演習訓練の趣旨
「なに、その時は土を元に戻すだけだな。訓練にもなる」
「……さっきの訓練をもう一度って事ですか。確かに鍛えられそうですけど……はぁ、わかりました」
厳しい訓練を課される兵士さん達には、同情を禁じ得ないけど……今後にもしもの事がと考えれば、シュットラウルさんが鍛えようとする意図もわからなくもない。
戦争になる可能性が高いし、場所的に直接拘わらなくても兵士を派遣したりはするだろう、それに、サマナースケルトンとエルフの村での事を考えたら、やっておいて損はない。
兵士さん達が潰れたりしなければだけど……その辺りは、アマリーラさん達獣人の傭兵さん達が結構上手くやっているらしい。
基本的な身体能力が上の獣人さん達を見て、軍として対抗しようと発奮するとかなんとか……上手いバランスでお互いの刺激にしているとかなんとか。
「防衛のための訓練をするのはわかりましたけど……私達は何をするんですか?」
「設営も何もかも、リクがいれば十分な気がします」
「私はずっと冒険者ギルドの建物内にこもる事が多かったから、気分転換になっていいのですけど……」
「……魔物のあれやこれや、もっと調べたい……」
俺が了承した後には、モニカさん達からシュットラウルさんへの疑問。
確かに、魔法は俺が使うだけで陣地ができ上がるし、モニカさん達まで一緒に来た理由にはならない。
フィリーナはともかく、カイツさんは運ばれてくる魔物を調べてくれていたんだけど、そちらばかりが気になるのを、ちょっと無理矢理引っ張って来たからね……フィリーナが。
カイツさんの様子を見ていると、ブハギムノングにいたモリーツさんを思い出して、ちょっと心配になってしまう。
「モニカ殿達は、攻勢に出る役をやってもらいたい。全力で戦って欲しい」
「……えーっと、全力でと言われましても」
「相手は、先程整列していた兵士達相手なのでしょう? さすがにこちらの人数が足りませんが……」
「人数差は、リク殿やユノ殿にも参加してもらおうと思っている」
「それなら確かに、こちらの人数が足らないって事はありませんね。でも、むしろ私達が必要なのかどうか……」
「強固な壁を作っても、リクとユノが破壊して蹂躙して、それで終わりそうですね」
いや、さすがに俺でも蹂躙なんて……前回の演習時、バーサーカーモードとやらになったので、強く否定はできないんだけど……でもさすがに、あの時のような事はもうしないよう気を付ける。
あと、自分で作った壁を自分で破壊って、ちょっとなぁ……。
「それは最初に私も思ったのだが……」
「ここからは私が」
モニカさんとソフィーに言われ、難しい表情をするシュットラウルさん。
それを見かねたのかなんなのか、執事さんが進み出て今回の演習計画について教えてもらう。
なんでも、執事さんとシュットラウルさん、アマリーラさん達が相談し合って、今回の演習計画が決まったらしい。
その時問題になるのが、俺やユノといった一人でも戦えてしまう存在。
そこで、俺は後方からの援護に徹し、突撃はしない事。
ユノは魔法を使わないので、前線で戦うけど作った壁は壊さない事。
モニカさんやソフィー、フィネさんだけでなくフィリーナやカイツさんまで呼んだのは、後方で魔法を使うエルフと前衛を務めるモニカさん達とでバランスが良さそうだからという理由。
さらに、ユノが前衛で俺が後衛に回る事で、五百の兵士達との均衡が保てるだろうと考えたからだったらしい。
ちなみに、陣地にこもって防衛する兵士さん達には、近接武器と魔法の使用の許可はされるが、壁を越えて俺達側へ来る人数は制限する事と、弓矢は使わないなど、兵士さん達側にもある程度制約を設けているようだ。
……弓矢を使わないのは、バランスをとるためというよりも予算の関係っぽいけど。
「といったわけでして。是非、皆様にはご協力願いたく思います。もちろん、今回の演習は通常の訓練とは違うため、事後承諾の形となりますが冒険者ギルドへの依頼として、報酬も用意しておりますゆえ」
「……冒険者としての依頼なら、いいのかしら?」
「まぁ、ギルドに向けての実績にはなるな。報酬ももらえるようだし、元々断るつもりは私達にはなかったからな」
「そうですね、私も騎士として冒険者として、こういった訓練には興味もありますから」
執事さんの説明に、モニカさんやソフィー、フィネさんが頷く……フィリーナも頷いているけど、カイツさんは微妙な表情だ。
断りたいというよりも、早く冒険者ギルドに戻って魔物を調べたいだけなんだろうけど。
「演習の目的やその他諸々はわかりました。けど……いいんですか?」
「む、なにがだ? 報酬の方なら、期待していいぞ。まぁ、陛下から褒賞が出ているモニカ殿達にとっては、あまり多いとは言えないかもしれないが……」
「報酬がもらえるというだけで、十分ですからお気になさらず。そうではなくて、リクさんが魔法で後方支援って……」
「あぁ、そこは私も気になったな」
「む?」
モニカさんが頷いた後、シュットラウルさんを窺うように見る。
何やら気になる事があるようで、それは報酬ではないらしいけど……って、俺の魔法?
ソフィーもモニカさんの言葉に頷いているし、そんなに俺の魔法って心配になる事かな? いや、俺自身失敗したと思う事が多くて、自信をもって大丈夫とは言えないんだけど。
「リクさんが後方から魔法を使う。それだけで、下手したら兵士達が壊滅するかもしれませんよ?」
「最悪の場合、私達も巻き込んでここら一帯荒野に……」
「いやいやいや、さすがに俺でもそこまでの失敗はもうしないよ!」
さすがに、モニカさんとソフィーが心配し過ぎというか、大袈裟だと思ったので、大きな声で突っ込んでおく。
俺だって加減をする意思はあるし、ただの訓練、演習なんだから荒野にするような魔法は使わないから。
……ここ、突っ込むべきところで合っているよね?
「……も、もう?」
「ヘルサルに作られた農地……あそこって以前は林だったんです」
俺の言葉で気になる部分を復唱するシュットラウルさんに、ソフィーから伝えられる。
ま、まぁ、そんな事もあったかなぁ? ゴブリン達の時はちょっとだけ理性がなくなっていたし、魔法を使い慣れていなかった。
「そ、それは私も自分の領地の事だから、知っているが……そんなにか?」
「あと、ソフィー達は見た事がないでしょうけど、まだリクさんが冒険者になる前に……」
「「「「「……」」」」」
さらにモニカさんが話したのは、冒険者になる前にエルサと契約してすぐ、魔法をお試しで使った時の事だ……そういえば、見渡す限り一面を凍りつかせていたっけなぁ。
よく考えれば、あの凍った範囲ってヘルサル農園より広かったような……? うん、気のせいだね。
シュットラウルさんや執事さんだけでなく、まだその場にいなかったソフィーやフィネさん、フィリーナやカイツさんまで加わって、皆絶句しながら俺を見た。
いやぁ、そんなに見られると恥ずかしいなぁ……なんて照れたフリをしている空気じゃないね、これは――。
リクが魔法の失敗をすると、場合によってはとてつもない被害が出そうです。
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