ワイバーンにも休息は必要
「そういえば、レムレースがいたから話をする暇はなかったけど、ルギネさん達もモニカさん達の近くにいたね」
リネルトさんの言う多様な髪の色、というので思い浮かぶのはルギネさん達くらいしか知らない。
他の国は知らないけど、アテトリア王国内は金髪、青髪、緑髪、黒髪辺りが多くて数人が集まるとどれかに偏るものなんだけどね。
あれだけ色が被らないのも珍しい。
「そのような名だったかと。ですが、いらぬ事だったかもしれません。いえ、リク様が苦戦するとは、露ほども考えておりませんでしたが、近くの者達が危険かもと……」
多分、モニカさん達や兵士さん達の事を考えてだろう。
俺が合流した時は、ルギネさん達全員倒れていたから活躍の程は見ていないけど、でもそうなるくらいには戦っていたって事だ。
モニカさん達の負傷具合から考えても、間違いなく助けになったと思う。
「うん、ありがとうございます、リネルトさん。きっとリネルトさんの判断が正しかったと思いますよ。中央はともかく、北のヒュドラーは倒すのに手間取ってしまっていましたから……もしかしたら、ルギネさん達がいなければもっとひどい事になっていたかもしれません」
あの時こうだったら、なんてたられば話は意味がないけど……きっとモニカさん達も助かったと思って、代わりにリネルトさんに感謝しておく。
もう少し早く、俺がヒュドラーを倒していられたらまた違ったかもしれないけど、まぁこれもたらればか。
「いえ、戦場を広く見て臨時の指揮権を与えられている、私の役目でもありますから。出過ぎた真似をすると混乱させてしまうので、一度に動かす人員は少数に留めるようにしています」
リネルトさんは、ワイバーンに乗って空から全体をよく見れる位置にあるので、シュットラウルさんから臨時の指揮権が与えられている、らしい。
アマリーラさんにはないのか? とちょっと疑問に思ったけど……そこは、自ら魔物との戦いに乱入する性格を考慮して与えられないのだろう。
確か、侯爵軍として組み込まず冒険者達が戦うセンテ南側で活躍していたのは、アマリーラさんは軍隊行動が苦手だっだからのはず。
その話を聞いた時、リネルトさんはむしろアマリーラさんとは逆で……とも聞いたから、今回の臨時指揮権なんだろう。
とはいえ、現場の指揮官がいるから良かれと思っても、やり過ぎたら混乱を招きかねない。
それをリネルトさん自身は理解しているんだろうね。
南門から突出してアマリーラさんと一緒に魔物相手に戦っていた時ですら、普段の間延びした口調のままだったのに、今はハキハキとした口調になっているのもその自覚ゆえか。
「あ、そうだ。ワイバーンに乗って空を駆るなら、ボスワイバーン達が戦っているのは見ていると思うんですけど……」
「はい。強力な魔物相手にも怯まず、確実に仕留めて戦果を上げています」
「でもさすがに、再生能力があるって言っても、ずっと戦えるわけじゃないので」
再生能力は、ワイバーンの持つ魔力によってなされる。
だから当然だけど、再生できる怪我であっても魔力がなくなれば再生はしないし、そもそも空を飛ぶのだって魔力を使うわけで……。
「頃合いを見て、後ろに下げるよう伝えろ……というわけですね?」
「そうです。どう采配した方がいいかは、俺よりリネルトさんが判断した方がいいと思いますけど……交代で休ませたり、一度に全ワイバーンを下げて休息を取らせたり。もちろん、偵察をしているリネルトさん達が乗るワイバーンも同じ事が言えますけど」
空を飛ぶだけで魔力が消費されるのだから、飛び回っているだけでも消耗する。
戦闘行動をしなければ、再生能力を使わなければ消耗が少ないと言っても、休息は必要だ。
それは、乗っている兵士さん達もそうだしリネルトさんも、魔力は使わなくとも体力の消耗はするだろうから同様だね。
「了解しました。戦場の状況や魔物の状況を見て、判断します。こちらに味方してくれているワイバーンです、例え魔物であったとしても無理をさせません」
「GAAU、GURURURU……」
頷いたリネルトさんは、優しく自分が乗るワイバーンを撫でる。
ワイバーンの方もリネルトさんにしっかり懐いているようで、気持ち良さそうに喉を鳴らした。
……喉を鳴らすって猫みたいだけど、まぁ仲良くやっているようで安心だ。
「貴重な戦力でもありますからね、お願いします。他には何か、俺にありますか?」
「いえ、ご報告するべき事は現状ではもうありません」
「それじゃ、俺は南側のヒュドラーを倒しに行きますね。リネルトさんが発見してくれた、不審な場所に関しても調べてみます」
「あ、私の……と言っても、リク様からお借りしているわけですが、ワイバーンに乗って行きますか?」
足を南へ向ける俺に、リネルトさんからの提案。
走るよりワイバーンに乗って行く方が、多分早いだろうけど……魔物にほとんど邪魔されないし。
けど……。
「いえ、このまま走って行く事にします。途中途中で、魔物に対しての足止めも兼ねていますから。ワイバーンに乗りながらでもできなくはないでしょうけど……ちょっと止めといた方がいいかな?」
首を振って、リネルトさんの提案を断る。
そちらの方が早いとしても、理由は俺が魔物相手に使っている魔法……マルチプルアイスバレットは、俺を中心に方向を決めて真っ直ぐに貫通性の高い氷の弾丸を撃ち出す。
空からだと地上に向かって撃つ事になるので、魔物を貫通した弾丸のせいで地面が無数の穴だらけになりかねない。
まぁ、足止めと考えるとそれもいいかもしれないけど……この先どうなるかわからない魔物との戦い、こちら側が魔物を押した場合に足を取られる可能性とか、不確定な要素は増やすべきじゃないからね。
中途半端な威力じゃ、ひしめき合う強力な魔物達に通用するかもわからないし。
それなら、別の魔法をイメージして使うのもいいかもしれないけど、そんな事をしているのなら、走りながらこれまで通り魔法を放っていた方がいくらか楽だ。
新しくイメージした魔法が、ちょうど良い威力と効果を発揮できる自信もないからね。
「わかりました。しかし、移動しながらも魔物達の足止めを成されるとは、さすがリク様です。アマリーラ様が聞いたら、称賛と喜びの遠吠えをしそうな程です」
遠吠えって……獣人だから、獣のような特性があるのかな?
アマリーラさんが遠吠えする姿、なんとなく剣を振り回しながら暴れている姿しか想像できないけど……。
「アマリーラさん、遠吠えするんですか? ま、まぁ、称賛とかはともかく、そういう事なので」
「了解しました。リク様、ご武運を!」
「リネルトさんも! あまり無理はしないで下さいねー!」
敬礼するリネルトさんと、会話を理解してか頭を下げるワイバーンに手を振って、ユノ達が戦うヒュドラーの方へと再び走り始める。
そろそろ、リネルトさんに声を掛けられた時に使った、マルチプルアイスバレットによる足止め……魔物の死骸を乗り越えて来ているから、そちらにもう一度打ち込みつつだけど。
「アマリーラ様ではないので、無理や無茶はしませんよぉ~!」
最後に、いつものような間延びしたリネルトさんの声を背に、そして左側からは魔物達の悲鳴を聞きながら、ユノやロジーナ、アマリーラさん達が戦っているはずの場所へと、走る足を速めた――。
アマリーラさんとは違い、リネルトさんは冷静に戦場を見渡すの能力があるようです。
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