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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移  作者: 龍央


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アマリーラの戦い



「ひとっつ倒せばリク様~の、ため~……うぉらぁっ!! よし……! ふた~つ倒して~もリク様~の~ため~……どりゃぁっ!!」


 ヒュドラーの攻撃に合わせ、ユノ殿やロジーナ殿に向かって魔法を放っていたガルグイユ。

 その二体を私の愛用の剣……リク様の前では使った事のなかった、グレートソードと呼ばれる部類の剣を気合と共に振るう。

 いや、並べればグレートソードすら小さく見えるだろう剣は、私の身の丈の倍近くの長さであり、剣の幅は私の腰程だ……いや、私の腰の方が少し細いがな。

 この愛用の剣は、丈夫で重さと膂力を乗せて叩き切る事に特化している剣……特化し過ぎて、扱える者は少ないらしいが。


 二体のガルグイユはそれぞれ私の剣をその身に受け、声すら上げる間もなくバラバラに砕け散った。

 斬る事よりも相手への破壊をもたらすとも言える剣……圧倒的な威力に、リク様への貢献をその身に感じる……。


「……おおよそ、女が発する声とは思えないわね。獣人とはいえ、身を本能に任せ過ぎじゃないかしら? それにアマリーラ、何よその歌は……」

「おぉ、ロジーナ殿」


 ガルグイユのバラバラになった破片を見下ろしながら、敬愛するリク様へ献身できている実感を得ていると、呆れたような子供の声。

 信じがたい事だが、年端もゆかない子供でありながら、私などではとてもではないが敵わない実力の持ち主のロジーナ殿だ。

 ユノ殿と同じく、リク様により見出されたその実力……私であれば、一瞬で消滅させられるであろうヒュドラー相手に、たった二人で翻弄していると言えば、その実力が察せられるだろうか。


「今の歌は、リク様への献身を忘れぬようにするための歌です。効果として、高揚し身体能力が上がってどんな魔物も撃ち滅ぼせます」


 実際には、ヒュドラーなど私の手に余り過ぎる魔物は、撃ち滅ぼせないが。


「高揚はともかく、身体能力強化の効果が歌にあるわけないじゃない。魔力を使った魔法ならともかく。はぁ……」

「むぅ、私は実際に剣を振るう体が軽くなるのを感じるのですが……」

「それは単純に、気分が高揚しているからそう感じるだけで……いえ、あなたにこういう事を諭しても意味はないわね」


 頭痛を抑えるように、額に片手を当てて首を振るロジーナ殿。

 私はリク様の事を思えば、リク様のためになるのであるならば、それだけで高揚するものなのだが……強い者を是とする獣人だからだろうか?

 それに実際歌いながらだと、剣の振りもいつもより鋭い気がするのに。

 ロジーナ殿からすれば、それは気のせい……と言ったところだろうか。


 リク様について、どれだけ素晴らしい方であるのかを一昼夜説いて、私と同じくリク様への献身をするようにしたいところだが、今はそんな状況ではない。

 これでも私は、常に冷静で現状を把握し続けているのだ。

 それに、私がリク様についていくら説こうと、私が足下に及ぶかもわからないロジーナ殿が聞く耳を持ってくれるかどうかは疑問だ。

 ……それ以前の問題、という気もするがきっとそれは気のせいだな。


「まぁアマリーラがどう思おうと勝手だけど、とにかくあれをやるわよ。ユノが抑えているけれど、いつまでも保たないわ」


 話を変えるロジーナ殿は、ヒュドラーと戦い始めてから何度も行っていた私との協力技の要請。

 私に話し掛けたのがそもそもそれをやるためだったようだ。

 ユノ殿は、最初からヒュドラーの攻撃を全て斬り裂き、避けてはいるが、ロジーナ殿が仰る通りずっと続けるのは難しいか……体の大きさにそぐわぬ身のこなしを得意とするリネルトですら、同じ事は不可能だろうからな。

 掠めている事すら今のところないが、それもロジーナ殿の攻撃でほんの少し休む瞬間を得ているからだと思われる。


「あれですか……何度もやっていますが、大丈夫なのですか?」


 私がロジーナ殿に丁寧に接するのは、私が獣人であるから。

 リク様と同様に、私ではとてもではないが敵わない力量を目の当たりにしているからだな。

 ユノ殿もそうだが、人間の小さな女の子がこれほどまでの力量を持っているとは……認めてしまえば敬うように接する、それが獣人としての私の在り方だ。


 まぁ、同じ獣人でも重要視する力も基準はそれぞれだが……それでも圧倒的な力量を見せられれば、獣人ならば誰しもが私と似たような対応になるのではないかと思う。

 リネルトも、私程ではなくともリク様やユノ殿達には一定以上の敬意を払っているようだからな、あれでも。


「問題ないわ。ここでこうして無事に立っている私を見ても、本当にダメだと思うの?」

「いえ……」


 ロジーナ殿が要求するあれ……私の剣を振り回す力を見込んでの協力技ではある。

 だがそのほとんどは、ロジーナ殿の力量によるところが大きい。

 私なんて、力任せに剣を振るうだけなのだから……尋常ならざる技量と身のこなしがなせる技だろう。


「だったら早くしなさい。ほら、ユノもちょっと焦っているみたいよ?」

「……むぅ。早く次の剣をなの!!」

「へい、承知しやしたぜ姐さん!」

「……剣が融かされたからだけのような気がしますが……次の剣も投げられましたし」


 急かすロジーナ殿だが、ユノ殿の方を見ると吐き出される岩石に向かって飛び乗り、次に向かって来る溶岩石を真っ二つに割る……いや斬る。

 だが溶岩石の熱でやられたんだろう、用をなさなくなった剣を放り投げたユノ殿は、地面に降りて手を挙げ、後ろに控えている冒険者に剣を要求。

 冒険者は、ヒュドラーの攻撃が及ばないようにするため、かなり離れているが一応声が届く場所にいる……ヒュドラーと連携する魔物の邪魔をするためでもある。

 だがその本来の目的は、ユノ殿に新しい剣を投げて渡す役目だ。


 戦闘開始前、余っている剣を集めておいて欲しいと冒険者に話し、使われていない剣がユノ殿達のために用意された。

 それは、ヒュドラーと戦う事でいくつもの剣が駄目になる事を想定していたからだろう。

 後ろも見ずに、真っ直ぐユノ殿目掛けて投げられた剣を用いて、撒き散らされる炎を真っ二つに斬って割るユノ殿。

 ……剣圧、というものだろうか? どこかで聞いた覚えがあるが、達人の域に達した剣の使い手は、その一振りで水や炎などの不定形の魔法すら割って見せるとか。


「ヒュドラーの攻撃を凌いでいるだけよ。ヒュドラーには攻撃を加えられていないから、いい状況とは言えないわ。ずっと続けば、当然いつかはユノがやられるのよ」

「決定打に欠けるわけですね。わかりました、何度目かではありますが……リク様からヒュドラーの足止めを仰せつかった身。全力でロジーナ殿に協力しましょう」


 リク様に直接ヒュドラーの足止めをするよう言われたのは、確かにロジーナ殿とユノ殿のお二人だ。

 だが私は、そのお二人を援護する事でリク様への献身と考え、ここにいる……それはつまり、リク様に仰せつかったと言っても過言ではないのではないだろうか……?

 リネルトあたりから「過言ですよぉ」なんて言葉が発せられそうだが、今ここにあれはいないからな、ふふふ――。




リクのためならば、頼まれていない事でも思い込んでしまうのかもしれません。


読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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