ワイバーン一体貸し出し
素材の回収をするため、倒したワイバーンを持って行くにしても近くにまだワイバーンが残っている。
ボスワイバーンや俺の言った事を聞いてくれていれば、おとなしくしてくれるだろうけど……こちらが変に刺激するのは避けたい。
俺から聞いて事情を詳しく知っているモニカさん達や、ワイバーン相手でも恐れないアマリーラさん、リネルトさんとかならともかく、人によっては襲って来ないのをいい事に、手を出そうとするのもいるかもしれないし。
「まぁ、南門周辺もまだ片付いておりませんので、後日の話になるかと思います。回収をしても問題ないかの確認がしたかっただけですので」
「そうですか……わかりました。今はとにかく、センテ周辺の魔物をどうにかするのが優先ですからね。落ち着いたら、俺が回収する手筈を考えます」
「はい」
まぁ、以前大量のワイバーンをエルサが結界で包んで回収した時のように、今回も近い方法になるとは思うけど。
まず周辺の魔物を討伐しつつ、ワイバーンを皆に馴染ませて、素材の回収といったところだろう。
今回収しても、その素材を買い取ったり加工したり、それこそ王都なりに運ぶとしても、対応できる状況じゃないからね。
「それじゃ、俺はボスワイバーンを連れてシュットラウルさんに報告してきます」
「あ、リク様ぁ。ワイバーンを一体置いて行ってくれますかぁ?」
「リネルト、一体どうするのだ?」
事情も話したし、クォンツァイタの設置準備をしている人達を、これ以上邪魔してはいけないと思い、シュットラウルさんがいるはずの庁舎へ向かおうとする。
と、リネルトさんからワイバーン一体の要求が……アマリーラさんも首を傾げているけど、どうするつもりだろう?
「ある程度周辺のお片付けは進んでいますけどぉ……やっぱり空から見て、指示をする者がいた方が捗ると思うんですよねぇ。リク様と一緒にエルサ様に乗った時、見下ろす地上の様子がすごくよくわかりましたからぁ」
「成る程……空からですか」
南門周辺と言っても、魔物が集まっていた場所はかなり広範囲だ。
外壁の上からだとわかりづらい所もあるし、ワイバーンに乗って俯瞰しつつ指示を出すという目的のためだろう。
ワイバーンに乗れば移動もスムーズだし、空から見れば行き届かない場所は少ない……特に、アーちゃんが消失させた地面を、埋め直した後の部分とか結構土が荒れているっぽいし。
土を消失させた穴の中に、結構な数の魔物が落ちたからなぁ。
さすがに、そちらに関してはウォーさんの発生させた水で流す事はできていないし。
「そうですね……」
まぁアマリーラさんとリネルトさんなら、もしワイバーンが暴れても対処できるだろうし、一体くらいなら問題なさそうだ。
ワイバーンの大きさから、少々窮屈でもアマリーラさんとリネルトさんを乗せるくらいはできるだろうからね。
そう思ってボスワイバーンに話して聞いてみると、連れて来ているワイバーンのうち一体に呼びかけてくれた。
本当に、俺に従う動きをしてくれるんだなぁ。
「GRA!」
了解しました! とでも言うように吠えて、片方の前足を上げるワイバーン。
決して人が出せない声と、前足を上げた瞬間周囲で見ていた人達の一部が身構えたけど……警戒したんだろう。
ワイバーンの方は、問題なくアマリーラさんやリネルトさんの言う事を聞くように、と言ってある。
もちろん俺が見ていない所であっても、危ない事をしたり誰かを襲ったりした場合は……と念には念を入れての注意もした。
……俺自身は、従順になっているボスワイバーンの様子から、大丈夫だとは思っている部分も多くなってきているんだけど、見ている人達は違うからね。
もしワイバーンが襲って来ても、単体なら対処できる人以外はまだ怖がっている様子もちらほら見かける。
ポーズとして、逆らわない様子を見せておくのも大事だ……多分。
ちなみにワイバーンは、それぞれの手足がほぼ同じ長さで四足歩行の特徴を持つエルサと違って、前足はかなり短い。
後ろ足は太く二足歩行で、空でも地上でも尻尾を使ってバランスを取っているらしく、大切な器官である尻尾は再生能力がなくとも再生するんだと、後から知った。
トカゲのような見た目だから、尻尾に関しては驚かなかったけど……これまで知らなかった、知る必要があまりなかった、ワイバーンに関する知識が増えていくね。
「おっと、リネルトに遮られて伝え忘れるところでした。リク様」
「どうしました、アマリーラさん?」
ワイバーンを俺から借りて、背中に頬ずりまでし始めたリネルトさんを横目に、アマリーラさんから話しかけられる。
リネルトさんは、ワイバーンのひんやりした皮膚の表面が気に入ったようだ……リザードマンのように、ねっとり湿っていないのも大きな理由っぽい。
それはともかく……。
「シュットラウル様へ報告をと、先程仰っておられましたが、今頃シュットラウル様は東門で最前線にいるはずです」
「え、シュットラウルさんが!? 最前線って、危ないんじゃ……? いえ、シュットラウルさんがそこらの魔物には決して負けないくらい強く、剣の腕が立つ人なのは知っていますけど」
アマリーラさんから教えてもらった事に驚く。
侯爵様だからもしもの事があってはいけないし、全体の指揮をするためずっと庁舎にいるものだと思っていた。
それがなんで前線に……いくらシュットラウルさんでも、無謀というか無茶が過ぎる。
「いえ……危険はほぼないかと。もちろん、シュットラウル様ご自身の腕もあるのですが……」
「今のシュットラウル様に、怪我をさせられるのはAランクくらいの魔物だと思いますよぉ?」
「え、それはどういう……?」
いくら腕が立つと言っても、魔物は人間一人程度、簡単に押し流せるくらい大量にいる。
それなのにアマリーラさん達に焦っている様子はなく、それどころか安全だとでも言うようだ……リネルトさんは頬ずりを止めていないし。
二人共、むしろ呆れているような……?
俺だけでなく、周囲の人達、ソフィーやフィネさん達も驚いているのに……ん? モニカさんは驚いていない? あぁ、モニカさんは東門からこちらに来たから、知っているのか。
「リクさん、あれはなんというか……動く鎧?」
「言い得て妙ですな、モニカ殿。それも、そこらの鎧ですらなく少々の攻撃では傷付かない鎧です」
「そんな鎧が……?」
「確かぁ、以前作ったはいいけど、魔力の必要量が多過ぎて使い物にならなかったって聞きましたぁ。戦いにおいて、指揮官がやられる事は何よりも避けるべき、侯爵としても領主としても、と言って考えたらしいんですぅ」
「それは……まぁ、作る理念というか考えはわかりますけど……」
集団戦において、基本的に指揮官がい無くなれば総崩れになる……というのは往々にしてある事、だと思う。
だから、要職に付く人物や指揮権を持つ貴族とかは、なんとしてでも自分が生き残る事を考えなければいけないし、その延長で王城やクレメン子爵邸にあった、いざ危険が迫った時のための隠された地下通路だったりするんだけど――。
貴族が最前線に立つのは、リスクが大きすぎて通常なら悪手と言えるようです。
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