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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移  作者: 龍央


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一筋縄ではいかないヒュドラー



「っ……かったい!! はぁぁぁ!!」


 ヒュドラーの首、中ほど辺りを斬り取ろうと剣を振るう。

 ガキッ! という引っかかる音と共に止まる剣……少し食い込んだくらいで、完全に斬り取れなかった。

 でも、さらに力を込めて空中で体を回転させるようにして、一気に振りぬく。


「フ! シャー……」

「……とと。よし、なんとか斬り取る事はできるか……げっ!」


 振りぬいて地面に着地すると同時、一緒に斬り取ったヒュドラーの首から先が地面に落ちる。

 とりあえず斬り取る事はできそうだと思った瞬間、落ちたヒュドラーの首がドロドロの液体になって融けていく。

 地面は、嫌な臭いを振りまきながらジュー……という音と共に融けた液体に触れた物から、溶けていた。

 ……唾液のような物だけじゃなく、ヒュドラー自体が強力な酸になっているのか。


 落ちてくる首を、受け止めなくて良かった。

 さすがSランクの魔物なのか……今まで散々斬り伏せてきたAランクのキマイラなどとは、大きく違う。

 しかも、これまでどれだけ固いと言われる魔物の皮膚、ワイバーンどころかそのまま石でできているはずの、ガルグイユすらほとんど抵抗を感じずにすんなり斬れていた剣。


 なのに、ヒュドラー相手は抵抗どころか少し食い込んだくらいで完全に止められた。

 簡単に斬る事ができない首が九つ……想像していたよりも、手間取りそうだ。

 

「見よう見真似の次善の一手なら、もう少し簡単かもしれないかな? もうちょっとちゃんと習っておけば良かったかも……って、再生早いなぁ」

「フシュー……」


 呟きながらヒュドラーを見据え、もう一度構える……大体数秒くらいだと思うけど、その間に斬った首の先が新しく生えた。

 ワイバーンのような、少しずつ治癒していく過程をたどるような再生ではなく、そのまま新しい首が斬り口から飛び出したって感じだ。

 一瞬で生えた首は、先程までと変わらず何も違和感なく馴染んでいるようで、すぐに俺を睨みつける……再生には魔力的な力を使っているはずだから、それだけで多少なりとも消耗はしているはずだけど、そんな感じは一切しない。

 周囲にある自然の魔力を吸収するってロジーナが言っていたっけ……ほんと、厄介だ。


 確かにこれは、戦い方を間違えたら数百人どころか数千人で囲んでも、全滅する可能性があるって言うのも頷ける。

 剣だけじゃ、いやそれこそ本来は一人でなんとかできるような魔物じゃないね。


「でも、やらなくちゃ……っ!?」

「グゲゲゲゲゲゲ!!」

「結界っ!」


 次の攻撃を、と心を決めた瞬間……今度はヒュドラーが動いた。

 左端の首が俺に対して大きく口を開け、笑っているような声と共に光を放つ……いや、赤い炎だ!

