もう一人別のエルフ
「成る程……という事は、リクの治癒魔法と同じような効果って事なのかもしれないわね」
「俺の?」
治癒魔法といえば、エルフの集落に行った際にユノやエルサを相手に、開発したというか作ったというか……ともあれ、イメージをはっきりできるようにして、使えるようになった魔法だ。
あれは自然治癒能力を増幅させて……というイメージだたけど、思った以上の効果が出た。
エルフの集落では、俺達が行く前に魔物の襲撃を受けていて怪我人が多く、中には骨が折れているだけでなく、部位欠損しているエルフだっていた。
それらも全て、治癒魔法で治療でき、腕や足が欠落しているエルフに新しい部位が生えて来ていたから、同じような効果なんだろう。
……今考えても、新しく生えてくるほどの治癒効果って、凄まじいね……俺がやった事ではあるけど。
「魔法の効果もそうだけど、それに使っている魔力も尋常じゃないはず。でも、リクの話では魔力量は少なかったと……わからないわね」
「少なくとも、王城で見たワイバーンより格段に少なかったよ。それこそ、街にいる人間と大差ないくらいだったかな」
「……他に、変わった様子はなかった?」
「んー、そうだね……」
再生するワイバーンと戦って、気になる事は特に多くない。
斬り取った部位や、怪我を再生するというインパクトが強すぎるせいだけど……うーん。
そういえば、動きが鈍いというか、通常のワイバーンよりも弱かった気がしなくもない……火も吹いたりもしなかったし。
ただこれに関しては、先制攻撃を加えたのでワイバーン側に余裕がなかったせいと考えられなくもないし、俺自身が以前よりも成長しているからという可能性もある。
エアラハールさんとの訓練もやっているから、前よりはマシになっているはずだし、魔力量も増えたらしいから。
「そう……まぁとにかく、私は明日からリクが持ち込んだワイバーンを調べてみる事にするわ。何かわかればいんだけど……いえ、自然発生ではなく誰かが何かを施したのであれば、必ず何かがあるはずだから」
「うん。そういった魔法的な研究とか調査は、俺達じゃわからないからね。フィリーナがいてくれてありがたいよ。あ、でも……」
フィリーナに調べてもらうのはいいとして、そういえばと思い出した。
「明日って、農地のハウス化をしなきゃいけなかったよね……?」
「言われてみればそうね。魔法講義をしていても忘れてはいなかったのだけど、リク達が運び込んできたワイバーンを見て、吹っ飛んでいたわ」
「ワイバーンなどの調査も重要だが、農地の事も重要なのだから、忘れてもらっては困るが……どうしたものか」
明日は二か所目の農地へ行って、ハウス化をする予定の日だから、フィリーナがワイバーンを調べる時間がない事に気が付く。
フィリーナ自身も、ワイバーンの事を考えて頭から抜けていたらしい……ここらは、兄のアルネと似ているなぁと感じる……いや、エルフの特徴かもしれないけど。
そんな俺達を、ジト目で見てから考え込むシュットラウルさん。
ハウス化の日を伸ばした方が良さそうではあるけど、結界を張った後の農地の状態を整えたり、開墾や作付けをしたりもあるはずだから、やるとなったら早い方がいいとは思う。
「……こんな事なら、アルネを連れて来るべきだったわね」
「アルネはアルネで、王都で研究に没頭しているだろうからなぁ……」
ここにアルネがいれば、確かに役割分担ができただろうけど……いないものは仕方ない。
「ワイバーンの方は、早急に調べる必要がありそうだな。フィリーナ殿、日数はどれくらいかかりそうだ?」
「そうですね……正直なところ、すぐに結果が出るかは調査を開始してみないとわかりません。一日や二日で結果が出るとはとても……ですが、生きていないワイバーンなので、どんどん劣化して行く物と思われます」
「だとしたら、農地の方を遅らせるしかあるまいな。あちらは、数日遅れる程度では大きな影響もないだろう」
「……すみません、シュットラウルさん。急に予定を変更する事になってしまって」
「なに、ワイバーンの方もセンテ付近で起きている何か、に拘わるかもしれぬからな」
フィリーナに聞いたシュットラウルさんが、ハウス化を遅らせる事を決める。
確かに、生きていないワイバーンの素材は、適切に保存していたとしても時間が経つにつれて劣化してしまう。
まぁ、皮とかを何かに使うくらいなら、ある程度は大丈夫なはずだけど……フィリーナが調べる内容を考えると、早いうちに調べるに越した事はない。
突然予定を変える事になってしまったので、シュットラウルさんには謝っておく。
「はぁ……誰かもう一人、エルフがいてくれれば……」
「ワイバーンを調べるのは、エルフであれば誰でも良いのか?」
「……さすがにエルフであれば誰でも、というわけではありませんが……多くのエルフは魔法研究にある程度詳しいので。まぁ、エルフがこの近くに来ている事はなさそうなので、残念ですが……」
エルフは魔法技術に詳しく、特に男性エルフは研究をしている事が多い……エヴァルトさんは別っぽいけど。
だからだろう、フィリーナがここにはいないだろうエルフを求めて、溜め息を吐きながら呟く。
エルフだから誰でもいいというわけではなく、ある程度魔法研究している人に限られるらしいけど……確かに誰かもう一人いてくれたら、作業を手分けできるのになぁ。
俺達じゃ、ワイバーンを調べる事もクォンツァイタの魔法具化もできないから。
「……リネルトからの報告でな。今日このセンテの中でエルフを見かけたのだそうだ。リク殿達の話の後に、言おうとしていたのだがな」
「「えぇ!?」」
シュットラウルさんから、驚きの言葉。
思わず声を出す俺とフィリーナ……料理に夢中なエルサやユノを除いて、他の皆も驚いているようだ。
「それは……フィリーナを見かけた、とかではないんですか?」
「いや、違ったそうだ。リネルトが、最初フィリーナ殿だと思ったらしくてな……センテには他にエルフがいないはずだからな」
「そもそも、私は今日冒険者ギルドにずっといたから、朝ギルドへ行く時とリク達と合流してから以外は、外を出歩いていないわ……でも、一体誰が……」
フィリーナを見かけたわけではないらしい……本当に、このセンテにエルフが?
エルフの村はヘルサルから大分南に行った場所にあるため、かなり遠い。
最近は人間や獣人を受け入れて、開かれた村になって来ているけど、そこから離れて旅をするエルフっていうのはほとんどいない……根本的に引きこもりが多いのだと、以前フィリーナは苦笑していた。
そのエルフが、人間との関わりが多くなって来たからといって、センテにいるとはとても思えなかったんだけど……。
「リネルトが、声をかけたらしいのだが……」
シュットラウルさんの話によると、聞き込みをしていたリネルトさんが、外を歩くエルフを見かけてフィリーナだと勘違い。
冒険者ギルドで魔法の講義をしているはずなのに、と思って不思議に感じて声をかけたらしい。
だけど、実際に声をかけたらフィリーナではなく、別のエルフだったと――。
センテに、フィリーナやアルネ以外のエルフが来ているようです。
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