正気に戻ったアマリーラさん
「いやいや、違いますから。アマリーラさんはちゃんと生きていますよ」
「で、でも……痛みも何も感じません。いえ、毒のせいか痛みを感じないくらいだったんですが……呼吸も、体も楽です。やはりこれは私がもう生きていない事なのでは……?」
俺から目を外し、自分の体を見下ろして手を握ったり開いたり……呼吸もと言っていたから、やっぱり毒の影響を受けていたんだろう。
今は楽という事だから、ちゃんと治癒魔法で浄化できたみたいだ。
「アマリーラさん!」
「アマリーラ無事なのー!」
「はぁ……勝手にボロボロの体でやって来て、勝手に死のうとするなんて。破滅願望でもあるのかしら?」
「あれ? えっと、トレジウスに……ユノ殿とロジーナ殿? リク様だけでなく皆がいるって事は、夢ではないと……?」
冒険者さんと思われる男性、それからユノとロジーナに声を掛けられて、ようやく状況を理解し始めるアマリーラさん。
トレジウスって言うのか、一緒にいる冒険者さんは……俺は初めて見るけど、アマリーラさんの知り合いか何かなんだろう。
というかアマリーラさん、夢だったら俺が出て来る事を不思議に思わないかな? いや、深く考えるのは止めておいた方が良さそうだと、本能的な何かが叫んでいるから、気にしないようにしよう。
「ちゃんと生きていますよ。ちょっと危なかったかもしれませんけど……治癒魔法が効くかどうか、手遅れになるかどうか、という感じでしたし」
もう少し遅かったら、アマリーラさんの体力的な問題で治癒魔法ではどうにもならなかった可能性もある、それくらい危ない状況だった。
いや、あれだけの負傷と血が流れていたのだから、人間なら既に手遅れになっていたかもしれない。
「治癒魔法……リク様の治癒魔法ですか。そういえば、以前にも見た事が……」
以前、シュットラウルさんに頼まれて演習をした時だね。
あの時は俺が一時的にバーサーカーモードになったせいでやり過ぎちゃって、兵士さんに大きな怪我をした人が多く出たから、治癒魔法で治療したんだった。
もちろんアマリーラさんも見ていたから、それを今思い出しているんだろう。
「毒もあったので厄介でしたけど、なんとかなりました」
「獣人は人間より生命力が強いの。黒いカサカサするあれみたいなの」
ユノの生命力が強い例は、あの嫌われ者の事だろう……俺も苦手だけど。
「ユノ……それは獣人全てに失礼だから、その例を出すのは止めような?」
「はーいなの」
さすがに失礼過ぎるというか、その例えがこちらの世界で通じるのかはともかく、一緒にしちゃいけないと思ったのでユノに注意。
笑顔で手を挙げて返事をするユノからは、反省の色はあまり見えないけど……とりあえずアマリーラさんが反応していないからいいか。
次に同じ事を言ったら、食事抜きかモニカさんに叱ってもらおうと思う、俺は人を叱れるほど偉くないしそもそも苦手だから。
「はぁ……さっきまでの緊張感が台なしね。リクがきた途端、ユノがさらに幼い感じになるし……」
ロジーナは憎まれ口を叩くようにしつつ、表情も不満を隠していないけど、なんとなくホッとしている雰囲気が伝わって来る。
意外と、アマリーラさんの事とかも心配していたのかもしれないな。
破壊神云々の事を考えなければ、悪い子じゃないんだろう……利害の一致みたいな感じで協力してもらっているだけで、まだ悪さをしていないだけかもしれないけどね。
「とにかく、アマリーラさんは獣人だったおかげで、なんとか助かったって事だね」
「あの状態で動けた事自体、驚きでしたが……成る程そう言う事ですか……」
「私は、自分がもうすでに手遅れだと、そう感じていたのですが……確かに、治っています」
トレジウスさんという男性、そしてアマリーラさん本人も驚いた様子。
アマリーラさんは自分の怪我を確かめるため、体を動かし、手で怪我をしていた箇所を確かめている。
その度に、触り心地の良さそうな尻尾が振り振りと揺れるので、手を伸ばしたい衝動に駆られて抑えるのが大変だけど……なんとか我慢。
「まぁ、通常の治療というか手当だったら間に合わなかったと思います。毒も受けていましたし」
毒を薬でなんとかしている間に、怪我の影響で体力が失われる。
怪我の手当てをしている間に、全身に毒が回ってしまう。
など、さっきのアマリーラさんの状態はそんな感じだった。
さらに、手当をしたとてすぐに怪我が塞がるとかもないので、体力はずっと失われ続ける……通常の手当てだったら間に合わなかったのは間違いない。
だから、アマリーラさんが感じた手遅れというのは正しかったんだと思う。
俺の治癒魔法も、自然治癒力を高めて……というものだから、人間より強いらしい獣人の生命力があったおかげだし。
わりと綱渡りというか、本当にギリギリだったんだろうね。
助けられて良かった……と今更ながらに思う。
もしかしたら、こちらに向かう途中で感じた嫌な予感は、アマリーラさんの治療に間に合わないかもといったような予感だったのかもしれない。
多分だけどね。
「……ありがとうございます、リク様。私のこの身は、もう投げ出すしか道は残されていないのだと、そう思っていました。命を救ってくれたご恩は、いずれ必ず……リク様に必要かはわかりませんが、我が身を差し出せと言われれば喜んで!」
「いえ、そういう事はお願いしませんけど……とりあえず立って下さい」
自分が生きている事を自覚し、理解したアマリーラさんはすぐさま俺の前に跪いた。
何やら、忠誠を誓う……みたいな言葉と様相になっているけど、感謝はともかくアマリーラさんに変な要求をするつもりは一切ない。
「なんでも仰っていただければ!」
ん? 今……なんて反応を返しそうな事を言わないで欲しい。
とりあえず、アマリーラさんの押しが強いので苦笑で応えて手で制しておいて……。
「えっと、トレジウスさん……でしたよね?」
「は……は、はい!」
良かった、アマリーラさんんが呼んだ名前で間違いなかったようだ。
俺に呼ばれたトレジウスさんは、直立して全身を硬くする……どう見ても俺の方が年下だし、そんなに緊張しなくていいんだけど。
トレジウスさんは、二十代半ばってところかな? 短く切った髪が風になびいている爽やかな好青年といった感じだ。
体を震わせて、顔も硬直させているので今は爽やかさが薄れているけど……ヒュドラーやレムレースに怯えているのもあるのかもしれない。
「とりあえず、アマリーラさんを連れて後ろに……そうですね、街の中とか休めるところに連れて行ってください」
「リク様、私も戦えます! リク様が治療して下さったおかげで、再び剣を振るう事も……ゴホッゴホッ!」
トレジウスさんにお願いすると、聞いていたアマリーラさんが血気盛んに主張するが、途中で咳き込んでしまう。
「ほらほら、アマリーラさんはさっきまで重傷……よりも酷かったんですよ? まだ体力が戻っていないんですから、無理はしないで下さい。気持ちは受け取りましたから」
治癒したばかりのアマリーラさんは、まだ戦える状態ではないようです。
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