怪我人の治療と収容をしている場所
「とりあえず、やる事は終わったけど……この後はどうするのリクさん?」
「そうだね……特に何か頼まれた事とかもないからなぁ」
「私は、このまま空を飛んでいるのも悪くないのだわ~」
ゆっくりとセンテの上空を適当に巡回するように飛ぶエルサに乗りながら、モニカさんに尋ねられて考える。
エルサは飛ぶのが好きだから、それでもいいんだろうけど。
シュットラウルさんには戦闘に参加しないよう、頼まれているからなぁ……でも、まだ魔物と戦っている人達が大勢いる中で、俺達だけのんびり過ごすのも気が引ける。
というか、落ち着かないよね。
「あ、そうだ。モニカさん、怪我人が集められている場所とかがあると思うんだけど、どこかわかるかな?」
そういえばと、怪我をした人達の治療をしようとしていたのを思い出した。
怪我で苦しんでいる人達は助けたいし、治療してまた戦闘に参加できるようになれば後方からでも支援になるからね。
「そうね……怪我をした人の収容場所は、二つ……いえ三つあるわね」
「三つかぁ。それぞれ、何か違うの?」
「戦闘している場所が、一か所じゃないから。東西に一つずつ収容場所を作ったのよ。南は冒険者が多いから、冒険者ギルドがその代わりになってもいたんだけどね」
怪我人が運び込まれている場所は、戦闘が行われている場所の近くに作った……という事だろう。
東は一番の激戦地だし、西は活路を開くために前半で多くの人を投入した。
南側もそれなりに激戦区だけど、怪我人の治療をするノウハウもある冒険者ギルドが、臨時の収容所にもなっていたらしい。
北側にないのは、兵士さん達の収容所があるのと一番怪我人が少ないからだろうね。
「あれ、でも今の言い方だと南の冒険者ギルドは、三つのうちに入っていないのかな?」
「そうね。あくまで臨時だから。収容数にも限度があるし、基本は東西のどちらか……今なら西側に連れて行く事になっているわ。まぁ、リクさんが南の魔物を殲滅したから、新しい怪我人も出ないでしょうけど」
「それじゃ、残り一つはどこに?」
「中央よ。少し、東寄りではあるけど……リクさんも一度通った事があるわ。宿や庁舎の近くね」
「あぁ……そういえば」
センテに戻って来て、一旦休んだ後東門に向かう際に途中で通った場所を思い出した。
それぞれの門から遠い場所にある理由って……。
「あそこは、手当が手遅れの人が運び込まれるわ。見込みのある怪我人とない怪我人を一緒にしていられないから。……それでも、望みを賭けて治療にあたっているんだけどね」
「そう、なんだ……」
以前、あの場所を通った時はもう手遅れの人が多いという印象だった。
実際に、手の施しようがない人が集められている場所だったんだろう……怪我人を収容している場所で、一番過酷な場所になっている事が予想される。
俺の治癒魔法は、自然回復力を増幅させての治療だから、そもそもに体力が尽きかけている人などは、助けてあげられない……。
「もしこれから、リクさんが行くなら西か東か……新しい怪我人が出ている可能性を考えれば、東かしらね。中央は、あまり見ない方がいいわ……」
モニカさんが進めるのは東か……まぁ、西は新しい怪我人が運び込まれるのが少ないからなんだろうけど。
中央に関しては、まぁ近くを通っただけでもわかる過酷さや悲惨さがあるからだろう。
でも俺は……。
「モニカさんは、マックスさんの所か宿に戻って。俺は……まず中央に行ってみる」
「で、でもリクさん、中央の怪我人はもう……」
「それはわかっているよ。でも、これからの事を考えるなら、見ておかないとと思って。まぁ、自己満足でもあるんだけど。それに、もしかしたら俺が助けられる人がいるかもしれないから」
「そう……」
もし俺が戦争に参加するのであれば、魔物だけでなく帝国側の兵士とは戦う事になる。
そうなった場合、間違いなく大量に人を殺してしまうだろう。
野盗と戦った事もあるし、人の命を奪った事もある……今更、日本で暮らしていた頃の倫理観を持ち出して、人を殺さないようにするにはどうするかなんて、考えてはいられない。
というか、戦争でそんな事ばかり考えるなんて、できないだろうからね。
だから、今回は魔物だけど一番悲惨で過酷な部分を見ておいた方がいいと思った。
以前、エルフの集落でも見たけど、同じかそれ以上の光景が広がっているのは覚悟の上だ。
ある程度割り切るか、多少は慣れておかないとこの先不安だから。
「……わかったわ。だったら、私も行くわ」
「モニカさんは、無理に付き合わなくてもいいんだよ? これは、俺が勝手に考えている事なんだから」
「いいのよ。私はできるだけリクさんといるって決めたからね。それに私も、リクさんといて色々考える事はあるの。リクさんが覚悟を決めるのであれば、それを見届けるのも……いいえ、それは言い訳ね。私も、先の事を考えると目を逸らしちゃいけないんだと思うわ」
モニカさんも、俺と似た考えなのかもしれない。
俺と一緒に冒険者になって、それまで獅子亭の看板娘として育ってきたモニカさん……マックスさんやマリーさんから、色んな話を聞いてはいるんだろうけど、俺が見ようとしている事や、戦争なんかにはこれまで関わる事は一切なかったから。
だから、かなり辛い事になるだろうけど……それでも、俺を真っ直ぐ見つめるモニカさんの瞳は、揺るぐ事がないように思えた。
「それに、私一人で見るよりもリクさんがいてくれた方が、心強いわ。こんな事じゃいけないのかもしれないけど」
「……ううん、俺も実はモニカさんと一緒にいる方が、心強いよ。やっぱり、一人で見るのは怖いからね」
「……リクはすっかり、私がいるのを忘れているのだわ」
小さく呟くエルサの声。
もちろん、頼りになる相棒のエルサの事は忘れていないけど……エルサって、人間が大きな怪我をしていても、あまり気にしそうにないじゃないか。
「それじゃ、一緒に行こうモニカさん」
「えぇ」
「……自分達の世界なのだわー」
エルサの呟きはスルーして、モニカさんと一緒に行く事を決める。
嬉しそうに頷くモニカさんを見たら、一緒にいればどんな事だって耐えられる気がした。
モニカさんの案内で、中央の怪我人が集められている場所に向かう。
さすがにすぐ近くでエルサが降りるようなスペースがなかったので、近くの広い場所を探して降りる。
小さくなったエルサを頭にくっ付けて、歩いて移動している時、すれ違う街の人達……ほとんどが忙しそうにしているけど、その人達が俺を発見して色々と感謝された。
「リク様のおかげで、センテは魔物の脅威を取り除いたも同然ですよ!」
「ありがとうございます、ありがとうございます。リク様のおかげです」
等々、ほとんどの人が俺へと感謝をくれる。
だけど、俺だけじゃなく他の人達……シュットラウルさんやモニカさん達、兵士さんや冒険者さん達が頑張ったからこそだと思う。
それこそ、今もまだ頑張っている人達はいるし、それは俺と話した人達もそうなんだけどね……荷物を運んだりとかしていたし――。
街の人達は、リクのおかげでセンテが無事だと感謝しているようです。
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