混じる感情と意識
なんとなく感じるスピリット達の気配……フレイちゃん以外は、遠く離れた場所に微かに感じるくらいだけど……。
あぁそうか、アーちゃん達は西門で魔物と戦ってくれているのか……もしかしたら、レムレース相手に何か仕掛けているのかもしれない。
潜んでいた他の魔物がどれだけの数、どれだけの強さかわからないけど、南門であれだけ圧倒的な強さを見せてくれたスピリット達だ。
俺が思うよりも被害は少ないのかもしれない……全くないわけではないとは思うけど。
だから、もういいんだフレイちゃん。
苦しまなくても……皆を助けてあげて欲しい。
悪いのは俺で、全てを受け止める責任がきっとある。
脳内では、俺が俺自身を責める声と、誰かが悪いわけじゃないという声が争っている。
どろどろとした何かが体に近付くにつれ、内側から外を覗いていた何かがまた少し顔を出す。
ズルリと……音を立ててはいないはずなのに、その音を聞いたような気がした。
「チ……」
俺の感情、考えが伝わったんだろうか、悲し気な声を残してフレイちゃんが離れていくのを感じた。
俺の視界はもう既に、どろどろとした何かで埋め尽くされ、周囲は見えなくなっていた。
いや、体の内側から出てきた何かが、俺の視界すら奪ったのかもしれない。
「くふふふふ……あはははははは! さぁ、その衝動、その感情に突き動かされなさい! これより始まるのは、ただの破壊。なんの意味もなく、ただひたすらに魔物や人、物すら関係なく破壊の狂乱!」
「ぐっ!? っ……」
ズン……と重苦しい何かが俺の体に入って来る。
怒り、悲しみ、憎しみ……俺一人では抱えきれない感情が溢れ出す。
夢に見た、俺の前で形を成しては消えていく黒い影……いや、あれは夢じゃなく俺の中に流れ込んできていた、負の感情だったんだろう。
それは今や鮮明に、人となり、色が付き、そして崩れていく。
人だけではなく、色んな魔物、見た事のある魔物や見た事のない魔物まで、いくつもの魔物と人が形を成しては崩れ去る。
そして残るのは、どす黒くそしてどろどろとした、しかし艶やかさすら感じる感情。
成る程……負の感情と言っても、それは純粋に人や魔物が感じている感情。
そこに綺麗も汚いもない。
だから感じ方、見方によって美しくも醜く感じる……のか……。
「……スベテヲ、ハカイ……」
どろどろとした何か、それに誘われるように内側から覗いていたおぞましい存在が引き出され、俺の口を動かした。
いや、だけどそれは本当におぞましい存在なのか? それはただ純粋な存在で、俺の中にあったもの……もしくは植え付けられたもの。
わからない……その存在は、俺であって俺じゃなく、そして俺自身が抱えている存在なんだ。
理解はできない、けどわかる……俺の内側から溢れ出た物でもあるのだから。
「ハカイ? ソウゾウ? ドチラデモアッテドチラデモナイ……」
俺の言葉か、内側からの存在の言葉か……両者の意識が混じり合い、そして視界が晴れる。
「貴様は破壊の化身となるのよ! くふふふふ……!!」
「だから……私を抑えつけていないで、それを止めなさいって……言っているでしょうがっっ!!」
「ぐへっ! ごはっ!?」
晴れた視界に見えた光景、一際怪しく口角を上げて目を見開き笑うレッタさんの横顔に、ロジーナの両足を揃えた綺麗なドロップキックが炸裂する場面だった。
勢いよくふっ飛ばされたレッタさんは、そのまま俺が張ったままだった結界にぶち当たり、突き刺さる。
人がぶつかっただけなんだけど、それでも結界が一枚割れて突き刺さるって、相当な勢いだったんだろう。
「はぁ……はぁ……わざわざ私を抑えつけるとは、いい度胸だわ。これは、調教し直さないといけないわね……」
レッタさんが行動をしている時、ロジーナが止めようとしていたけど言葉にするだけで動かなかったのは、何かしらで抑えつけられていたからなのか。
そこから抜け出す勢いでドロップキックをしたから、ついつい勢いが付き過ぎたのかもしれない。
というか調教って……何故だか、レッタさんが喜んで受け入れている姿が、妙に晴れやかな頭の中に浮かんだ。
「……ちっ、レッタを止めるのが遅れたわ。これはマズイわね……」
気を失ったのか、ピクリとも動かないレッタさんから視線を外し、こちらを見て顔をしかめるロジーナ。
全く動かないけど、レッタさんが生きているのは感覚でわかる。
「ちっともまずい事はないと思うけど?」
「その受け答えが既にマズイ気しかしないわ。いつものリクだったら、今吹っ飛んだレッタを心配するか、何か突っ込んでいるでしょ」
「そうかな? そうかもね。でも生きているのはわかるし……息はか細いけど、放っておいても大丈夫そうだ」
「それがわかるってのも、通常の状態じゃないわ」
こうして冷静に話しているのに、しかめっ面を止めないロジーナ。
でも確かに、いつもの俺だったら、レッタさんを心配……はそこまでしないか、ここまでの事をした張本人だし。
でも、ドロップキックをしたロジーナに何か言っていたのは間違いないし、レッタさんがどういう状況かなんてちゃんと調べるまでわからないはずだから。
むしろ、ピクリとも動かないのを見て死んじゃったんじゃないかと焦っていたかもしれない。
「通常というのがどうなのかわからないけど、気分は晴れやかだよ。いや、ある意味暗澹たる気分かもしれないけどね。でもそうか、こんなにも周囲の状況ってわかりやすい物だったんだね」
「……その気分は、相反するものよ。情緒不安定……で済まされればいいのだけれど」
なんだろう、本当に晴れやかにいつもと同じはずなのにいつもよりも晴れやかな、晴天の原っぱにいるような気分でありながら、暗く沈み込むような気分でもある。
ロジーナが言うように、情緒不安定というのが一番正しいのかもしれないけど。
周囲の状況は、魔力を広げているためによくわかる。
結界の外にいる魔物達が怯えている様も、その感情の動きすら、目で見なくてもわかるくらいだ。
いつも使う探知魔法とは違う……魔力をただ周囲に広げるだけでなく、魔力自体に情報を収集する性質、触れた別の魔力を分析する力を加えたから。
わかる、魔力の広がりと共に、周囲どころか周辺全ての状況が。
あぁ、中央は魔物の進行が止まったのを機に、突撃を開始したのか……後ろからエルサを介した援護射撃と、フィリーナが先頭に立ってよく動いているようだ。
今のところ、大きな被害は人の側には及んでいない。
むしろ、戸惑っていた魔物達が意表を突かれた形になっている。
北側では、魔物達の進行が再び開始されているようだけど、石壁を挟んでの戦闘が開始されているかな。
こちらも同じく、ほとんど人への被害はないようだ……モニカさん達がいないようだけど、もしかしたら別の場所や西側に向かったのかもしれない。
遊撃隊として動くみたいだからね。
他に……あぁ、南側は俺とロジーナが深く食い込んだから、まだ魔物と人の衝突はないか。
南が一番人の数が少なく、ヒュドラーが最後まで残っていた場所だから、打って出るまでには至っていないようだ。
おっと、ワイバーン達も頑張っているようだ……リネルトさんも合流して一緒に戦っている。
こちらは、人とは離れた場所で姑息に動こうとしている魔物を狙って、攻撃を仕掛けているんだね……空から見ていて気付いたんだろう――。
ワイバーンとリネルトさんは、正面からぶつかるのではなく空にいる利点を生かしているようです。
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