キューの鎮静効果
「エルサちゃん、ほら大好物のキューよ! お願いだから落ち着いて!」
最終手段……ではないけれど、エルサちゃんを強制的に落ち着かせる、もしくはお願いする時に有効なキューを持ち出す。
本当は魔物へ突撃する前、エルサちゃんと合流した時に上げようと思って用意してもらったんだけど……父さんの無事の確認や、ユノちゃんによるリクさんの伝言、間髪入れず好機として突撃したから、渡しそびれていた物なのだけどね。
「おかしいのだわ、おかしいのだ……キューなのだわ!!」
三本のキューを手に持って掲げると、私の周りを回っていたエルサちゃんが飛びつく。
知っていたけど、やっぱり凄い食い付きね……一瞬で三本とものキューが掻っ攫われたわ。
これで少しは落ち着いてくれたらいいけど……。
「エ、エルサちゃん? 大丈夫?」
「足りないのだわ。けど、キューでお腹がほんの少しだけ膨れたから、落ち着いたのだわ。だわ~……」
恐るべしキューの威力。
リクさん以外には止める事ができないと思われるエルサちゃんを、一瞬で平静に戻したわね……こうなるだろうなってのはわかっていたけれど。
まぁ、食事ってわけでもないし、数が足らないのは我慢してもらうとして、特徴的な語尾と共に息を吐き出して一息吐いたエルサちゃんに、今の状況を確認しよう。
「えっと、この全てを覆うようなのって、リクさんの結界なのよね?」
「そうなのだわ。リクの魔力で作られた結界で間違いないのだわ」
「それでどうしてこんな、皆を包むようになんて……って聞いてもわからないわよね」
わかっていたら、慌てて騒いでなんていないだろうから。
けど、エルサちゃんが保証してくれたから、間違いなくリクさんの結界。
……つまり、私達には壊す事はできないってわけね……現状、大量の魔物を遮っているから、壊す必要があるかはともかくとしてね。
「わかるわけないのだわ。こんな事をするなんてリクは言っていなかったのだわ。それに……いつもと違う結界なのだわ」
「いつもと違う……そもそも、結界に違いなんてあるのかしら?」
「結界に限らず、リクと私の魔法はイメージで具現化させるものなのだわ。だから、細かく言うと一つとして同じのはないのだわ。まぁ、それはいいのだわ。いつもの結界は目に見えないのだわ。それはモニカもわかっているのだわ?」
「えぇ。見えないけど確かにそこにある……なんども見てきた、いえ触れて、守ってもらったもの」
目に見えないから、実際どれだけの事から私達を守って来てくれたのか、はっきりとわからない部分もある。
けれど、確かにリクさんの作り出した見えない結界で、飛来する魔法も含めて守られてきたのは間違いないわ。
結界は目に見えなくても、何かに防がれているのは見てわかるんだから。
「でもこんな結界は今まで使っていなかったのだわ」
「そうね……目に見える結界なんて初めてよ」
「だわ。だからおかしいのだわ。しかもこれだけの広い範囲を包む結界なんて……だわ」
リクさんやエルサちゃんの魔法について、私はよくわからないのだけど……それでもこんなに広い範囲を包むような事は今までなかったわ。
以前、エルフの集落、いえ今は村ね。
それを繋がっている森の一部と一緒に覆ったらしい、という事はあったけれど。
でも今回は街全体とさらに戦場になっている場所も、全て覆っているように見えるわ。
大きさとしては、エルフの村が三つか四つはすっぽり入りそうなくらいよね。
でもどうして、急にそんな事を……。
「そもそも、これだけ分厚い結界で完全に外と内を遮断するなんて、尋常な魔力じゃないのだわ」
「でも、リクさんはとんでもない魔力量なんだし、できない事はないんじゃない?」
「いう通りなのだわ。けど、そんな事をしたらルジナウムだったのだわ? あの街の時のようになってもおかしくないのだわ」
「それって……」
ルジナウムに、大量の魔物が襲って来ていた時の事を思い出す。
あの時は、リクさんが魔力枯渇に近い状態になって、倒れちゃったのよね。
何度も無理をして、意識を失ったリクさんを見た事はあるし、最近もあったけれど……何度見ても慣れるものじゃないし、できるならそんな事にはなって欲しくないわ。
今もし、リクさんがあの時と同じ状況になっているとしたら……!?
「モニカが心配するような事までには、なっていないと思うのだわ……多分だわ」
「多分!?」
「リクとの繋がりが途絶えているのだわ。だからリクの状況がわからないのだわ……そうだったのだわ! 繋がりがないのだわ! 緊急事態なのだわ!」
キューを食べて忘れていたのだろうか、再び慌て始めるエルサちゃん。
さっき程ではないけれど、翼をパタパタさせて慌て始める……いつもリクさんの頭にペタっとくっ付いている時ならともかく、私より大きくなっている今は、跳ね飛ばされそうでちょっと怖いわね。
「お、落ち着いてエルサちゃん! 慌ててもなんにもならないわ!」
「そ、そうだったのだわ……」
「はぁ……」
さっきまでと違って、ある程度冷静に状況を受け止められるようになっているのか、私の声ですぐに落ち着きを取り戻してくれたわ。
良かった……もうキューはないから、駄目だったらどうしようかと……食糧を保存している石壁内の拠点に行かなきゃいけなくなるところだったわね。
でも、安心ばかりもしていられない。
エルサちゃんが魔力枯渇で意識を失う可能性を示唆した事で、ずっと感じている悪い予感がさらに膨れ上がったから。
大丈夫、リクさんなら平気とまでは言わなくても、無事でいてくれるはず。
……戻って来るって、勝手にどこかへ行ったりしないって言ってくれたもの。
「……」
「モニカ、だわ?」
ふと、何か引っかかる……正確には、とある考えが浮かんで黙り込む。
そんな私に、エルサちゃんが首を傾げた。
いつもの大きさだったら、そんな仕草も可愛いのに……いえ、今も十分可愛いのだけれどね。
「エルサちゃん、この結界はリクさんの魔法なのよね?」
「そう言ったのだわ」
「だったら、もしリクさんの魔力が枯渇したら、今あるこの結界はどうなるの?」
魔物ひしめく外が透けて見える結界を示しながら、エルサちゃんに聞く。
リクさんの魔力、リクさんの魔法で作られた結界なのだから、その魔力が途絶えた場合……クォンツァイタでの魔力供給なんて例外がなければ、消えるはず。
「維持するための魔力を使えば、自然と消えるはずなのだわ。どれだけ保つかは、形成だけでなく維持用に使う魔力量によるけどだわ。でも、多分あまり維持用の魔力は考えられていないと思うのだわ」
「それってつまり、まだリクさん自身の魔力はあって、意識もあるって事よね? 最初から維持用の魔力がなければ、今にも結界がなくなってもおかしくない、はず?」
「そう……だわ。はっきりとはわからないけどだわ、この結界は維持する事を重視されていない気がするのだわ。ただいつもの結界とは比べ物にならない程強固なのだわ。だからリクが自分の意思で魔力供給を止めれば、すぐに消えるのだわ」
結界が維持されている限り、リクは無事という証明にもなっているみたいです。
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