隔離空間からの脱出
「ま、精々頑張る事ね。次会う時は……干渉力とか、小さい事を気にせず全力で叩き潰すわ」
「それができるかは知らないけど、会わない事を祈っておく方がいい……かな?」
破壊神が、干渉力なしに全力で人間と戦えるのかわからないけど……その時は本当に今より危険な状況になるのは間違いない。
できる事なら、会わないで済むのが一番良さそうだ。
「ユノが近くにいて、私の邪魔をするのならいつか必ず会う事になりそうだけどね。その時を楽しみにしておくわ。それじゃ……」
「あ、ちょっと……行っちゃった?」
俺に背を向けて、手の甲を振りながらスウゥ……と姿を消していく破壊神。
あまりにも唐突にいなくなったので、まるで幻を見ていたかのような錯覚すら感じる。
あっけない幕切れに、拍子抜けしてしまった……。
「っ! 耳がっ!」
キーン! という耳障りな音が聞こえて、思わず手で塞ぐ。
それと共に、神の御所を真似て作ったらしい空間が崩れていく……結界が壊される時に似ているような、ガラスが割れて行くような光景。
気付けば、真っ暗な空間で何も見えない状況で、俺一人がぽつんと立っているような状況だった。
「元に戻れた……? でも、何も見えない……あ、そうか」
本当に元いた洞窟に戻れたのか、疑わしい気持ちで暗い空間を見回す。
ふとそこで思い出した、そういえば洞窟内には明りとかがなくて、元々エルサが明りの魔法を使ってくれていたんだったっけ。
太陽の光も入らぬ洞窟の奥……暗いのは当たり前だよね。
アマリーラさん達、エルサの明りがなくなった後は大丈夫だったのかなぁ?
「えーと……ライト。お、見えた見えた……って、おぉ~」
適当に、光の球を思い浮かべて頭上に出し、はっきりと周囲が見えるようになる……これくらいの魔法なら、魔力はほとんど使わないし、少ない魔力でも問題ない。
間違いなく、さっきまでの空間に隔離される前にいた洞窟の中だ。
その中で、光に照らされて周辺の様子に気付いて、声が漏れた。
周囲には、数体のワイバーンの死骸……パッと見た限り、刃物で斬り裂かれた跡や引き千切られたような跡があった
「ここのワイバーンを倒したのは、多分アマリーラさんとリネルトさんだろうね。で、アマリーラさん達の姿もないって事は、無事に洞窟から出られたって事のはず」
周囲には、ワイバーンの死骸が数体転がっているだけ……他には何もないから、多分アマリーラさん達は無事だったんだろう。
……食べられたとか、恐ろしい想像も浮かんできたけど……光の球に照らされている場所を見る限りでは、そんな痕跡はない。
大丈夫だと信じよう。
「エルサもいないか……でも、繋がりは感じる。外に出たんだろうね」
隔離空間をエルサが出てから、ほとんど感じなくなっていたエルサとの繋がり……契約の繋がりだろう。
それも、今でははっきりと感じるくらいになっているから、エルサも無事だって事だ。
「よし、ここでこうしていても仕方ないし、さっさと外に出よう!」
ワイバーンを調べて何かあるわけでもなし、アマリーラさん達が無事に逃げてくれていた……と思われる形跡を見つけただけで十分だ。
隔離された空間に入って、それなりの時間戦っていたような気もするけど、俺にとっては数時間程度の事。
調査のために洞窟に入って取ってきた経路くらいは覚えている。
「よしよし、ちゃんと覚えているね」
それなりに入り組んだ洞窟だけど、外の明りが見えてきて自分の記憶が正しい事を確認する。
方向音痴じゃないとは思うけど、こんな所で迷ってしまったら時間がもったいないからね。
「うぉ、まぶし!」
洞窟の外に出ると、昼なのか太陽は高い位置……ライトの魔法で洞窟内でも明るくしていたんだけど、やっぱり太陽の光と魔法の光では質が違うのか、眩しさを感じる。
「ん? ふむ……これはワイバーンの足跡、でいいのかな。それが……」
太陽の光から逃れるように、地面に視線を落とすとそこかしこにある、踏み荒らされたような跡。
というか、洞窟から出てきた何者かの足跡……ワイバーンの足の形なんて知らないけど、人の物とは明らかに形が違うし大きい。
統率された足跡のようではないようで、それぞれが自由に動いていたんだろう、乱雑に刻まれた足跡だから正確な数はわからない。
それでも、多分二桁くらいの数はいたんだろうと思われる。
「洞窟内の死骸も考えると、二十体はいたかな? それにこれは、多分アマリーラさん達の足跡っぽい」
ワイバーンの足跡に紛れて、所々小さな足跡が散見される。
俺達が洞窟内に入る際の足跡も、かろうじて残っているみたいだけど、向いている方向が街の方向だ。
多分、ワイバーンに追われながらも、街の方に逃げて行ったのかと思われる。
「ワイバーンは……まぁ、途中で足跡が途切れているから、空を飛んだんだろうね。洞窟から離れると、アマリーラさん達の足跡しか残っていないか。でも、二人が無事なのは間違いない」
追いかけるのを諦めて別の目的のために動いたのか、空から追跡するように切り替えたのかはわからないけど、途中からワイバーンの足跡は完全に途切れている。
何はともあれ、空を飛んだのは間違いなさそうだ。
「よし、疲れは……ちょっとあるけどまだ大丈夫。魔力は心許ないけど……急いでセンテに向かわなきゃ」
足跡を調べるのを切り上げて、体の調子を確認してセンテに向かって走りだす。
エルサがいないから、空を飛んで行く事はできないし……ここからは自分の足で行かないといけない。
「おっと、ごめんよー!」
途中で、魔物ですらない獣とすれ違い、謝りながらも走り続ける。
野生動物っぽかったし、驚かせて悪い事をしたかもね……こちらの言葉が通じたかどうかはわからない。
そもそも、すれ違って声を出した時には既に結構距離ができていたし。
多分、今俺は世界新記録を余裕で叩き出せる速度で走っている……平原とかではなく、山の中だから気が邪魔でそれでも全速力じゃないんだけどね。
「ふぅ、山は下りたけど……うーん、センテまで遠いなぁ。仕方ない……」
山を下りてセンテまで広がっている平原……まだまだ距離はあるけど、障害物らしい障害物はほとんどないので、ここからは全速力を出せる。
走りながら、空にも遠目にも魔物がいないのは、センテの人達が頑張っているからと思いたい――。
「あれは……?」
真っ直ぐセンテに向かって走り、途中で迂回……センテは北側に門がないからなんだけど。
山を下りてから、東門がそろそろ見えるはずという所まで大体三十分もかからなかったかな?
ともかく、東門が見える前に遠くに蠢く何かが見えるのは……魔物か。
「センテが見えるより先に、魔物が見えるって事は中への侵入はそれなりに防いでいるって事……だよね? 絶対じゃないけど、入り込んでいないから外にいるわけで……」
俺から見える蠢く魔物達は、かなりの数がいるようで横に広がっている。
密度とか厚みはさすがにわからないけど……数だけならルジナウムの時より多いだろう。
魔物の総数はわからないけど、それだけの数が街よりも外にいるなら、想像以上に頑張って防衛してくれているのかもしれない――。
想像していたよりも、リクにとって望ましい状況を維持しているのかもしれません。
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