷しました。その場に留まっていれば、足も溶かされていたかもしれませんけど」
状況の説明をすると、ソフィーを見て、外を見て、さらに地面を見て頷くアマリーラさん。
さらにワクワク感を感じているような気がするのは、私の気のせいかしら?
よく見ると、ソフィーの足跡代わりに溶かされた靴の一部が、結界外の地面に残っているわね。
「つまり、外に出られずに困っているわけですね。ほうほう……」
「ア、アマリーラさん?」
外を見る、特に地面を注目し続けるアマリーラさん、なんだか答えている言葉が適当になって来ている気がするんだけど……?
「つまり、今外に出ればリク様の力にその身を焦がされる……いえ、溶かされて一体化できるという事では!?」
「はぁ……」
アマリーラさんが急にこちらへ顔を向け、目を爛々と輝かせて言い放った。
リクさんに対する想いもここまでになると……さすがに溜め息しか出ない。
初対面の時の印象は、既に結界へ頬擦りしていた時点で崩壊していたけど……さらに細かくなってどこかへ撒き散らされて行ったわね……。
「まったく違うの、だわっ!!」
「へぶ!」
私の頭にくっ付いていたエルサちゃんが、アマリーラさんに向かって飛んで、後ろ足で蹴った。
結構な勢いだったけど、ちょっとよろめいただけで済むアマリーラさん。
……最近の行動とか言動がおかしいだけで、実力はある人なのよね、うん。
「はぁ……だわ。どれだけ溶かされるかはわからないけどだわ、あれはただ単に地面が熱されただけの結果のなのだわ。リクのせいだけど、リクの力と一体化なんて意味のわからないことにはならないのだわ」
「……じ、冗談ですよ? さすがの私でも、本当に溶けてリク様の力と一体化したいなんて事は、思っていませんよ……?」
アマリーラさんを蹴ったエルサちゃんは、その反動のままくるりと身をひるがえして私の頭に再び着艦……着艦? 着艦ってなんだろう?
ともかく、魔力は少ないけどある程度浮かぶ力で動く事はできるみたいなのは良かったわ。
それはともかく、エルサちゃんに蹴られた鼻を抑えながら冗談だというアマリーラさんは、視線を私達から逸らし、尻尾や耳も心なしか萎れているから、本当に冗談だったのかは怪しい。
獣人って、感情が尻尾や耳に出るからわかりやすいのよね……嘘が付けない種族とも言われているらしいけど。
アマリーラさんはともかくとして、私はそんな獣人の事が好きなんだけど。
ヘルサルでも働いている人は多かったし、お世話になった人も結構いるし。
「とにかく、アホな事ばかり言っているなら邪魔なのだわ。今はリクの所に行く手段を考えるのが先決なのだわ!」
アマリーラさんを邪魔者扱いするエルサちゃんの言葉に、思わず私も頷いてしまった。
ユノちゃんもうんうん頷いているから、さっきの冗談? は状況的に良くなかったのは間違いない。
エルサちゃんの残り魔力に関して、深刻になり過ぎないで済んだのは……少し……本当に少しだけ助かったけれど。
「なんだ、そんな事ですか」
「そんな事って……」
あっけらかんとしたアマリーラさんの物言いに、思わず顔をしかめてしまう私。
「そんな怖い顔をせずとも、方法ならあるじゃないですか。モニカ殿、エルサ様」
「え?」
「だわ?」
私のしかめっ面に苦笑したアマリーラさん……方法があるって、今言ったの?
思わず素の表情になってしまったわ。
エルサちゃんも首を傾げたのが、なんとなくわかる。
「ワイバーンに乗れば、空を飛べるでしょう? エルサ様に乗らずとも、空を飛ぶ手段ならリク様が用意してくれているじゃないですか」
「……あっ!」
そうだった。
もしもに備えて……本当にもしもがあるかはともかく、待機してもらっていたボスワイバーンとそれに従うワイバーン達。
リクさんのために動いてくれる事を了承してくれているのを、忘れていたわ。
いえ、結界を破る事に集中し過ぎて……特に、スピリット達が姿を現す少し前くらいから、そちらにばかり気を取られて頭から抜け落ちていたわね。
決して、軽視しているとかそういうわけじゃなくて……結界を破るという作戦には、ボスワイバーン以外できる事はなさそうだったし……魔法が使えないから。
だったら、後ろで待機して何かがあった時に備えてもらっていただけなんだけど。
私はワイバーンを見ていても、実際に乗った事がなかったから……というのは理由になるかしら? ならないわね。
何度もリクさんとワイバーンについて話していたんだし、空を飛ぶ事の有用性についてとか――。
アマリーラさんによって、空を飛ぶ方法が思い出されました。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