 ヒュドラーから吐き出された炎は、人間なんて一瞬で炭にできそうな程の熱がありそうで、さらに大きく広がる。

 けど、ロジーナみたいに結界を破壊する程の威力や熱ではなく、難なく受け止めた……まぁ、周囲の気温が上がって暑いと言う影響はあるけど。


「フシュー、フシュッ!」

「こっちからもか! でも、さすがに結界を壊す程じゃ……うぇ!?」


 さらに、先程の仕返しなのか右端の俺が一度斬って再生した首の口から、液体が吐き出される。

 強力な酸だけど、結界があればこちらも……と思っていた俺に、驚くべき光景が目に入る。

 結界で受け止められた酸は、魔法で作られた結界を少しずつ溶かして浸食。

 さすがに穴を開ける程じゃなかったけど、結界を壊すのではなく融かす酸か……生身で触れたら大変な事になりそうだ。


「……魔力弾だ、せっ!」

「グギ!? グギャ!?」


 結界を融かす酸はともかく、周囲に広がって近かった他の魔物も巻き込んで燃え上がる火炎。

 それを隠れ蓑にして、体の内側で魔力を溜めて魔力弾を放つ。

 炎を吐き続けていた左端の首目掛けて、数センチほどの魔力弾が火炎を打ち払いながら進み、勢いのまま口に入って顔を爆散。

 そのまま貫通して飛んで行く魔力弾……魔力を溜める時間さえあれば、剣より効果的っぽいね。


 まぁ、昨日残っていた魔物を殲滅するのに使った、曲射と大きめの魔力弾よりも魔力を込めているっていうのもあるんだけど。

 ……結構どころか、魔力消費がかなり激しいため、溜め時間を考えなくても連発は難しいかもしれない。


「ギャギャギャギャ!」

「ちっ! 今度は氷……こっちは風か!? バリエーション豊か過ぎない!? 多重結界!」


 俺が爆散させた左端の首は、先程斬り取った首と同じように既に再生。

 その直後、再び反撃のために一斉に動き出す九つの首。

 氷、風、酸……他に水もあれば岩石を口から吐き出しても来たうえに、再生した首からも再び火炎。

 酸で融かされた事も考え、念のため多重結界を張って全て受け止める。


 ヒュドラーの攻撃、一つ一つが直接人間に当たると一瞬でやられてしまう程の威力だ……二つ以上の攻撃が当たると、結界が軋む感覚もある。

 完全に防御するなら、結界は複数発生させた方が良さそうだね……あ、一番外の結界が破壊された。

 酸で融かされて薄くなったところに、暴風と風の刃、さらに火炎が叩きつけられたんだから、仕方ない。

 それぞれの首が独立して動くって言う意味が、よくわかった。


 同時にブレスのような魔法や酸などを吐き出せば、お互いがぶつかり合ってしまうはずなんだけど……それらがちゃんと邪魔し合わないように、連続で攻撃をしてくる。

 特に、氷や水に対して火炎は同時に吐き出さないようにしているみたいだ。

 多分、独立しているらしい首が、それぞれ状況を判断しているからだろう。


「右から、酸の一首。そこから……」


 止まない攻撃を結界で耐えながら、九つある首の特徴を見て行く。

 一つの首からは、一つの攻撃以外ができないようなんだと気付いた。

 例えば、酸を吐き出す首は他の氷や火炎を吐き出す事はできないとかだ。

 だからまず、それらの特徴を掴んで番号を右から順番に付ける事にした……幸いにも、ヒュドラーの攻撃する範囲が広いため、他の魔物が近付いて来ても巻き込まれていて邪魔される事がないので、できる事でもある。


 まず、酸を吐き出す一首……こいつは斬り取れば、その部分が強力な酸になるから要注意だけど、他の首も同じくそうなるのかは試してみる必要がある。

 左にズレて二首、こいつは氷のブレスを吐き出す……氷雪や氷の刃なども混じっていて、氷その物の形は自由自在といったところか。

 次に三首、こちらは土の塊を吐き出すんだけど、大きさも勢いは一定で一メートルくらいの土の塊……もはや岩石とも言えるそれを、かなりの速度で射出する……吐き出されてから避けるのは、かなり難しそうだ。


 四首は、三首の土の塊に加えて赤熱した岩を吐き出す……こちらは大きさも勢いも三首よりも劣っているけど、赤熱しているから触れたら火傷じゃ済まなさそうだ、溶岩を吐き出しているようなものだ……当たった魔物の体を融かしながら貫通していた。

 五首は一旦飛ばして六首……こいつは水であまり脅威じゃないように思えるけど、その水に毒が混ざっているようで、飛び散った水に当たった魔物の体が腐食して行ったのを見た……腐食性の毒とかなんなんだよと叫びたい。

 キマイラなどのAランクの魔物が、優しく思えるね――。




Aランクの魔物とSランクの魔物は大きな隔たりがあるようです。


読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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