大変そうなマックスさんの手伝い
「お、リクじゃないか。どうしたんだこんな所に。確か、もう直接戦闘には参加しないと聞いていたぞ?」
「マックスさん。いえ、魔物と戦いに来たわけじゃなくてですね……」
東門の内側の様子を見渡している俺に、声を掛けて来たのはマックスさんだった。
スープらしき物がなみなみと入った寸胴鍋を抱えているので、料理をして休憩中の兵士さんへの食事を出すところらしい。
マックスさんの下には、数人の兵士さん達が並び始めていたから。
「おいこら、お前達! ちょっと待て。ここじゃ鍋も下ろせないだろう! ほら、こっちだ!」
「あー……手伝いますよ、マックスさん」
「それは助かるが……おい、勝手に取るんじゃない! ――いいのかリク?」
「まぁ、暇ってわけじゃないですけど、余裕はあるので。マックスさん大変そうですし」
「腹を減らした兵士や冒険者は、そこらの魔物より荒ぶっている事があるからな。すまない」
「いえ……」
マックスさんの持つ寸胴鍋に、血走った眼をした兵士さん達が近付いて怒鳴られる。
大きめの長テーブルに鍋を降ろすマックスさんを見て、大変そうだったので手伝う事にした。
確認を取っている間にも、兵士さんが勝手に鍋の中身に手を付けようとしているし……正規兵の鎧じゃないから、冒険者さんかもしれないけど。
ともあれ、マックスさんの手伝いなら獅子亭でこれまでやって来た事だ、特に難しい事じゃないし料理を作るわけでもないからね。
人手が足りなそうだし、お腹を空かせている人が多いならさっさとやってしまった方がいいだろう。
すまなそうにするマックスさんに首を振って、まずはお腹を空かせた人達を並ばせる事から取り掛かった……。
「はい、どうぞ。のどに詰まらせないよう、落ち着いて食べて下さいねー!」
「ありがとうございます! リク様のスープがあれば、これからも戦えます!」
「俺のって……俺が作ったわけじゃないんですけど……あ、まぁいいか」
大きな寸胴鍋から、具たっぷりのスープを器に注いで兵士さんに手渡す。
受け取った人は、大体がすごく喜んでくれて続く戦いにも意気込んでくれる……のはいいんだけど、作ったのはマックスさん達なんだよなぁ。
俺はただ配る役目の手伝いをしているだけなのに、なぜか一部では俺が作った物のように言われていたりもする。
「リク、助かった。ありがとう」
「いえ、マックスさん達も大変そうでしたし……あの兵士さん達の勢いは、獅子亭以上でしたからね」
全ての兵士さん達に料理を配り終え、後は食べ終わるのを待つだけとなった頃、マックスさんに改めてお礼を言われた。
兵士さん達は余程お腹を空かせていたのか、食事を求める勢いでこちらが圧倒されたくらいだ……獅子亭のピーク時よりも勢いだけは上だったね。
ちなみに料理はスープ以外にも、数種類あったんだけど、そちらはマックスさんも含めて他の人達が協力して盛り付けて配っていた。
炊き出しなんだけど、なんとなく給食スタイルっぽくてちょっと懐かしかったりもする。
「まぁな。目を離すと鍋に群がりかねん。腹を空かせているのはわかるんだがな……まぁ、作る側としては喜んでいるのがわかって、悪い気分じゃないが。ただ、なんでも美味しいとガツガツ食べるから、少し張り合いがないか」
「空腹は最大の調味料、ですからね。それだけお腹を空かせているんでしょう。あ、一部の兵士さん達の中で、俺が料理を作った事になっていましたけど……」
運動部の男子学生じゃないけど、質より量を求める人が多くてマックスさんとしては、ちょっと張り合いがなかったんだろう。
それでも、苦笑しつつ美味しそうに食べている人達を見て、目を細めていた。
お腹を空かせていると、大体の物は美味しく感じるよね……マックスさんの料理は、美味しくない物の方が少ないんだけど。
あ、もうほとんどの人が食べ終わっているね、早いなぁ。
「それこそ気にするな。料理は口に入って食べる誰かを喜ばせるまでが、料理の一環だと思っているからな。リクが手伝った事で、喜ぶ誰かがいるのならそれは料理に参加したって事だ」
「ははは、マックスさんなりの料理道ってとこですね」
「まぁな」
楽しそうに食事をして、ひと時の休憩を享受している兵士さん達を眺めつつ、マックスさんの持論を聞いて朗らかに笑う。
この持論は、獅子亭にいた頃に何度も聞いていて、だからこそ直接厨房で料理をしなくても、獅子亭のお客さんに喜んでもらえるように頑張れた言葉でもある。
最初の頃は、注文取りと配膳くらいしか手伝えなかったからなぁ……それでも、獅子亭の一員として、料理を提供する側として、マックスさんの言葉で一生懸命打ち込む事ができたんだと思う。
まぁ、モニカさんやマリーさん、皆の頑張りを目の当たりにしたからとか、無一文だったからひたすら頑張らないと、とも考えていたんだけど。
「おっと、そういえばリクがここに来た目的を聞いていなかったな。手伝わせてしまったが、大丈夫か?」
「急いでいるわけじゃないので……エルサも朝食を食べたはずなのに、美味しそうに食べていますし」
俺が東門に来た目的を邪魔してしまったかと、マックスさんから心配されるけど、特に問題ない。
他に何かの予定があるわけでもなし、噂の女の子を見に来ただけだからね。
心配事があるから、できるだけ早く様子を見たいとは思っているけど……ちょっとした手伝いくらいなら問題ないだろう。
それにしても、朝食を食べてまだそんなに時間が経っていないのに、スープの匂いに釣られたエルサは兵士さん達に混じってずっと何かを食べている……お腹壊しても知らないぞ? 今までどれだけ食べてもお腹を壊した事がないけど。
「余るくらいと考えて作っているから、エルサが食べても問題ないな。まぁ、余るくらいと考えても、一度も余った事はないんだが。なぜか、人数を考えて多いだろうと思われる量を作っても、終わってみれば鍋は空っぽになっているからなぁ」
「それは、マックスさん達が作った料理が美味しいからでしょうね。せっかく作った物を残すのももったいないですし」
今でも、ちらほらとおかわりを求める人がいるくらいだ……マックスさんは張り合いがないと言っていたけど、あるならあるだけ食べたくなるくらい、マックスさん達の料理が美味しいって事だと思う。
もし料理が余った場合は、自分達の食事にするつもりだとも言っていた。
これまで残る事がなかったので、兵士さん達の食事が終ってから新しく作って食べているらしい。
「まぁ、食事の話はこれくらいにして……俺が今日ここに来た目的です。ここ数日、小さな女の子が戦闘に参加していると聞きまして……」
「女の子……あぁあの子か! 確かにいるぞ。ユノよりも少し小さいくらいだったか……俺は門の防衛と食事を作る担当にしてもらったから、直接の戦いは見ていないが……魔物を一切寄せ付けないと聞いたな」
「ユノよりも小さい……って事は、想像とは違う人物なのかな……?」
マックスさんも、噂の少女を見た事があるようです。
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