説教される侯爵様
「あぁ……疲れた……」
シュットラウルさんを連れ戻し、できるだけ人目に付かないよう宿へと戻って来て、息を吐きながら呟く。
ワイバーンがあまり見られないよう、シュットラウルさんの計らいで余裕のある兵士さんの誘導と、人の少ない道を通った。
まぁそれでも多少は見られただろうけど……今は、宿に併設されている大きな庭で、ワイバーン達は休んでいる。
執事さんやメイドさん達は驚いていたけど、襲われないとわかって恐る恐るだけど世話を請け負てくれた。
ボスワイバーンは俺に打たれてなんだか疲れた様子だったし、もう一体のワイバーンはそもそも寝る事の方が大事っぽかったので大丈夫だろう。
何かあれば、すぐに報せが来て俺が対処する事にはなっている。
「珍しいのだわ。リクが疲れたっていうのはだわ」
「確かにそうだね。はっきりと疲れたって自覚する事は少ないかも」
魔力量が多い影響らしいけど、身体的に疲れる事はこれまであまりなかった。
けど多分、この疲れは精神的な疲れもあるんだと思う……起きる前に、変な夢のようなものを見たし、ワイバーンとの対話やシュットラウルさんを連れ戻したりね。
特に、ワイバーンを連れて戻った時には周囲の反応を気にしていたから、ってのもあるかもしれない。
いやまぁ、シュットラウルさんが急に自分もボウリング球のように……なんて言い始めたのも結構あれだけども。
「あーでも、精神的な物ばかりかと思っていたけど、なんとなく体も重いような気もする」
「多分魔力が残り少ないからなのだわ。それに、完全に魔力が回復する前に戦ったからなのもあるのだわ。しばらく、リクが魔力を完全に回復していないのが、体に響いているのだわ」
「そうなのか……まぁ、ゆっくり休んでいないという点では、確かにそうかもね。戻って来てから、しばらく寝させてはもらったけど」
魔力が満たされない状態で過ごして、さらに魔法も使っているから、体に負担がかかっているとかそういう事だろうと思う。
とりあえず、今回の件が片付いたら数日くらいはゆっくりしたいところだね。
「あぁ、そうだ。ここでゆっくりしている場合でもないね。シュットラウルさんの所に行かないと」
「忙しないのだわー」
「仕方ないよ、戦争とは違うけど戦闘中だからね」
部屋に戻って来ていたけど、それは一旦落ち着くため。
ワイバーンと戦ったり、色々やっていたから服を着替えたりもしかたったし。
シュットラウルさんは俺達から遅れて、一旦落ち着いてから庁舎に戻るらしいから、そろそろ向かっていい頃合いだろう。
リバースはしなかったけど、散々三半規管をつらされているはずだから、俺が東門を離れる直前まで真っ直ぐ立てなかったくらいだけど。
鎧があったとはいえ、無理矢理前線に出た事を執事さんに注意されるだろうな……と落ち込んでいた様子でもあったけど、それは自業自得。
とりあえず、ワイバーンに関する詳細やこれからの事などを含めて、話し合う事になっている。
「ん……よし、行こうか!」
「まったく、もう少し休みたいのだわー」
「エルサは俺の頭にくっ付いて、休んでいる事が多いじゃないか」
「これは、魔力回復も兼ねているのだわー」
「……今、俺の残り魔力が少なくて、エルサにはほとんど魔力が流れていないはずなんだけどね。まぁいいか」
コップの水を飲んで、部屋の外へ向かう。
頭に乗っているエルサは、宿に戻って来る直前まで寝ていたのに……魔力回復も今はくっ付いていても効果も薄いはず。
ともあれ、ブツブツ言うエルサを宥めながらシュットラウルさんの待つ庁舎へと向かった。
「なんというか、貴族の侯爵様を前にしてあれだけの事ができるのは、他にいないよね」
「リクなら、できる気がするのだわ。でもリクはむしろ反省する側だから、できないのだわ?」
「どっちだよ……いやまぁ、やり過ぎてという意味では確かにシュットラウルさん側なんだろうけど」
庁舎に到着し、シュットラウルさんがいるはずの部屋に入ってきた途端に目に入った光景。
それを見ながら、呆れ気味のエルサと話す。
今のシュットラウルさんは、執事さんの前で体を小さくさせており、俯いて反省させられている。
執事さんはそんなシュットラウルさんに、色々と説教をしているようだ……曰く、貴族が前線に出てもしもの事があればとか、総大将が倒れたら総崩れになる危険がとか、後継ぎを決めていないのに今後どうするのかとか、早く養子でも妻を娶って子を成すなりして欲しいとか……。
一部、魔物との戦いに直接関係がない内容もあったけど、反論を許さない形でひたすらシュットラウルさんが叱られている形だ。
他に兵士さんとかが部屋にいないのは、そんな姿を見せないためだろう。
執事さんはシュットラウルさんより大分年齢が上に見えるし、説教の中で先代侯爵様が……とも言っていたので、先代から仕えている人なんだろう。
シュットラウルさんにとって、地位はともかく頭の上がらない存在なのかもしれない。
「はぁ……リク様が来られております。これ以上は言っても無駄でしょうから、ここまでにします」
俺の方をちらりと見て、説教を止める執事さん。
部屋に入った時から、二人共俺達の事は気付いていたようだから、今更ではあるけど。
「そ、そうだな! リク殿にこれ以上情けない姿は見せられんからな! 助かった……」
「ですが! 今回のような事は、くれぐれもお止め下さい!」
「う、うむ……」
渡りに船とばかりに顔を上げて、表情を明るくするシュットラウルさんだけど、言葉を遮られて最後の注意を執事さんからされている。
情けない姿と言われても、既に色んな姿を見させられているので今更執事さんに説教される姿を見ても、特になんとも思わないんだけどね……呆れはするかもしれないけど。
ただ、俺も呆れられる事が多い側だから、ちょっとシュットラウルさんに同情したり仲間意識のようなものが芽生えていたりもする。
「さてリク殿。少々予定外の事はあったが……ワイバーンの事を聞かせてもらおう。とはいえ、先程の様子から本当に敵ではないのはわかるが」
予定外の事とは、執事さんの説教の事だろうか?
シュットラウルさん自身も予想していたし、むしろ予定通りだと思うんだけど……。
まぁ、今はそこには突っ込むまい。
「そうですね……えっと、俺とエルサがワイバーンのいる場所に行った所からなんですけど……」
シュットラウルさんと、同席している執事さんにワイバーンを味方に引き入れた時の事を話す。
アマリーラさんとリネルトさんに一体貸し出している事もついでに。
それから、他にも数体……十体くらいかな? のワイバーンが街から離れた場所で寝ている……もとい、待機している事も伝えた。
「ふぅむ……サマナースケルトンの召喚した魔物を運び、我々を囲んでいる魔物の大群に追加するのは、確かに手を焼いていたが、そのワイバーンを味方に引き入れるとはな。こちらに従い、害を成さないのであればとてつもなく有用であるのは、私も見た事だ」
魔物を蹂躙するワイバーンを見ている分、シュットラウルさんには受け入れられやすいのかもしれません。
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