厄介な再生能力
「っ、この!」
「GYAAAA!!」
「リク、左から来るのだわ!」
「わかってる! エルサ任せたよ!」
「もちろんだわ!」
「GRUAAA!!」
「せやぁ!」
ワイバーンとすれ違いざま、首を切り落とす……胴体や翼を斬り裂いて、地上に叩き落すなどなどを繰り返す。
翼を切り落としたワイバーンが飛べなくなるのは当然ながら、再生能力があるのでまだ倒しきれないけど、空から地上に落ちて強く体を地面に打ち付けて活動を停止していた。
探知魔法でそれとなく調べると、多少生き残っているのもいるみたいだけど、ほとんどが魔力を霧散させているようなので、倒せているんだろう。
ただ、ワイバーンも動いているので軽々と斬らせてくれないのもいる。
そういう時は、剣を深く突き刺してエルサが動くままに斬り取って行く。
「ふぅ……エルサ、まだ魔力は大丈夫?」
「あんまり長続きはしないけどだわ、まだ大丈夫なのだわ」
「そう……無理はしないように。途中で魔力が突然切れたら、墜落するのはワイバーンじゃなくて俺とエルサだからね」
「そんなヘマはしないのだわ」
少しだけ離れた位置で静止して一息。
エルサの魔力が切れて墜落したら、待っているのは地面との激突と残ったワイバーンに囲まれる状況だ。
地上には、飛べないながらも再生能力のおかげで生き延び、少しずつ復活しているワイバーンもいる。
まぁ、囲まれてもまだ俺に余力があればなんとでもなるだろうけど、できるだけ避けたいからね……エルサが飛べなくなる前には、離れて後退した方がいいだろう。
「エルサが飛べなくなる前に、なんとか倒し切りたいんだけど……」
「あいつら、リクが仕留め損なうとさっさと再生しているのだわ。面倒なのだわー」
「まぁ、確実に止めを刺せているのばかりじゃないからね。仕方ないけど」
ワイバーンが魔法を使わないので、こちらが怪我をするような危険はほとんどない……エルサが避けてくれるからだけど。
その代わり、翼を斬って地上へ落とすか首を斬り落として仕留めないと、再生されてしまう。
意外と再生能力って、厄介だなぁ。
「せいっ! はぁ……ふぅ……」
「疲れたのだわ?」
「いや、体は疲れていないんだけどね……」
魔力がかなり少なくなっている。
多分、今はいつものような溢れているらしい魔力での防御能力も、俺にはなくなっているはずだ。
ルジナウムの時に経験したし、破壊神の隔離から抜け出した後も同様だったんだろう。
まぁ、センテに戻って来る時に魔物の大群の中を突っ切った時は、それに集中していたから怪我らしい怪我はなかったけど。
「ちょっと、そろそろ魔力が少なくなって来たなぁって。決着を付けないと不味いかも」
襲い掛かって来るワイバーン、逃げようとするワイバーンなどに剣を突き立て、斬り払い、少しずつ数を減らせては来ているんだけど……。
俺が使っている剣が、常に魔力を消費しているので長引けば長引く程、自然と魔力が減ってきてしまう。
しかも、俺の魔力が少なくなるとエルサへの供給も減るので、飛んでいられる時間も減ってしまう。
魔法を使って一気に……というより魔力消費自体は少ないんだけど、スピリット達を召喚して節約したとはいえ、元々が少なかったからね。
かと言って、今持っている剣は魔力を消耗する黒い剣一本のみ。
他の剣を持って来ていたら何かの役に立ったかもしれないけど……でも、ワイバーンの硬い皮を貫くのは難しい。
次善の一手が使えれば別だけど、それもそれで魔力を使うし細かい制御は苦手だからなぁ。
「納得いかないけど、一旦引くのだわ? かなり数を減らしたから、十分なのだわ」
「そうかもしれないけど……」
さっき、ワイバーンに対して色々言っていたエルサは、ワイバーンから逃げるのは不満なんだろう。
けど、それでも魔力が少ない危険を察して退却する提案をしてくれる。
確かにワイバーンは、最初に突撃する時の三分の一以下になっていて、十数体くらいしか残っていない……エルサと話したり考えたりしながらも、すれ違いざまに首を斬れたから一体減った。
でも、地上に落ちてもまだ生きているのもいるからなぁ……合わせると二十体くらいはいるだろう。
「まぁ、これくらいなら魔物を新しく連れて来るのは、多くないだろうけど」
「それに、サマナースケルトンなんてのもいなくなったのだわ。適当な魔物を連れて来ようとしても、抵抗するのだわ」
サマナースケルトンに召喚された魔物ならともかく、そこらにいる魔物を捕まえて連れて来ても当然言う事を聞かない。
ワイバーンに怯えて仕方なく……という魔物もいるだろうけど、ワイバーンの数が少なければ大量に運ぶ事はできないか。
「街南の魔物を殲滅して、サマナースケルトンもいなくなった。大分魔物側の戦力を削った、かな?」
「なのだわ。ワイバーンもかなり減っているのだわ。一度仕切り直して、リクや私の魔力を回復させるには十分なのだわ」
「そう、かもしれないね……でも……」
思い出すのは、東門へ行く前。
魔物との戦いで傷付いた人達の事……治療をしている人や、手の施しようがなくなってしまった人たちの、悲痛な声。
そして、頭の奥底にこびりついたような、起きる直前の夢……いや、あれが夢だったのかどうかは怪しいけど。
なんとなく、日本にいた時の姉さんの事を後悔して、悪夢になっていたのとは違う気がするんだ。
「一か八か、魔法で一気に倒してエルサに戻ってもらう、か?」
「もうしばらく飛んだり、飛んで帰るくらいなら平気だけどだわ、リクの魔法に巻き込まれる可能性を考えたら、厳しいのだわ。東門の時を思い出すのだわ」
「まぁ……あれはちょっと自分でももう少し考えた方がいいと思ったけどね……っせい!」
さらに一体、逃げようとしたワイバーンに追い付いて斬り付ける。
ただ、体を深くは斬り付けられたけど、飛ぶ能力を削ぐ事はできず俺達から離れた場所で、再生を始めた。
く……向こうは魔力や体力に余裕があるから、仕留め損なうとこちらが消耗するだけだね。
「リクの魔法に巻き込まれたら、そちらで魔力やら体力やら気力やら何やらそれらしいものを消費するのだわ。そうすると、帰れなくなる可能性があるのだわ」
「魔力はともかく、他のものは余計だと思うけど……」
まぁ、体力はそれなりに使うのかな? それはともかく、俺が魔力不足で意識を失う覚悟で魔法を使っても、エルサが巻き込まれたらその後が危険と。
エルサ自身も、魔力を防御に回す余裕がなくなってきているようだ。
それに、ワイバーンだって動いているのだから、魔法を使うにしても広範囲に及ぶようにしなきゃいけないから……残りの魔力で確実に全部仕留められるかどうかは微妙なところだ。
エルサの残り魔力も少ないみたいだから、代わりに使ってもらうのもなしだな。
「やっぱり、一旦退却して仕切り直すしかないか……」
できれば一度で全滅させたかったけど……今回のように、一か所に集まっている状況なんてそうそうないチャンスだし。
逃げようとするワイバーンは、それぞれ色んな方向に向かおうとしているので、今回を逃したら散り散りになるのは間違いない。
探して倒すのは一苦労だろうなぁ……けど、仕方ないか――。
ワイバーンの殲滅は、魔力不足で一旦断念するようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






