降り注ぐ魔法の波状攻撃
ヒュドラーと戦う前からそうだが、ユノ殿とロジーナ殿……この二人は仲が悪い。
とてもじゃないが、協力してヒュドラーの足止めをするような間柄じゃない様子だ……リク様が苦笑しておられたのもよくわかる。
ただ、何かの繋がりのようなものがあるというのは、私のような者でもわかる気がするが。
でなければ、こうして二人でヒュドラーに対して戦っていないだろうとも思わされる。
見た目から察せられる年齢とは違って、ユノ殿が若干幼く、ロジーナ殿の方が小さくとも大人びた口調や仕草なのも、あの二人が他の人間とは違うと感じるな。
まったく……リク様だけでなくユノ殿やロジーナ殿、シュットラウル様もそうだが、人間にはまだまだ獣人には知らない力が眠っているのかもしれない。
リク様やユノ殿、それからロジーナ殿に関してだけは、獣人やエルフも含めて人という存在では語れないような気もするが……。
「っ! 面倒ね!」
「油断しているからなの! さっさと避けるの!」
「わかっているわよ、やっているでしょ!」
「ガルグイユか!」
ヒュドラーの前だというのに言い合う二人に対して、遠くから複数の火球が降り注ぐ。
危うく直撃……という寸前に気付いて回避する二人、私ならあのタイミングで気付いた場合、避けられなかっただろうな。
そう思いながら、どこから放たれた物かを探るため視線を巡らせる。
きっと、私達が見える場所……いや、向こうから私達が見える場所にガルグイユがいるはずだ……。
「ギギャギャ!!」
「ギャギー!」
「グラウ!」
「シュー、シュー!」
「ちぃ、ヒュドラーまで!」
「私の後ろに隠れるの! っ! せあ!」
「お二人共!」
私がガルグイユを探している間に、ユノ殿達の隙を狙うつもりだったのだろう、ヒュドラーが一斉に攻撃を開始した。
既に先程ロジーナ殿が斬った首は全て再生している……本当に厄介な!
「こっちは大丈夫なの! けどそっちも気を付けるの! さっきのは多分ガルグイユじゃないの!」
「ガルグイユじゃない!? だったら他にどんな魔物が……?」
思わず二人に向かって声を出してしまう私に、ヒュドラーの炎を斬り裂き、氷の刃を盾で弾き、風の刃を盾で防ぎ、酸を後ろに回ったロジーナ殿の服を掴んで避けながら、こちらに注意を飛ばすユノ殿。
一人で全ての攻撃を対処するという、とんでもない事をしているが……それは今更か。
それよりも、ユノ殿の注意はどういう事だ? 火球の大きさは人の頭以上の大きさで、あれ程の魔法を複数放てる魔物なんてガルグイユしかこの戦場にはいなかったはず……。
何か隠し玉のような魔物がいるという事なのか!?
「ちょっと、苦しいじゃない!」
「我慢するの! 酸は避けるしかないの!」
「わかっているわよ! でもそれくらいなら私一人で避けるわ!」
ユノ殿とロジーナ殿のやり取りを遠くに聞きながら、嫌な予感が内心もたげて冷たい汗が流れるのを感じる。
先程まで感じなかったはずの予感……それは、首元に鋭い刃物を突き付けられているような、そんな予感でもあった。
感覚を鋭く、何者かがいるのかを探るのだ私! 獣人の感覚、嗅覚や聴覚、視覚など……人間のそれよりも鋭いはずの感覚を活かせ!
獣人にはそれぞれ、どこかの器官が人間やエルフよりも鋭いという利点がある。
リネルトは聴覚、私は嗅覚が鋭いはずだ……魔物達が発する臭いと、ヒュドラーの撒き散らす攻撃のせいで様々な臭いが充満している戦場。
私に嗅ぎ分ける事ができるか!?
