石の矢の威力
「……仕方ないのだわ。リクが作った壁に当ててみるのだわ」
「わ、わかった……」
エルサに言われて、ロジーナが剣を当てた石の矢を拾う。
……作っていた時は気にしていなかったけど、改めて持つと結構重い。
砲丸投げの球程じゃないけど、予想していた通り五キロ近くありそうだ……これ、上手投げとかしたら肩を壊すかもしれないね。
「……アローインパクトだわ。さぁリク、この輪を通すように投げるのだわ。真っ直ぐ直進するようにしておいたから、適当に放り投げる感じでいいのだわ」
エルサが魔法名を発すると、俺と石壁の間に三十センチくらいのモヤモヤした輪が出現する。
なんとなく火の輪潜りを思い出したけど、モヤモヤした輪は白くて熱そうではないし、生き物が通るわけじゃない。
とりあえず、その輪を通りさえすればいいみたいだね。
「えっと……ほいっと」
適当に放り投げる感じと言われたので、下から放物線を描くように放る。
石の矢を目標に突き刺すわけでもないので、クルクルと回転しながら穂先を定めないままエルサの出した輪に触れる……瞬間!
「うぇぇ!?」
「……嘘でしょ?」
「やっぱり……リクが何かすると、こうなるのだわ」
石の矢の行方を見た俺が驚きの声を上げ、ロジーナも信じれないと言った様子。
エルサは予想していたのか、やれやれと肩を竦めるような雰囲気だ。
俺が放った石の矢は、魔法の輪に触れたと思ったと同時、石壁に向かって急加速。
とてつもない速度でぶつかり、ズガッッ!! という音と共に石壁に深くめり込んだ……さすがに貫きはしなかったけど。
次善の一手を使った槍で突いても、数ミリしか刺さらなかった石壁。
だけど石の矢は深々と……矢その物が見えなくなるくらい深く、石壁の内部へと突き進んで止まった。
石壁に十センチ程度の穴が開いているのが見える。
これ、エルサの魔法が強力だから……とかじゃないよね?
「んー……だめだわ、深く刺さり過ぎて取れないわ。けど、見る限りじゃ石の矢はちっとも壊れていないわね」
ロジーナが穴を覗き込んで、深くめり込んだ石の矢を取り出そうとするけど、無理だったようで断念。
石壁にははっきりと穴が開いているのに、石の矢は壊れていないって……。
ちなみに作った時には、強度としては同等くらいのイメージだ。
って事は、勢いよくぶつかって質量の少ない石の矢の方が壊れるって考えていたんだけども。
「石壁よりも、石の矢の方が硬いって事だよね。でも、エルサの魔法が威力を出し過ぎたとかじゃ……?」
「そんなわけないのだわ。まぁ、本来よりも威力というか勢いが出たのは確かなのだわ。でも、今の魔法は放った物の強度を上げる効果はないのだわ」
エルサが予想していたよりは、勢いがあったみたいだけど……あのとんでもない速度、よく見ていたからギリギリ目で追えたくらいだ。
どこかの剛腕ピッチャーのストレートくらいの速度はあったと思う。
でもそれにしたって、強度を増すような効果はないようだから……。
「って事は……」
「リクがとんでもなく硬い武器? 矢だから一応武器ね。それを作ったって事よ。魔法を使って作ったから、ミスリルって呼ぼうかしら? 金属じゃないけど、リクのいた世界にはそんな物もあったんでしょ?」
「……いや、ミスリルって物語の中の物だし、地球には魔法がなかったからそもそも存在しないし……」
物語で語られる伝説の金属……魔法合金とされている物語もあったりする物。
ミスリルは灰色の輝きという意味だけど、石の矢は輝いていないし灰色ですらない。
硬いというだけでそう呼ぶのはどうかと思うけど……いや、呼び方なんて今はどうでもいいか。
「だわ……やっぱりだわ」
「エルサ、どうしたんだ?」
ミスリルという呼び名に関して考えているうちに、エルサが地面に降りて石の矢を前足や鼻先でツンツン突きつつ調べていた。
何やら納得したようだけど。
「リクの魔力が、内部に留まって残っているのだわ。さっき、私の魔法を通過した瞬間、想像より勢いが強かったのも、それが干渉したせいなのだわ」
「俺の魔力? でも、そんな風には作っていないけど……というかそもそも、持続して魔力を与えているならともかく、作ってそのままにした物に魔力が残るなんてないんじゃない?」
エルサを疑うわけじゃないけど、魔力が石の矢にそのまま残っているというのはちょっと信じられない。
ヘルサルのガラスのように、高密度の熱や魔力に晒された結果的に魔力を蓄積する性質を持った……とかならともかく。
石の矢を作るのに、そこまでの魔力を込めたわけじゃないし、そんな事で蓄積するようになるならクォンツァイタみたいな物すら簡単に作れるようになってしまう。
「土を凝固させたのが原因なのだわ。硬く密度を濃くしたせいで、魔力が発散される事なく滞留してそのままになっているようなのだわ」
「隙間が全くないからって事?」
「そんなようなものなのだわ」
使われた魔力は、空気中に分散されていずれ自然の魔力になる……ほぼ自分の魔力しか使わない俺はともかく、人間やエルフ達が使う魔法。
それらに使われる魔力の大半は自然の魔力だから、空気中に分散されて自然の魔力に変えるだけだけど。
でも、自身の魔力だけを使っている俺も例外じゃなく、使い終わって分散された魔力は自然へと還る。
なのに凝固されて隙間がない石の矢からは、魔力が自然に分散される事なくとどまったまま……って言う事なの、かな?
「あれ、でもそれじゃ同じ作り方をした石壁もそうなんじゃ?」
土や砂を凝固させたのは石壁も同じ。
なら、あっちにも俺の魔力が滞留していて、結果的には同じ耐久性とかになるんじゃないかなと思う。
「この石壁は大きいから、そうじゃないんでしょ。リクの込めた魔力は大きく広い範囲にある石壁に、それぞれ分散して……あと、隙間もあるようね。リクは出入口として作ったみたいだけど」
「人が通れるようにした隙間かな?」
「魔力は一定の方向に流れるのだわ。隙間がある事でそこから外に少しずつ漏れて、ずっと滞留する事はないのだわ」
えっと……俺が作った石壁は大きい……厚さは二メートル前後に高さ五メートルくらい、それがセンテの東側、外壁に沿って約数キロの長さになっている。
魔力が一定の方向に流れるという事は、北から南に流れた場合途中で俺が空けた隙間があって、そこにぶつかる事で流れた勢いのまま少しの魔力が漏れていると。
結果として、時間がたつごとに少しずつ滞留していた俺の魔力が少なくなっていずれなくなる……という考えでいいのかな?
けど石の矢は、手の平サイズの小ささのせいでどこかへ魔力が流れる事もなく、ただ滞留しているだけと。
首を傾げながらも、何とか理解しようと考えてエルサに聞いてみたら、大体そのような感じといわれた。
俺の魔力が込められた矢かぁ……。
「このミスリルの矢があれば、私の魔法を通して投げるだけでヒュドラーを倒せるかもしれないのだわ?」
そこらの魔物どころか、ヒュドラーにも有効な武器なのかもしれません。
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