限界のリクを支えてくれる人
「リク、だわ!」
頭にくっ付いていたエルサが離れ、俺の胸辺りに来て一生懸命浮かんで支えてくれるけど……さすがに少しずつ俺の体重に負け始めている。
エルサも、随分と疲れているようだからな……俺の魔力が回復しないと、エルサの魔力も回復しないようだし。
「エルサ、無理はしなくても……」
「ふぬぬぬだわ! もう少し、リクはダイエットした方がいいのだわ!」
多分、色々限界が近くて一度倒れたら、俺はしばらく起き上がれないとエルサも感じているんだろう、俺の言葉を無視して支えてくれている。
ダイエットする程太っているつもりはないけど、そうだね、落ち着いたらもう少し体重を軽くするよう努力した方がいいのかもね……。
「もう……無理なのだわー!」
「リクさん!」
「……え?」
ゆっくりと、地面に向かう体……エルサのおかげで、勢いよく転ぶ事はなさそうだし……あぁ、地面は冷たくて気持ち良さそうだ……。
なんて考えて意識を手放しそうになった瞬間、エルサの叫びに紛れて別の声。
それと同時に、俺の体が受け止められる間隔……あれ? 倒れない。
「リクさん、リクさんリクさんリクさんリクさん!!」
「うぐぐ……苦しいのだわ……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「えっと……あれ?」
受け止めらると同時、柔らかい何かに包み込まれるような感覚……これは、抱き締められている? 最初は安らぎすら感じるくらいだったのに、今は息が苦しいくらいような……。
よくわからないけど、聞こえる声は女性のもので、よく聞いた覚えがあるものだった。
俺と俺を包んでいる何かに挟まれたエルサが、苦しそうに声を出し、女性の声の主がそっと離れる。
あぁ、そうか……来てくれたんだ。
「はふぅ……だわ」
「モニカ、さん?」
「そうよ、リクさん。良かった無事で……」
挟まれていた状態から抜け出したエルサが、改めて俺の頭にくっ付きながら息を吐く。
それと一緒に、俺を包んでいた誰かが支えながら、倒れかけていた体勢が直される。
そうして、ようやくはっきりとその何者かを見る事ができて、誰かがわかった。
そうか……モニカさんだったかぁ、道理で聞き覚えのある声だと思った……という事は、さっきの柔らかい感覚は? いや、息も詰まるくらい締め付けられる間隔だったかな? それはモニカさんだったのか。
「えっと、ただいま。モニカさん」
「良かった、本当に良かったわ。ユノちゃんが、リクさんはもしかしたら……なんて事を言っていたから……」
「そうか、ユノが。でも、なんとか戻ってこられたよ」
「うん、うん」
涙ぐみながら話すモニカさん。
ユノは、なんとなくでも俺がどういう状況だったかを把握していたんだろう……創造神と破壊神は表裏一体というか、繋がっている部分もあるらしいから。
破壊神の狙いまではわからなくとも、俺に直接干渉したという事はどうなるか、ある程度覚悟をしていたのかもしれない。
「モニカさん、モニカさんだぁ……」
「え、そ、そうよ。モニカよ? どうしたのリクさん?」
なんだろう、意識が薄れている影響か、それとも破壊神と戦っている時、モニカさんの笑顔を切望していたからか、なんだか思うように言葉が出ない。
泣き笑いに近いけど、ようやくモニカさんの笑顔が見られたと、安心感と一緒に喜びが沸き上がる。
色んな事を言いたいし、言おうと思うんだけど……口からはモニカさんの名しか出て来なかった。
「モニカ、こんな事をしている場合じゃないのだわ。とにかくリクを中に入れて休ませるのだわ」
「そ、そうね! わかったわ。リクさんがこんなに疲れている? とにかく、こんな状態になるなんてよっぽどの事だったのでしょうし! 待っててリクさん、すぐに部屋に連れて行くから!」
「うん……ありがとう……」
そういえば、南側で魔物と戦っていたはずのモニカさんが、どうしてここにいるのか……なんて疑問も沸いてきたけど、声を聞いていたらどうでもよくなってしまった。
エルサの言葉で、モニカさんが俺を支えながら一緒に宿の中へ。
今回は、気絶して運ばれるのではなく、支えられてだけど最後まで頑張りたい。
モニカさんの笑顔を、長く見ていたいから。
「モニカ様、どうかなされま……リク様!」
「報せがあったから、ソフィー達に任せてすぐに戻って来たの! そうしたらリクさんが宿の前で! とにかく、すぐに休ませるので部屋まで!」
「か、畏まりました!」
中に入ると、メイドさんが迎えてくれ、すぐにモニカさんからの言葉で俺を支える人が増える。
以前とは違って宿内の使用人さん達が他にいないのは、今が非常時だからか……。
さすがに、使用人さん達が戦っているなんて事はないだろうけど、他にもやる事があるため宿にいる人が少ないんだと思う。
「ははは……ご迷惑をおかけしますけど、よろしくお願いします……」
モニカさんの顔を見て、緊張が解れたのもあるんだろう……少し前と違って、声にも力が出ない。
意識を失わないようにするので精一杯だ。
「余計な気遣いはしなくていいから、頑張って! もう少しで部屋よリクさん」
「うん……ありがとう、モニカさん。やっぱりモニカさんがいてくれて良かった……」
「なっ!」
「も、モニカ様、急に離れられては……」
「ご、ごめんなさい!」
俺の言葉にモニカさんが返し、メイドさんと左右で俺を支えながら階段を上り始める。
胸に溢れる感謝の気持ちをどうしても伝えたくて、力なくだけど特に考える事なく浮かんだ言葉をモニカさんに伝えたら、急に体勢が崩れた。
逆側で支えてくれているメイドさんが踏ん張り、階段から落ちる事はなかったけど……また俺、変な事言ったかな? とにかく今は、あまり難しい事が考えられないようだ。
謝るモニカさんに再び支えられ、階段を上って部屋へ。
「リク様、お水です」
「あ、ありがとう、ございます……んっ」
「さ、横になって」
「うん……」
部屋のベッドに、支えられながら腰かける。
メイドさんが水を注いでくれたコップを受け取って、喉がカラカラだったのを思い出し、一気に飲み干す。
そういえば、洞窟を調べ始める前から何も口に入れていなかったっけ。
喉が潤って少しだけ楽になった俺は、モニカさんに促されて横になる。
「私はさっさと寝るのだわ……」
「あ、エルサ……お休み」
「エルサちゃんも頑張ったものね。おやすみなさい」
横になる俺の横で丸くなって、すぐに寝入るエルサ。
よっぽど疲れていたんだろう……というか、魔力が少ない影響か。
俺やモニカさんが声をかけるくらいには、既に寝息を立てていた。
「ごめん、モニカさん。俺も少しだけ休むよ……」
「後の事は任せて、ゆっくり休んで。元気になってね?」
「うん……でも、大変な時だから……寝すぎても一日くらい経ったら、起こして欲しいな」
横になった俺の手を握るモニカさんに、謝りながら話しかける。
言われた通り、休めるだけ休みたくはあるけど……さすがに、全部任せて寝続けるわけにはいかないと思い、起こしてくれるようお願いする。
モニカさんの声に導かれて寝たら、安らか過ぎて寝坊する誘惑にかられたけどね――。
リクにとってモニカは、とても安心する相手になっているようです。
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