調整済みの魔法鎧
「先に来ていたんだな」
「ガァゥ」
宿の外でエルサに大きくなってもらい、アマリーラさんの乗っているワイバーンと一緒に時間短縮のため、空を移動。
数分程度で東門に到着。
先に来ていたボスワイバーンは、アマリーラさんが集合を伝えていたからだろう……北側に待機していたワイバーン達全てを引き連れて、俺が来るのを待ってくれていた。
しばらく兵士さん達と一緒だったからか、ワイバーンの集合していても忌避しているような人はいないようだ。
「お、来たかリク。いよいよだな」
「えっと……声からするとマックスさん……ですよね?」
ワイバーン達と少しだけ話、アマリーラさんの案内で東門内側に張られている陣幕へと通される。
中では、シュットラウルさん、マルクスさん、ベリエスさんが揃っていて、さらに大きな魔法鎧を来た人物が俺を迎えてくれた。
顔も含めて全身を覆っているので、パッと見で誰が入っているのか……身に付けているのかわからないけど、声はマックスさんのものだ。
隣にはフィリーナもいる。
「お、おぉそうか、この姿じゃ誰かはすぐにわからないか。マックスで合っているぞ」
「良かった」
「声がなかったら、私でも父さんだってわからないかもしれないわね。まぁ、動き方でなんとなくわかる部分もあるけど……」
「娘にもそう言われるのは、少々残念だが……仕方がないか」
モニカさんも、パッと見ではマックスさんだとわからないのも無理はないと思う。
動きはマックスさんだとしても、全身を覆う魔法鎧は自由な動きを阻害するから、多少変わりもするだろうからね。
「お、そうだモニカ。マリーが外で待っていたぞ?」
「わかったわ。それじゃリクさん」
「うん。俺も頑張るけど、モニカさん達も気を付けて」
「えぇ、リクさんこそ気を付けて」
マックスさんが思い出したように伝えると、陣幕の外へと向かうモニカさん達。
モニカさん達はマリーさんと一緒に行動するため、合流しなきゃいけないからね。
「リクの心配より、自分達の心配をしなければいけないくらいだが、無理はするなよ?」
「無理をしないといけない場面だけど……気を付けるよ」
ソフィーの言葉にも、苦笑しつつ返す。
「リク様のご武運を! 私も、死力を尽くします!」
「フィネさんは……少し肩の力を抜いた方がいいですかね? 無理はし過ぎず、危ないと思ったら下がって下さい」
意気込むフィネさんは、緊張しすぎというわけではないんだろうけど、肩に力が入っていたようなのでもう少し力を抜くように。
俺以上に無理をしそうな事を注意する。
まぁ、俺が言わなくてもマリーさんが一緒なら、大丈夫だとは思うけどね。
「シュットラウルさん、お待たせしました」
「うむ」
モニカさん達を見送って、一番奥に座っているシュットラウルさんに声を掛ける。
大きめの机を前に、奥にシュットラウルさんが座り、左にマルクスさん、右にベリエスさんが立つ。
俺とマックスさんはシュットラウルさんに向かい合って、机を囲む配置だ。
フィリーナは少し後ろに立っている。
「では、魔物を迎え撃つ前の会議を始める」
シュットラウルさんの言葉で、少しだけピリッとした雰囲気になる陣幕内。
他にもシュットラウルさんについてきたであろう執事さん、マルクスさんの部下らしき兵士さんや、ベリエスさんが連れてきた様子の冒険者さんと冒険者ギルド職員さんの皆が、一斉に表情を引き締めた。
「……その前に確認だが。マックス殿、魔法鎧は問題なく動けそうか?」
「はっ。やはり窮屈で、なにもかも思い通りに体を動かせるとまでは言えませんが、戦いには問題ないと。事前に調整できたおかげでしょう」
「うむ、それは何よりだ。マックス殿達の魔法鎧隊は、ヒュドラー足止めの要だからな」
会議前にシュットラウルさんから、魔法鎧を着こんでいるマックスさんが動けるかの確認。
腕を上げたり、回したり、ちょっとした動きをしながら問題ない事を伝えるマックスさん……窮屈なのはどうしようもなかったけど、なんとかなったようだ。
ただ、陣幕が天井のないタイプで良かったとも思った……魔法鎧、二メートルを越えるうえに手を伸ばしたら三メートルくらいになるから。
ちなみに、フィリーナに後で聞いた話によるとだけど。
魔法鎧にマックスさんや元ギルドマスターといった、大柄な人を押し込むための調整として、鎧にかけられている魔法を調整したらしい。
俺の剣が発動させる、頑強の魔法が体と触れる内側にもかかって強固さを増幅させていたようで、それを一部排除して別の柔軟という魔法にしたんだとか。
まぁ要は、分厚い鎧の金属部分の内側を柔らかくさせる事で、大柄な体の人も身に付けて動けるように余裕を持たせたってわけなんだろう。
ただその分、耐久性というか強固なはずの防御性能が下がってしまうので、外側にかかっている頑強の魔法を強化したとかなんとか。
総じて防御面では少しだけ性能が下がったけど、柔軟性も加わってむしろ扱いやすくなった事で、全体的な戦闘をするための魔法鎧としての性能は上がったのだと、フィリーナが自信満々に言っていた。
複数の魔法を一つの鎧にというだけでも、人間が作った物としてはかなり頑張った物だったのを、魔法の書き換えを行ったフィリーナはさすがエルフだ……と称賛されたりもしたらしい。
本来一つの物に対して魔法具としての魔法は一つだけ……だから俺の剣や魔法鎧は、魔力の消費が激しいうえに通常では作れないとも言われている物。
俺の剣とは違って、大きな魔法鎧はいくつかの部分に別れているため、それぞれに魔法をかけさせる事で実現している……多大な魔力消費と引き換えに。
だから結局クォンツァイタがなければ、運用は難しかったわけだけど。
なんにせよ、一応は実用できるようになって戦力になってくれるんだから、シュットラウルさんが作らせた事も、頑張って作った人の努力も無駄にはならなかったわけだ。
「ではまず、現状でのヒュドラーや魔物の位置だが」
「さっき、ここに来る前にエルサに乗って空を移動しましたけど、遠目にも少し確認できるくらいでした」
「うむ……」
魔法鎧の確認が終わって、会議の本題へ。
魔物達は、ヒュドラーを筆頭に東門へ向かうエルサの背中で少しだけ確認できた。
空を飛ぶと、外壁などに邪魔されずに遠くが見えるからだけど……それでもまだ、はっきりとした姿ではなく黒い影が蠢いてこちらに向かっているってくらいだ。
まぁ、それだけでも十分気持ち悪かったので、多くの人が恐怖する光景ではあったんだろうけども。
「先程、リク殿が来る前に偵察している者に確認したが、今ヒュドラー三体はここと……ここ、そしてここだな」
「縦一列になっていますね。昨日確認した時と、大きくは変わっていないですか」
シュットラウルさんが、机に広げられている地図でヒュドラーのいる場所を指し示す。
地図の縮尺が一定じゃないため、はっきりとはわからないけど現在位置はセンテから約十キロ以上だろうか。
大体二キロから三キロの距離を離して、ヒュドラーが三体北から南に三体並んでいる。
真ん中のヒュドラーは、真っ直ぐ東門を目指しているようだ――。
ヒュドラ―の配置自体は、以前と変わりないようです。
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