アマリーラの最後の覚悟
ユノ殿とロジーナ殿は、リク様を除けば間違いなく今の防衛連合軍でトップの実力であり、欠かせない存在。
今その二人を消耗して、あまつさえ後々に響くような怪我をされては困るのだ、だから私は自分の嗅覚でもう長くはないと判断した体を動かし、二人へと近付く。
私程度でユノ殿達の消耗を防げるのなら……今後の戦いを考えれば安い物だからな。
いや、お二人が引けば確実に他の冒険者などにも被害は出るか……。
だが、リク様が到着されてヒュドラーやレムレースを討伐した後、必ず活躍してくれるはずのお二人を守る事に、躊躇や後悔はない。
当然ながら私は、リク様がヒュドラーとレムレースを同時に相手取って負ける、などという想像は一切しないし、むしろ簡単に勝つ事しか頭に浮かんでこない。
だからこそ、今後を託すためにも私が盾にならねばならん……。
レムレースを発見した直後、私自身の失策が招いた負傷なぞ知った事か……いやむしろ、大きな怪我をしたからこそ捨て駒になるべきだろうな。
「はぁ、はぁ……! ぐっ! こひゅー、かはっ! ひゅー、ひゅー……」
荒い呼吸、重たい体、力の入らない体を引きずるように前へと進めさせる……もうとっくに痛みなんて感じなくなっていた。
毒のせいだろうか? それとも怪我のせいなのか、呼吸も苦しくなっていく。
そうか、オルトスの毒はおそらく体の動きを阻害させるもの、だから呼吸すらできなくなっていずれ……という物なのかと理解する。
もしかしたらだあ、痛みを感じないのも手足がしびれているからかもしれない。
以前、全身が痺れた結果、呼吸すらできなくなってという者を見た……あの時の毒はどの魔物からだったか……。
……呼吸が上手くできず、頭が働かないためか思い出せない……少なくとも、オルトスではなかったのは間違いないが、とにかくオルトスも同じ毒を持っていたという事だろう。
痺れさせ、呼吸が上手くできなくなった相手を、二つの頭が持つ牙で噛み砕く……そういった魔物なのだろうな。
「あぐっ……こひゅー、はひゅー……」
「っっ!!」
「っ!」
空気を求めてあえぎながらも前に進む私の耳に、ユノ殿とロジーナ殿が何かを言っている声が微かに届く。
何を言っているかまではわからないが、掠れ始めた目を凝らして見ると、どうやら剣がなくなったらしい……大量に集めたのは確かだが、当然数には限りがある。
おそらく集めた剣は全て使い切ったのだろう。
「はや……うぐっ、あ……ひゅー……ひゅー……く、行かね……かひゅー、こひゅー、ば! ぐっ、かはっ……!」
いくらユノ殿とロジーナ殿が私にも及ばない実力だとしても、武器の一つも持たない状態で、ヒュドラーとレムレースの波状攻撃にはいつまでも耐えられるものじゃない。
急いで、行かねば……二人が、危ない……。
意識が朦朧とし、目もどこを見ているのか自分でも定かではなくなっていたが、二人の盾になり、助け出すという目的だけははっきりしていた。
たとえそれが、無駄になる事だとしても……自分がやるべき事、やれる事はそれだけだと信じて……。
「がっ! くっ……ひゅー、ひゅー……」
足が何かに躓いたのか、動かなくなっただけなのか……前に出そうと下右足が動かず、そのまま前のめりに倒れる。
くそっ! このままじゃユノ殿達が……!
