魔物接近報告と招集
「だ、だわ! モキュモキュ……ンギュッ!?」
エルサは、アマリーラさんから魔物接近の報告と呼び出しを受け、モリモリ食べていたキューを慌てて口に突っ込み、咀嚼して飲み込もうとするけど……喉に詰まったらしい。
数本を一気に食べようとするから……仕方なく、背中をトントンと軽く叩きながら、水を飲ませて流し込むよう促す。
いつもなら、こういう時はモニカさんが率先して動いてくれるんだけど……今までも、欲求任せにキューを食べようとして詰まらせた事があるから。
けど、今モニカさんは……。
「はぁ、やりたくないけど仕方ないわね……」
「やりたくないなら、ロジーナは何もしなくていいの! その分私がやるの!」
「あんた一人じゃ難しいから、私もいるんでしょう! むしろ、私一人でやってもいいのよ!?」
「ロジーナには無理なの!」
「まぁまぁ、ユノちゃんもロジーナちゃんも、落ち着いて……」
ユノと喧々諤々、言い合いを続けるロジーナとの間に入って、諫めるのに忙しい。
ここにロジーナがいるのは、迫る次の魔物達との戦いまで暇になったからで、行く当てのないうえに泊まる所などがないのを知って、ユノが連れてきたからだ。
ユノが連れてきた事や、ロジーナがおとなしく従っていたのは少し驚いた。
言い合いはするし、お互い嫌い合っているようににらめっこをよくしているけど……意外と仲は悪くないのかもしれない。
「他の人達はどうしていますか?」
「リネルトや他の者達が報せに向かっています。シュットラウル様も含め、主要な方々は全て東門に集合するようにとの事です」
食堂から宿の出入り口へと向かいつつ、アマリーラさんに聞く。
他の場所にはリネルトさん達、おそらくワイバーンに乗っている人達が伝令に回っているんだろう。
シュットラウルさんは総大将なので、基本的に前には出て来ないようになっているけど……開戦前だから特別に東門に集合する事になっている。
「わかりました、俺達もこのまま東門に向かいます」
アマリーラさんに頷き、玄関で立ち止まってモニカさんや他の皆の顔を見る。
皆、緊張しているのか顔が強張っていたりもするけど、心構えは十分なようで俺を見る視線は力強い。
ユノとロジーナだけは、まだお互いを睨み合っているけど……まぁ、この二人に緊張感を期待するだけ無駄かもしれないね。
「それと……」
「リク様?」
皆に視線で確認したあと、後ろを振り返る。
アマリーラさんが不思議そうな声を出していた。
「できる限り、センテの内部……ここも含めて危険にはならないよう努めます。ですけど、何があるかわかりません。非戦闘員は街の西に集まって、もしもの際はすぐヘルサルに向けて脱出できるようになっています。だから……魔物達を討伐するまで、逃げていて下さい」
俺が言葉を向けたのは、見送りに来てくれた宿の従業員さんと侯爵家の使用人さん。
宿を出て先頭に赴く俺達を見送るため、残っている人達のほとんど全員が並んでいた。
どこぞの子爵家にいたメイさんのように、戦闘メイド……もとい、戦える使用人さんというのは珍しいので、今ここにいる人達は戦えない。
他にもシュットラウルさんと一緒に、数人の使用人さん達がいるけど、そちらも同様らしい。
侯爵軍、王軍、冒険者軍と魔物を街に侵入させないよう全力で戦うけど、実際には何があるかわからない。
もし魔物が街中に侵入した場合、戦えない人達が危険だからね。
建物なんかは、また新しく建て直せばいいけど……人の命は取り戻せない。
もちろん、理想は建物への被害すらなく終える事だけどね。
「……リク様、差し出がましいお願いでございますが……我々一同、リク様方のお帰りをここでお待ちしてもよろしいでしょうか?」
使用人さん達が顔を見合わせた後、老執事さんが一人前に進み出て、俺にそう言った。
シュットラウルさんとよくいる執事さんとは、別の人だね。
「え、でも……もしかしたらここも危険になるかもしれないんですけど」
「それでもです。我々はリク様や他の皆様、それこそ兵士のように戦えません。ですが、気持ちは同じくしたいと……。私達は、侯爵様、リク様がこの街に大きな被害なく、魔物を退ける事を信じております」
「……危険ですよ?」
「承知しております。万が一の事があるやもしれない……それは皆理解しております。ですがそれでも、リク様や皆様を戦地へと送り出して、我々がのうのうと逃げ出す気にはなれないのです」
直接戦えないけど、俺に話す老執事さんだけでなく使用人さん達皆が、一緒に戦っている気概でいるって事だろう。
俺を見据える真剣な目は、老執事さんだけでなく後ろにいる他の使用人さん達も同じだった。
「貴様ら、リク様がその身を案じてやっているというのに……」
「アマリーラさん、いいんです」
「リク様……?」
老執事さん、使用人さん達に対して厳しい言葉をかけようとしたアマリーラさんを静止する。
本当はアマリーラさんが正しい……ここは、厳しい事を言ってでも皆を避難させておいた方がいい、というのはわかっている。
けど……。
「わかりました。でも、もし何か危険が迫ったらすぐに逃げて下さい。人の命に代えられる物なんてありません。センテに来てから、こうして知り合えた皆さんを失う事は、絶対に嫌ですから」
長くこの宿に滞在していて、ずっとお世話をしてくれた人達だし全員じゃなくても、名前を知っている人もいる。
ユノと遊んでくれたりもした人……は、ほぼ全員か。
命に大小はなく、皆等しく思っているけど……それでも、知っている人達がいなくなる事の方が、俺にとっては耐え難い事だから。
もちろん、見ず知らずの人なら失われていいという事じゃない。
でも俺にだって、全てを守れるわけじゃないから……宿に留まる事に頷いても、もしもの時には自分達の命を優先して生き延びて欲しいと思う。
「……畏まりました。リク様のお言葉を心に刻み込み、もしもの際にはここを放棄して逃げる事をお約束いたします」
「はい、よろしくお願いします。――それじゃ皆、アマリーラさんも。行きましょう」
「えぇ」
「はっ!」
恭しく礼をしながら、約束してくれた老執事さんに頷き、もう一度モニカさん達の顔を見て外へと向かう。
モニカさんは微笑んで答え、ソフィーやフィネさんは表情を引き締めて答え、アマリーラさんは敬礼をする。
さっきまで口喧嘩をしていたユノやロジーナですら、俺に向かってしっかりと頷いてくれた……エルサは、俺の頭にくっ付いているから様子は見えないけど、頷いたのは動きで伝わった。
「リク様、モニカ様、ソフィー様、フィネ様、ユノ様、ロジーナ様、アマリーラ様、出戦!!!!」
「「「無事に我々の元へとお戻りになる事を一同、お待ちしております!! ご武運を!!」」」
俺達が揃って外へ出る間際、先程話していた老執事さんの大きな声が後ろから響く。
そして、揃っていた使用人さん、従業員さん達が声を揃えての言葉。
それらに力強く後押しされながら、絶対にまたこの宿に帰って来る事を心に刻み込み、俺達は東門へと向かった――。
お世話になった使用人さん、従業員さんの気持ちに押されて、戦場へと向かいました。
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