予想とは違う女の子と予想を改める
マリーさんの説教が終わった解放感を感じながらも、聞き流すのではなくちゃんと心に刻んでおく。
説教の中で、指揮する魔法部隊は俺が魔法を使った時、一部が外壁の上にいたので、大きな影響を受けた事も伝えられた。
風に吹き飛ばされて、外壁から落下した人もいたのだとか……幸い命に係わるような怪我はしなかったみたいだけど、危険なのは間違いないから反省だ。
まぁ、マリーさんはその落下した人が気を抜いていたからとも言っていたけど。
……一番悪いのは俺だからね、今度大きな魔法を使う時はちゃんと考えて気を付けないと。
「それで、どうするのだわ?」
「ん?」
「例の人間の子供の事だわ。魔物と戦っているのだわ? 行くのだわ?」
「いや、ここで待たせてもらうよ。もう少ししたら帰って来るみたいだからね」
エルサからの質問に、地面へと座りながら答える。
俺はなるべく魔物との直接戦闘をしない方がいいらしいから、ここで待たせてもらう事にする……マリーさんからの説教で受けたダメージが大きいから。
それはともかく、魔物に突撃している女の子は、長時間戦い続けられないらしく、一度深くまで突撃して魔物を蹴散らしたら、すぐに戻って来て休憩、というのを繰り返しているらしい。
魔物に傷付けられるような危うさは、これまで一切なかったらしいけど、戻ってきた時にはいつもかなり疲れている様子だって、マリーさんが言っていた。
戦う小さな女の子、と聞けば俺はすぐユノが思い浮かぶけど……あちらは別格。
長時間の戦いもできるユノとは違って、年相応……かどうかはともかく、魔物に向かって一時間や二時間も戦っていたら、疲れるのも当然だよね。
兵士さん達だって、直接魔物に当たるのは体力面を考慮して交代しているみたいだし。
総力戦とか全力で戦うときなど、作戦によるだろうけど、今は余裕をもって死傷者を減らすためにそうしているようだ。
「リク、人間の子供だけどだわ。やっぱりあれだと思うのだわ?」
「うーん……どうだろう? 最初は俺もそう思っていたけど、今は違うかもしれないって考えもあるよ。最初に考えている通りだったら、マックスさん達が気付くはずだし」
「だわ……ユノにそっくりだったのだわ。あれなら、ユノを見知っている人間達が間違えるはずなのだわ」
行き交う兵士さん達や冒険者さん達の邪魔にならないよう、隅に移動して座り込み、エルサと話す。
俺とエルサが考えていた、魔物と戦う小さな女の子……ユノの事が真っ先に思い浮かんだ影響もあって、破壊神じゃないか? と予想していた。
でも、俺とエルサが会った破壊神は、見た目も背丈もユノにそっくりだったからね。
だったら、マックスさん達ユノを知っている人達が、間違えないはずがない。
なのに、そう言った話は一切なく……。
「だよねぇ。それに、ユノと比べてもさらに見た目は小さいらしいし、見間違えないって事は違うのかもしれないね。大体、最初に考えていた通りなら、ここで魔物と戦う理由がわからないし」
「そこなのだわ。もし最初から街にいたのなら、どうしてこれまで魔物と戦わなかったのだわ? 途中から来たのだとしてもだわ、魔物に突撃しても危なげないのなら、どこかでそういった人間の話が噂になっていてもおかしくないのだわ」
話を聞く限りだと、俺達の予想は外れて別人の可能性が高い。
それに、破壊神は魔物をセンテにけしかけた側でもあるから、魔物と戦っている意味もよくわからなくなってしまう。
でも逆に、エルサが言っている通りその女の子がセンテにいたのなら、どうして今になって戦い始めたのかというのも気になる。
「でも、小さな女の子だったら、噂になったりしないんじゃないか? ユノとか、会った事ある人はともかく、別に噂とかにはなっていないけど」
「小さな子供だからこそなのだわ。魔物を蹴散らせるような子供、目立って当然なのだわ。ユノは、リクがいるから目立たないのだわ。噂に関しても、リクの事ばかりなのだわ」
「あー、言われてみればそうかぁ……」
そりゃ、大人顔負けの強さの女の子なんて、目立って当然だよね。
ユノは俺が近くにいるから、俺に注目が集まってあまり目立たないだけで……もしこの街に元々いる女の子でなければ、他の場所から移動して来ているわけで。
そうなると、魔物と戦闘する事だってあるし、それを誰かが見ていてもおかしくないはずだ。
いや戦闘能力に関しては、隠そうとしていれば隠せるかもしれないけど、小さな女の子が一人で街から街へ旅をしているだけでも目立つ。
「うん? でもそうか、他に協力者というか一緒にいる人がいないとも限らないのか……」
戦闘をしているのは女の子一人だけど、ずっと一人で旅しているかはわからないのか。
考えれば考える程、女の子の正体とかがわからなくなってくる……。
なんにせよ、会ってみれば何かわかる……かな?
少しの間だけ、のんびりさせてもらいながらエルサとあれこれ話しつつ、女の子が戻ってくるのを待った――。
待っている間、ちょっとした怪我をしてしまった人の治療をさせてもらう。
魔物との戦闘自体は、俺の作った土壁がある場所よりも離れていて、かなり押し返している事が窺えた。
遠くて、なんとなく魔法が放たれているなぁ……というくらいしか見えなかったけど。
そうして、数十分くらいが経った頃。
「なんで、なんでリクがここにいるのよ!!」
唐突に、そんな声が俺のいる場所に響き渡った。
幼さの残るというより、幼いとはっきりわかる声。
聞き覚えは……やっぱりない。
「えっと、なんでと言われても……魔物を蹴散らす女の子がいるって聞いて、様子を見にかな?」
叫びながら、こちらに駆けてきた女の子に対し、正直に答えた。
嘘を吐く理由もないからね。
「魔物と戦わずに、街の中で遊んでいるって聞いたから、私がここに来たってのに……」
「いや、遊んではいないんだけど……」
戦うのはシュットラウルさんから止められただけだし、怪我人の治療をしていて遊んでいたわけじゃない。
というか、女の子の口ぶりからして、俺が戦わないから代わりにって感じに聞こえたけど……?
その女の子は、確かに聞いていた通りユノよりもさらに小さく、まだ小学生低学年といったくらいだ。
ユノには似ておらず、どこにでもいそうな女の子に見える……どこかで見た事がある子のような気はするけど、俺やエルサの予想は外れたかな?。
「……君は、一体誰?」
「うー……」
予想も外れて、よくわからなくなったので直球で聞く事にした。
女の子は、俺の言葉を受けて唸りながら視線をあちこち……どう答えようか、何を言おうかと悩んでいる様子だ。
けどそれも、数秒程度の事ですぐに決心したのか、真っ直ぐ俺を見つめる。
「私の事を忘れたの? と言いたいけど、そういえば見た目は随分違ったわね。少し前に、リクとそこの駄ドラゴンと戦った……と言えばわかるかしら?」
「駄ドラゴンとは失礼だわ! 私は駄ドラゴンではないのだわ!」
真剣な表情でこちらを見つつ、途中で俺の頭にくっ付いているエルサに視線を移し、嘲笑するように駄ドラゴンと呼んだ。
この言い合いって……。
なんとなくどころか、少し前にリクも見た事のある言い合いのようです。
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