形勢逆転
「言うわね。でも、今度は挑発に乗らないわよ……」
「今回は挑発じゃないよ。まぁ、できるかって言われると、あまり自信はないんだけど。でも、干渉力、尽きかけているでしょ? いや、どれだけ残っているかはっきりとはわからないけど……こうしていても、何もしないのはその証拠かなって」
多分、穴を開けられた影響とか、長い時間話していて消費しているとかなんだろうけど……もう使える干渉力は豊富にないんだと思う。
空間を維持している事以外にも、姿を見せているだけでも干渉力を使うみたいだから。
「そこまでわかっていて、あの駄ドラゴンを先に行かせたの? 一緒に戦った方が良かったかもしれないわよ?」
「まぁ、魔力を分けて協力した方が、なんとかできる確率は上がったんだろうけどね。でも、今はセンテの人達が優先だから」
俺が抜け出すのに一番早い方法は、エルサと協力して破壊神に向かう……だったんだろうけど、魔物が押し寄せているというセンテへの援護をする方が先だからね。
エルサがある程度魔物を蹴散らしてくれれば、人間の犠牲者が減るのは間違いない。
かろうじてエルサが出られる穴を開けられるくらいはできても、俺が出ようとするともう少し時間がかかるだろうから。
「これで心置きなく、時間稼ぎだとか外の様子を考えずに戦えるってわけだね」
「……なに? 破壊神の私を相手に、これまで手加減をしていたって言いたいの?」
「そうじゃないけど……別の事に意識を向けずに、戦えるって事だよ。それにね……はぁっ!」
「ひっ!」
別の事を考えながら戦うっていうのは、意外と集中力が削がれるからね。
加減をしていたわけではないけど、全力と思っていても集中できているかできていないかでは、大分違う。
そして、本当に戦える事を示すため、先程まで破壊神が閃光を放つ時にしていたように、指先を向け、魔力弾を放つ。
「おぉ、怯ませた。まぁ、威力は低いし当然外れても穴はあけられなかったけど」
「あ、あ、あ……リク! その攻撃は!」
「やっぱり、凝縮した魔力なら痛みくらいは与えられるからかな?」
破壊神に向かった魔力弾は簡単に避けられてしまったし、さっき二回使ったのよりも小さく威力は低そうだったけど、向こうにとっては脅威なのは間違いなさそうだ。
短い悲鳴と、焦っている様子がよくわかる。
魔力弾……二度、正確にはアルセイス様の時を合わせて三度使った事で、なんとなくだけど使い方のコツを掴めていた。
とは言っても、空間に穴を開けた時のような威力ではなく、低い威力で使用する魔力も抑えているけど。
少ない魔力だからこそ、凝縮させる時間も減ってそれなりに簡単に放つ事ができる。
「これで、形勢逆転ってとこかな」
「調子に乗るんじゃないわよ……ひぃ!」
なんとなくだけど、小さい威力の魔力弾は閃光を吸収したりする効果はなさそうだ……教えるつもりはないけど。
だけど、破壊神に痛みや傷を与えられるというのは大きい。
実際に、こちらへ言い返そうとした破壊神へ放ってみると、また短い悲鳴を上げて大袈裟に避けた。
「これまで散々調子に乗られたんだから、こっちもちょっとくらい調子に乗っていいんじゃないかな? ふっ! はぁ! とりゃ!」
「ちょ! まっ! ひぃぃぃ! い、痛いのはいやなの!」
魔力弾で反撃するまで、ずっとやられっぱなしだったんだからね。
まぁ、悲鳴を上げる女の子……幼女をいたぶる趣味は一切ないので、面白くはないんだけど。
「これまで、誰かに痛い目にあわされる事はなかったからかな? 避け方が大袈裟過ぎるし、少し先を読んで狙えば、当てられるよ? っと!」
「私は破壊神よ、そんな私に痛みを与える存在なんてそういな……ひぎぃ! 痛いぃ!」
まさか、俺がこんな事を言うなんてなぁ……と思いつつ、破壊神の避ける動きを予測して、右腕に魔力弾を放って当てる。
かなり痛がっているけど、怪我をしている程ではないみたいだし……やっぱり痛みに慣れていないんだろう、もしかしたら、額に当たった時の駄々っ子モードは半分以上本気だったのかもしれない。
ともあれ、ユノのように達人級の技量があるわけでもないようで、エアラハールさんに指導されている甲斐あってか、無駄な動きの隙を狙うのは簡単な事だった。
「こんのぉ!」
「おっと……! 光を放つと、また魔力弾が吸収しそうだけど?」
破壊神からやみくもに放たれる閃光……狙いなんてあってないようなものだったから、簡単に避けられた。
「くっ! 調子に乗って!」
実際には、小さい魔力弾の方は吸収するような性質はなさそうだけど……破壊神は閃光を使うのを止めたようだ。
これで、閃光はほぼ封じた状態だね。
「それじゃあこっちはどう!」
「……多重曲面結界!」
今度は衝撃。
こちらは、エルサが頑張って防いでくれた時に見せてくれたので、多重に結界……それも曲面の結界を張って対処。
さすがに、衝撃が当たる場所を強化する事はできない、ただの丸みがある結界だけど、それでも十分に効果が出たみたいだ。
十数個の結界を破壊したあたりで、衝撃が完全に勢いを失った……張った結界の残りは、五個くらいか。
もう少し節約できそうだ。
「そんなっ!」
「余裕があったからだろうけど、遊び過ぎたね。圧倒的な力でも、なんとか対処できるもんだよ」
衝撃も閃光も、対処法を考えさせる前に俺を仕留めるように使っていたら、どうにもできなかったんだろうけど。
とはいえ、本当の本当に圧倒的な力……干渉力という制限がない、破壊神本来の力だったら、俺がどう対処しようとしても何もできないんだろう。
「それはリクが異常な魔力を持っているからよ! ほんと、どうなっているの、かなりの魔力を使っているはずなのに……」
どうなっていると言われてもなぁ……ルジナウムでの戦闘、あの時の戦闘がきっかけで魔力が増えたらしいから、その影響が大きい。
それまでの俺だったら、一度目の魔力弾を放てたかどうか……連続で撃たれる閃光や衝撃を耐えていた時点で、かなり魔力が少なくなっていたと思う。
とは言っても、実際は余裕を持てるほどの魔力が残っているわけではなく、だからこその小さい魔力弾なんだけど。
さすがにこれを悟られるわけにはいかないので、余裕で調子に乗っている態度は崩さない。
破壊神の方は、すっかり余裕を失くしているおかげで、こちらの考えを読まれていないのが幸いだ。
「どうなっているの、っていうのは俺のセリフでもあるんだけど……」
まぁ、神だからという理由で、破壊神のとんでもない攻撃力やらなんかは、一応納得できる。
理解はできないけど、神だのなんだのっていうのは人知の及ばない相手だから、考えるだけ無駄かもしれないけど。
「さて……どうしたもんか。と言っても、やる事は決まっているんだけど……ねっ!」
「きゃっ! ちょっと痛いじゃない! いきなりなんて卑怯よ!」
不意を突いたわけじゃないけど、ほぼ予備動作なく適当な狙いで破壊神に魔力弾を放つ。
戸惑ったり考えたり、混乱していて忙しかったりしたため、反応が遅れた破壊神は左手に魔力弾を受けた……それでも、痛いで済むし怪我もしていないんだけど。
狙いが適当だったので、当たっただけ良しとするか……はぁ、ほんと反則だな――。
どんな攻撃を受けても、痛いだけで済ませるのはほぼ反則級かもしれません。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






