魔力回復が早かった理由
「あ……」
「何か、思い当たる事が?」
影響について考えている時、ふとそういえばと不思議に思っていた事があったのを思い出した。
思わず声を漏らす俺に、ウィンさんが聞いて来る。
「影響があるのかはわからないけど……ここ最近、魔力の回復が思っていたよりも早かったなぁと」
魔力の最大量は増えているのに、ほとんど空っぽに近くなった魔力の回復が考えていたよりも早かった事だ。
最大量が増えたら、その分割合で回復量そのものは増えるのかもしれないけど……いや、そもそも割合で回復していくのかすらわからない。
でも、以前なら数日は寝込んでようやく回復していた魔力が、途中スピリット召喚やワイバーンと戦闘をして使っていたにもかかわらず、完全に満たされるまでに多くの時間がかからなかった。
三日から四日程度……それも、ずっと寝続けていたわけでもなく、日中は起きて夜寝ているだけで回復したからね。
「間違いなく、渦巻いている負の感情が流れ込んで、魔力に変換されたのだと思われます」
「そうだな。異様な魔力の回復速度……これは、一刻の猶予もないかもしれねぇ」
「既に、ある程度は流れ込んでしまっていて、それを主様が受け入れている状態です。これ以上は危険でしょう」
「やっぱり、そうなんだ……」
だから、影響を受けて変な夢みたいな何かを見ていたのかもしれない。
そうなると、既にある程度俺に負の感情が流れ込んでいるわけか……スピリット達が、少し焦った雰囲気になるの当然か。
って、そうだ。
もしその負の感情が俺にもっと流れた時の影響って、どうなるんだろう? 別に危険がなければ、そのままでもいいだろうし……何かの危険があるから、こうして離れろと言っているんだろうけど。
「もし、負の感情がこのまま俺に流れ込み続けたら、どうなる?」
「負の感情……今回は、恨みや憎しみ。他の感情もあるでしょうが、その二つが強いようです。その感情が流れ込み続ければ……」
「大きすぎる感情を抱え込み過ぎる事は、どんな人でも危険だ。水を出口のない入れ物に注ぎ続けていればいずれ……バーン! ってな感じだな」
「それは少し言い過ぎよぉ? さすがに感情だけで人間は破裂しないわぁ。でもそうね……その負の感情だけになって、主様が逸れに支配される。というところかしら?」
「支配される……そしてその感情のほとんどが、恨みや憎しみ」
ウォーさんが両手を握って開く、破裂を表現した時はドキッとしたけど、アーちゃん曰くそこまでの事にはならないようだ。
まぁ、感情は触れられる物じゃないから人間の体が物理的に破裂するなんて事は、ないんだろう。
けどその代わり、大きすぎる感情によって俺の感情などが支配されると言われた。
支配か……負の感情に支配されるって、絶対いい事が起こるわけがないよね。
「恨みや憎しみ……もとになる感情の原因は、殺された人や魔物。でも、感情そのものは混ざり合っていますので、それらが明確な敵にのみ向かうとは限りません」
「つまり、その原因となった……人なら魔物、魔物なら人に向かうわけじゃないって事だな」
「敵味方関係なくといったところねぇ……」
「……」
感情に支配された者が向かうのは、敵とか味方とか、それこそ人も魔物も関係なく、恨み、憎しみの赴くままに行動すると考えていいのかもしれない。
「それじゃもし、俺がその感情に支配されたら……?」
「大変な事になります。私達だけでなく、周辺の全て……」
「おや?」
「あらぁ?」
「リク様、緊急でお知らせする事が……!」
もし流れてきた感情に俺自身が支配された場合……怖い想像をしながらも、念のため聞いてみる。
けど、ウィンさん答えてくれている途中で、ウォーさんとアーちゃんが空に意識を向けた……いや、アーちゃんは空を向いたとかじゃなくて、地面にいる俺を見下ろしていた視線を正面に向けただけだけど。
そして、聞こえてくるのは焦った様子のアマリーラさんの声……。
「アマリーラさん?」
「リ、リク様! し、失礼します!! せ、精霊様とのお話を邪魔して申し訳ございません!」
ワイバーンが俺達の近くに降り立ち、その背中から降りるアマリーラさん。
何やら緊張した面持ちなのは、周囲にスピリット達が勢ぞろいしているからだろう……獣神様と精霊様とか言っていたからね。
ただ、緊張以外にも凄く慌てている様子で、こちらに走り寄る足も絡まり気味だ。
一体何があったんだろう?
「そんなに焦って、どうしたんですかアマリーラさん?」
「は、はい! ご報告いたします! 先程ワイバーンに乗り、上空から東側の魔物達の先を偵察していたところ、大量の大型魔物の姿を確認しました!」
「大型の魔物を、大量にですか!?」
「あらぁ……」
「こりゃ、荒れるな」
「ふむ、成る程……そういう事ですか」
「チチ?」
慌てているアマリーラさんに改めて聞いてみると、俺に対して頭を下げた状態で驚きの報告をされた。
魔物達の先……つまり、地上にいたら今いる魔物が邪魔で見えない場所に、さらに追加で魔物がいたって事か。
驚いて叫ぶ俺の他に、スピリット達はそれぞれに反応している。
ユノとエルサは……特にこれといった声は出さなかったようだけど、アマリーラさんに注視しているようだ。
「魔物を運んでいたワイバーンは、確実に全てとは言えないけどセンテにいるはず……」
「いえ、大型の魔物なので……ワイバーンでも運べないかと。特に大型の魔物で、ヒュドラーをこの目で見ました!」
「ヒュドラーですか!?」
ヒュドラー……ヒドラとも呼ばれる、巨大な魔物。
大きな胴体を持ち、複数の頭を持つ魔物でその頭が蛇になっている。
ルジナウムで戦ったキュクロプスを優に越える巨体で、牙が掠っただけでも人間は死に至る猛毒を持っているうえ、再生するワイバーン程ではないけど、治癒力も高くて厄介な魔物だ。
確か、冒険者ギルドで決めている魔物のランクは、Aランクを越えるSランク。
基本的に、確認されたら街や村があろうとすぐに全員を避難させ、力のある冒険者で遠距離から攻撃を加えて数日かけて弱らせる事で、なんとか討伐できるとか……。
一体で出る被害は、人や物もキュクロプスなんかとは比べ物にならない。
「一度、私の国で現れたのを見た事があります……あれは間違いなく、ヒュドラーでした。それが、私が確認しただけでも三体はいました……」
体を震わせているアマリーラさん。
おそらく、獣人の国で見た時の事を思い出したんだろう……基本的に百人単位で囲んで、犠牲を出しながら時間をかけて討伐するような魔物が、少なくとも三体いるんだ。
いくらアマリーラさんが強いといっても、恐怖に震えてしまうのも無理はない。
「ヒュドラーが三体……ん? アマリーラさん。さっき大型の魔物が大量にって言っていましたよね? 他にも?」
「は、はい。全ては確認できていませんが……」
アマリーラさんに聞くと、ヒュドラーの他にマンティコラースや、キマイラ、キュクロプスなどのルジナウムで散々戦った魔物もいるようだ。
他にもオルトス、ガルグイユなどの魔物がいるのだとか――。
これまで以上に強力な魔物がいるのは間違いないようです。
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