「アマリーラさん、しっかり!」
「かっ、くっ……おま……ひゅー……え……」
突然、体が引き起こされる。
まだ昼くらいのはずなのに、暗くほとんど見えなくなった視界に入り込んだのは、先程まで私を支えていてくれた、トレジウス。
何か言っている気がするが、私の耳にはほとんど音が聞こえない。
「無茶で無謀で……でも、俺もあまり人の事は言えないかもしれませんね。アマリーラさんの姿を見ていて、ただ何もせず逃げるだけってのは、いやだって……そう思ったんです」
「かふっ! はっ……お、お前は……がっ! ひゅー、ひゅー……」
「あぁ、無理にしゃべらないで下さい! このまま、行きますよ……Cランクの冒険者だって、ヒュドラーに足がすくんでも、レムレースと聞いて怯えても、できる事はあるはずですから……!」
何かを喋っている気がする……でも、もうほとんど聞こえないから内容がわからない。
だが、トレジウスが私をユノ殿達の方へ連れて行ってくれようとしているのはわかる。
この今の私の体で、本当に盾になる事ができるのかはわからないが……それでも行こうとする目的を果たそうとしてくれる。
すまないな……こんな事にトレジウスを巻き込んでしまって。
波状攻撃が行われている場所には、一度近付けば簡単に逃げ出せる場所じゃない。
ユノ殿達程の実力者であればともかく、Cランクらしいトレジウスには無理だろう……唐突に、見込みのある男を巻き込んでしまった事に対し、申し訳なさが沸いた。
私に付き合わなければ、生き残った先に冒険者として活躍する目もあっただろうに……リク様がきっと皆を生き残らせてくれるはずだから。
それが見られなくなるのは、とても残念だ……。
「なんで来たの! 早く逃げるの!」
「支えられなきゃ歩けないような怪我人が来ても、ただの足手まといよ! さっさと逃げなさい!」
トレジウスのおかげで、ユノ殿達がが目立った負傷をしないうちに辿り着けた。
けど、そんな私に対して浴びせられる言葉は中々辛辣……まぁ、確かに足手まといにしかならないだろうから、仕方ない。
だが……それでも私は私の目的を果たす!
もう手遅れの私よりも、この二人を消耗させないようにする事が、リク様にとって役立つ事だと信じて……!
「こひゅー……はひゅー……リ、リク様の……リク様への……ひゅー、ひゅー……最後の、私の献身を! ユノ殿と、ロジーナ殿はできるだけ早くお逃げ……!」
「何をするの!?」
「んな!?」
「アマリーラさん!!」
最後の馬鹿力とでも言うのか、力も入らなければ呼吸も怪しい私にしては、上出来だと自分を褒めたいくらいの動きで、支えてくれていたトレジウスを離れ、ユノ殿とロジーナ殿を引っ張る。
どこにこれだけの力があったのか……振り絞った力は二人を後ろへとやり、降り注ぐ魔法、複数の魔法の到達点へと私を進ませた。
魔法が私の体を翻弄する直前の一瞬、言葉らしい言葉を発する事ができた……最後まで言えなかったが……。
ユノ殿、ロジーナ殿、トレジウスが私に何かを言っている気がするが、それももう聞こえない……。
ヒュドラーと、いつの間にかヒュドラーの首周辺に憑りついたかのように蠢く、黒い何か……霞む目、視界を塞ぐ魔法に邪魔されながらも、そちらを見据えて睨む。
私は、お前達に屈したわけじゃない! リク様が、そしてユノ殿やロジーナ殿……今も戦う軍や冒険者達が、お前達を倒すための布石となるのだから!
なんの魔法かわからない、私の命を確実に刈り取る光のような何かが、目の前を掠め、安らかな気持ちで目を閉じ……心の中でこの世に別れを告げた……。
リネルト、先にいなくなってすまないな……幼い時からこれまで、強い力に惹かれて求めていた私によくついて来てくれた……だがここまでだ。
「さようなら……」
「……く。無理……よ」
呼吸の苦しさも忘れ、最後はちゃんとした別れの言葉を言えた。
そんな満足感と共に、私の意識はなくなり、魔法の奔流によってこの世からの存在すらなくなって…… 行かなかった――。
アマリーラさんの心は穏やかに……。
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