エルサの感じる気配
フィリーナやカイツさんから、ワイバーンの調査報告を聞いた後、冒険者ギルドを出て庁舎へ。
帝国の組織が関係している事が、ほぼ確定されたのでその報告をシュットラウルさんにする。
その後は、モニカさん達と合流するのも考えたけど、先に周辺調査を開始しているので俺は単独で動く事にした。
単独とはいっても、エルサも一緒なんだけど。
ちなみに、フィリーナとカイツさんはワイバーンはもう調べ尽くしたと言ってはいたけど、まだ何か見逃している事がないか調べてみるとの事で、冒険者ギルドに残った。
エルサと昼食を済ませた後、センテの東門から出て周辺の調査……。
「一度、空を飛んで周辺をザッと見てみよう。これまで成果はなかったけど、今日はワイバーンか何かが見つかるかもしれないし」
「適当に飛べばいいのだわ?」
「うん、そうだね。まぁ、センテから離れ過ぎないようにお願いするよ」
「わかったのだわー」
何かが見つかる事を期待して、大きくなったエルサに乗って空からの調査。
ワイバーンを探してばかりだったけど、見下ろす事で何か見つかる可能性があるかもしれないし、偶然ワイバーンを見つける事だってできるかもしれないからね。
決定的な何かの発見は期待していますけど、こういった調査はこういう地道な作業の繰り返しかな。
……遊覧気分で空を飛ぶ事が、地道なのどうかは微妙だけども。
「んー、やっぱり何も見つからないなぁ……」
「前にも見たのだわ。簡単に見つかるものでもないのだわ」
「そうなんだけど」
しばらくエルサに乗って、センテ周辺を回ってみたけど……当然ながらというかなんというか、何も見つからない。
地上を見下ろせば魔物らしき姿が見えはするけど、時折センテ周辺では少し珍しい魔物がいるくらいで、これといった発見はできなかった。
エルサの言う通り、確かに簡単に見つかったりはしないんだろうけど……何か成果が欲しいかなと思ったり。
「うーん、確かに魔物は増えている……ような気はするんだけど。センテ周辺には詳しくないから、言われなければこんなものかな? って程度とも言えるけど」
センテ南側を見て回ると、他の場所より魔物を発見する頻度は多い。
それでも、ルジナウムみたいに集結しているわけでもないので、何も言われなければ気にする程じゃない。
まぁ、毎日冒険者さん達が討伐に出ても、数が減らないとなればそれは確かに不自然な事だろうけども。
「エルサはどう思う? 今回の事、確実に帝国の組織が関わっていると思うんだけど……」
「知らないのだわ。私はキューを食べて、優雅に飛べればそれでいいのだわー」
一人で考えていても、何も考えが浮かばないのでエルサに聞いてみるけど、そちらは飛ぶ事が気持ちいいのか、暢気な答えが返ってくるだけだった。
……センテの人達って、巨大な農地の作物を集積したり各地へ送ったりしているから、エルサの好きなキューを食べるにしても重要な場所なんだけど。
「……でも、なんだか嫌な感じはするのだわ」
「嫌な感じ?」
少しは気にして欲しいなぁ、と思ってどういおうか考えていると、エルサから少し低めの真剣味のある声。
エルサも今回の事で、何か感じているのだろうか?
「一度ワイバーンを見つけて以来、新しいワイバーンが見つかっていないのだわ」
「そうだね。でも、魔物の死骸は新しく追加されている。ワイバーンを使ってやっているとなると、必ずどこかにいるはずなんだけど」
そもそも、怪しい箇所がないか周辺を探る以外に、空を飛んでいるワイバーンが見つからないかも探すために、今エルサに乗っているんだからね。
人が見つけにくい高高度を飛んでいても、エルサに乗っていれば見つけられるだろうし。
「何か、こちらの行動をわかっているような……見られているような気持ち悪さなのだわ」
「見られている……?」
それはつまり、俺達の行動を把握していてワイバーンが見つからないように、動いている……という事かな?
「最初にワイバーンを見つけるまでは、特に気になる感じはなかったのだわ。だけどそれから、嫌な感じが日に日に増えている気がするのだわ」
「うーん………」
確かに、俺達の行動を把握していればワイバーンを隠す事も難しくはない、のかもしれない。
街中では目立っているけど、どういう調査をするのかなんて、他に漏らしたりしていないからわからないと思うんだけどなぁ。
今日こうしてエルサに乗っているのだって、ほとんど突発的に行った事だから、もし誰かが情報を漏らしていたとしても、わかる事じゃない。
でも、ワイバーンは見つからない……まぁ、逆に今日が偶然見つからないだけとも言えるんだけど。
そう考えたりすると、何が偶然で何が必然かわからなくなってくる。
ともあれ、誰かが俺達を監視して情報を漏らしている可能性……というのは考えなくちゃいけないのかもしれない。
モニカさん達はともかく、シュットラウルさんやアマリーラさん達は……あまり疑いたくないな。
「あ、でもユノは何も言わないから、近くにいるわけじゃないのかな?」
「ユノは切羽詰まった状況にならない限り、今の状態を楽しんでいるのだわ。神ではなく、人間としてつまらないと思っていた、自分が創ったこの世界を」
「……確かに、楽しんでいるね」
世界を楽しむというより、子供の見た目そのままに遊びを楽しんでいる感じではあるけど。
「とはいえ、さすがのユノも近くに何かがあれば気付くのだわ。今はほぼ人間でも、本質は創造の神。生を司るのだから、人々が苦しむ事に対しては寛容にはならないのだわ。特に、リクやモニカ達に及ぶのなら全力で排除するはずなのだわ」
「まぁ、そりゃそうか……俺達はともかく、今までユノも魔物と戦う事に協力してくれていたからね。……となると、近くじゃないのか」
確かにユノは創造神……らしい。
宿の中で鬼ごっこをして遊んでいる場面を見ると、とてもそうは見えないけど……とにかく創造神だ。
そのユノが多くの人に悪影響を及ぼしそうな事を、見逃したりはしないか。
少なくとも、俺より鋭いから近くに怪しい人物や疑わしい人物がいれば、何か知ら気付いていてもおかしくない。
そうなると、一度は疑いかけたシュットラウルさん側の人達は多分大丈夫。
でも、それなら一体どうやって俺達の情報を……?
「そもそも、私が言っているのは、誰かに本当に見られているとか、そういう事じゃないのだわ」
「え、そういう話じゃなかったのか? 俺達の行動が筒抜けだから、ワイバーンが見つからないとか……」
「もしかしたらそういう可能性もあるのだわ。けど、私が言っているのは、嫌な気配のようなものがこの辺り一帯を包もうとしている……そんな感覚なのだわ」
「嫌な気配に包まれる?」
エルサは、誰かに見られていたりスパイ的な存在がいる、とかそういう事が言いたいわけじゃなかったようだ。
この辺り一帯って事は、どこまでの範囲かはともかくセンテ周辺って事。
エルサの言う嫌な気配がどういうものなのか、俺にはわからないけど……いやでも、確かに何か気持ち悪さのようなものがある気はする。
それは、調査を続けてもはっきりとした事がわからないせいなのかもしれない。
何かを狙っているんだろうけど、それが何かがわからない気持ち悪さがある。
俺が感じている事と、エルサが感じている事はもしかしたら違うのかもしれないけど……。
リクもエルサも、何かの思惑のような何かの気配が濃くなっているのを感じているのかもしれません。
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