ロジーナの計画と隠し事
「破壊神というか、邪神?」
「誰が邪神よ。それは、人の考え方で見た時害を成すからそう思えるだけでしょうに。私達からすると、ただその神としての性質に従っているだけで、正義も悪もないわ。もちろん、邪な神なんてのもね。あるとしたら、神の理に背く神……とかかしら。大抵は他の神に消滅させられるけど」
確かに人間から見たら邪悪と感じるだけで、神の立場からするとそうではないのかもしれないか。
「とにかく、そうしてリクを絶望させてたところに負の感情を流し込んで支配させ、心の赴くままに破壊をさせようって計画だったのよ」
戻って来たら、街は壊滅……悲惨な状況でさらなる絶望を味わえば、周辺を取り巻いている負の感情にも支配されやすいって事か。
人間だけでなく魔物の感情も混じっているようだから、支配されれば周辺に破壊をまき散らすようになっていただろうってのは、なんとなく想像が付く。
少しだけ、エルサが引き戻してくれたおかげでなんともなかったけど、隔離されている時に絶望しかけて、破壊の方に傾きかけたからだろうか、少しだけ支配された時の自分を思い浮かべて、背筋を冷たい汗が流れた。
「魔力溜まりも、私の隔離から抜け出してサクッと対処したみたいだし……あの時言うんじゃなかったわ。ま、でも、アルセイスの力の片鱗を持ったエルフがいたから、私が何も言わなくても変わらなかったのでしょうけど」
「魔力溜まり……? それもロジーナの計画に関係していたの?」
俺がセンテに戻って来て、すぐに魔力溜まりの対処を提案したのは確かだけど……アルセイス様の力の片鱗、フィリーナが特別な目で見てある程度察していたからね。
魔力溜まりを発生させないように、というのはヘルサルで学んだからロジーナから言われていなくても、すぐ対処するよう考えていたと思う。
「負の感情……感情はいずれ魔力になるわ。魔力溜まりは感情をも増幅させ、さらに大きな魔力になる。破壊をまき散らすリクを覆いつくし、埋め尽くすように取り巻くの。魔力溜まりそのものが、魔力も発生させるから、神ですら対処ができない程の存在になる……予定だったのよ。私の目的である世界の破壊、その先鋒……いえ、私の代わりにね」
「そんな事を……」
俺が、一歩間違えば破壊神の代わりにこの世界をだなんて……幸いにもセンテは無事だったし、負の感情は流れ込んできているけど、ある程度はスピリット達が対処してくれているらしい。
だから今は、そんな心配をする事はないんだろうけど、それでも自分がそうなっていた可能性や、計画されていたというのは怖くもある。
絶対にやらないしやろうとは思わないけど、街一つなんて簡単に魔法でどうにかできる……というのを、俺は既に自覚しているから。
「まぁそもそも、私の隔離を予定より早く抜け出しても、ある程度は魔物による蹂躙が進んでいると思ったら、全く進んでいなかったわね。その時点で既に誤算だったのだけど」
「……皆、頑張ってくれたみたいだからね」
「その頑張りも、リクの影響が濃いように思うわ。結局、私の計画は全てなくなったに等しいってわけ。まだ微々たる可能性は残っているけど、今そうなると私が危ないから、こうして協力しているんだけどね。……まさか、私まで人間にならなきゃいけない状況なんて、神でも想像できないわよ」
「それなんだけど、なんでロジーナが危ないんだ? ユノもそうだけど、そこらの人間には絶対負けないような実力だし、何か危険があっても振り払えるんじゃないか?」
それこそ、ヒュドラーが襲って来るなんて状況でも、確実に逃げ延びて生存できるくらいには。
逃げる、という選択肢を選ばないと考えて、協力を頼んだけど……ロジーナ一人なら逃げようとすればいくらでも逃げられるし、無理して留まる理由もない。
街の人達を守るため、なんて事は考えていないだろうし。
まぁ、レッテさんに対する怒りがあるからってだけの理由かもしれないけども。
「まだ微々たる可能性が残っているって言ったでしょ? 本当はもっと可能性が高いと思っていたけど、私はリクが、スピリット達を召喚できるって知らなかったもの。魔力溜まりへの対処は、人間になってここに来てからすぐに調べたからわかったけど、私が来る前に召喚してたのなんて、わからないわよ」
「そ、そうなんだ……」
「それでもし、微々たる可能性……それを不運にもリクが掴んでしまったら、もう手遅れなの。魔力溜まりはなくても……いえ、その後にどれだけ対処しても発生しそうだけど、それは今はいいわね。手遅れになる、つまり残っている負の感情が膨れ上がって、もしリクが支配されたら……?」
「俺が、周囲を破壊し始めるって事か? ロジーナの計画通りに」
「絶望に次ぐ絶望後というわけじゃないから、どこまでの破壊衝動が襲うかはわからないけど……少なくとも負の感情が渦巻いているここら一帯は、草木も生えない更地というのも優しく思える状況になるでしょうね。……そうね、ゴブリン達と戦った時の事を思い出して。あの時の魔法が、ただの破壊衝動に突き動かされて、そこら中に放たれるの」
「……」
「……地獄だわ」
ロジーナの話を想像して、言葉を飲み込んだ俺の代わりに、エルサが呟く。
もし俺がヘルサル防衛戦の時のようにゴブリン達の大群に放った魔法、熱量をひたすらに上げる事に集中したあの、白い光の魔法を放てば、周辺は溶けてなくなるだろう。
地面はあの時と同じようにガラスになるのか、それとも別の何かに変質するかはわからないけど、人は住めなくなるしそもそも、住んでいた人達は全て……。
それこそ、いつも一緒にいるエルサだけでなく、モニカさんやお世話になった人達も巻き込んで……。
「そんな事になったら、間違いなく人間になった私も巻き込まれるわ。その瞬間は無事でも、いずれどこかで必ず……逃げ場がないのと同じよ。だから私は、自分の身を守るためにものすごく嫌だけど、人間に協力してさっさと負の感情を肥大化させる原因の排除をしようと協力しているの」
「それで、前はロジーナ自身が危険とか言っていたんだね」
「えぇ、そうよ」
ほとんど人間と同じ存在になったから、もし俺が破壊に取りつかれた場合逃げられない。
破壊神の時とは違って、人間の体じゃ対処もできないしもし死んだら、それは神としても存在の消滅を意味するわけで……。
あぁ、だからロジーナとして再開した時、俺に早くここから離れろって言っていたのか。
隠し事をしている気がしていたのは、この事なんだろ。
まぁ、破壊神が自分で計画した事を失敗したうえ、その計画の残りで自分がまき込まれて危機に陥るかもしれない、なんて言えないよね。
ロジーナ、プライドも高そうだし。
「結局リクはどこかに行かないし、今の状況で安全な場所に行くなんて考えは、ないでしょ?」
「まぁ、ね。話を聞いていたら確かに自分が皆に危険な目に合わせる可能性もあるんだろうけど、それでも今迫っている危機を見逃すなんて事はできないよ」
リクが離れたらセンテの壊滅はほぼ確実なので、今離れるわけにも行きません。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