「もう、なんなのよ! この魔法は! 色んな所から飛んでくるじゃない! 人間達は何をやっているの!」
「皆戦っているの! ガルグイユも、魔法を使える魔物も倒してくれているの! おかげでこの程度で住んでいるの! っ!」
「ユノ! このっ!」
私が鼻を、嗅覚を研ぎ澄ませている間に、四方八方……さすがに後ろはないが、前や左右から、空から角度を変えてなど多様な魔法がユノ殿とロジーナ殿を狙っている。
それに加えてヒュドラーの攻撃だ。
全てをさばききれなくなって当然の、波状攻撃に対しついにユノ殿がヒュドラーの岩石を斬り損ねて弾かれた。
魔法の連続に、複数の火球に隠れて岩石が撃ち出されていたため、対処が遅れたらしい。
続く溶岩石は、ロジーナ殿が斬り裂いたが……やはり持っていた剣が熱によって融かされてしまう。
「剣を! 早く! ユノの分もよ!」
「へ、へい!!」
「痛いの……でも怒ったの!」
まだまだ途絶えない魔法攻撃を、見事な体捌き……体捌きで説明できるのかはわからない動きで避けながら、離れた場所にいる冒険者に剣を要求するロジーナ殿。
ユノ殿はと弾かれた方を見ると、弾かれた衝撃で剣を飛ばされたみたいだが無事な様子で立っていた……良かった、こちらから見る分には大きな怪我はないようだ。
失くした剣も、冒険者が投げた物を受け取っているので問題なさそうだ。
「二人に気を取られている場合じゃない。この連続で魔法を使っている何者かを見つけなければ……」
ユノ殿の言う通りなのだろう、ガルグイユがこれほどまでの波状攻撃を仕掛けて来る事は今までなかった。
それに、魔法一つ一つの威力も、傍から見ている私にすらわかる程強くなっている。
ガルグイユ以外の何かが、ユノ殿とロジーナ殿に向かって魔法を放っているのは間違いない……!
「せっ! やぁっ! ていっ!」
「最初から、そうしてやっていればよかったのよ! 足、痛いんでしょ!」
「平気なの! これくらい痛いうちに入らないの! っ!」
「ほら、無理しない!」
「……お礼は言わないの」
怒ったという言葉の通り、滅茶苦茶にも見えるくらい剣を振り回し、ヒュドラーと何者かからの連続した魔法攻撃を振り払うユノ殿。
おそらく、全ての剣の振りは魔法に対処するためであり、一見滅茶苦茶に見えても意味のある動きなのだろう。
だが、ロジーナ殿が指摘した足の痛み……さっき弾き飛ばされた時に、負傷していたか……。
隙間を縫うように、細い氷の槍がユノ殿に命中する寸前、ロジーナ殿が横からそれを切り払った。
一瞬だけ、痛みからなのかユノ殿の動きが鈍った気がしたのは、足の痛みとやらのせいだろう。
……早く、早くユノ殿達を狙っている魔物の正体を突き止めないと……これ以上、対処させ続けるのは危険だ。
臭いをかぎ分け、嫌な予感や刃物をのど元に突き付けられるような、そんな不吉な感覚の元を探る。
「……っ、あれか!?」
瞬間、ズルリという音が正しいのかはわからないが、何者かの気配のような……いや、その者でありながら一部である何かが、魔物達の隙間から這い出して来るのがわかった。
臭い、気配、予感等々、どれがそれを見つけたのかも定かではないが。
「どらぁ!」
魔法を使えない私だが、魔力を込めてその何者かに剣を振るう。
周囲の魔物が反応して、私に向かって牙を向けているが、今はまず魔法を放っているだろう存在をどうにかする方が重要だ。
剣を全力で振り下ろす私に、周辺の魔物が殺到する……だが、発見した何者かに対するには周囲に対処しているような中途半端な攻撃は通らない!!
全身全霊をかけて、黒より黒い、漆黒の何者かに魔力を這わせた次善の一手を振り下ろした――。
獣人の勘なのか、アマリーラさんは全力の捨て身の攻撃じゃないといけない相手だと、悟っているようです。
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