ワイバーンへの奇襲は成功
「せやぁっ!」
「えいっなの!」
「グギャ!!」
「ググ? ギャギー!」
林の中を、急ぎつつもできるだけ音を出さないよう進み、中央付近のワイバーンが目視できるくらいまで近付いたところから、一気に駆け寄ってユノと同時に仕掛ける。
ちなみに見た目は、魔力反応の大きさの違いはあれど、王都で戦ったワイバーンとの違いは見らない……少しサイズが小さいくらいかな?
探知魔法の反応通り、二体並んでいたワイバーンはこちらに背を向けた状態で、魔物と思われる何かを食べている最中で、駆け込んできた俺とユノへの反応は鈍い。
おかげで狙い通り、左にいるワイバーンの左翼を根元近くから斬り裂く事ができた。
俺が翼を斬り取ったワイバーンも、ユノが向かった右側のワイバーンも、人ならざる声を上げる……悲鳴だろう。
って、俺には翼を狙えって言ったのに……。
「ユノ、翼を狙うんじゃなかったっけ?」
「私は大丈夫なの。飛んで逃げられないうちに、止めを刺せるの」
「……さいですか」
振り切った剣を持ち直し、片翼が斬られてもがいているワイバーンに向かって構えながら、ユノに聞く。
同じように、剣を構え直したユノの方のワイバーンは、翼ではなく両足を斬り取られていて、地面に突っ伏してもがいていた。
まぁ、ユノの技術なら飛んで逃げられる前に倒すのは簡単なんだろうけど、両足を斬り取るくらいなら翼を斬り取るのも簡単だろうに……。
「さて、食べていたのはやっぱり魔物か……話ができる相手じゃないし、詳しくは後で調べるとして……って、え?」
「グググ……」
「ギギギ……」
俺達の襲撃で、食べていた魔物は地面に落ちている……食べかけなのであまり見たくないけど、大きさからゴブリンだと思われた。
林に元々いた魔物なんだろうけど、そちらも含めて周辺を調べるのは後にするとして、さっさとワイバーンを倒してしまおうと考えた矢先に、様子がおかしい事に気付いた。
二体のワイバーンは、変わらずもがいているけど……逃げようとするわけでもなく、声を出すだけだ。
何かを待っているようにも見えるけど……? うん?
「あれ、再生していないか?」
「……みたいなの」
みるみるうちに斬り取られたはずの部位、翼や足が再生していくワイバーン。
斬り取った部分が繋がるとかではなく、そのままの再生……新しい翼や足が生えてきている。
一部の魔物など、再生力の強い魔物がいるとは聞いているけど、ワイバーンがこんな風に再生するなんて聞いた事がない。
まぁ、王都で戦った時のワイバーンは、大体俺が一刀両断したりエルサが燃やしたりしていたから、再生する瞬間を見る余地はなかったんだけど……。
「ワイバーンって、再生力が強い魔物だったっけ?」
「そんなはずないの。生命力は強いけど、今みたいに新しく生えて来るなんてしないはずなの」
「そ、そうだよな。だったら……やっぱり何かの研究の成果、とかか?」
見た目は翼の生えたトカゲに近い……まぁ、俺がイメージするドラゴンとか竜なんかを、小型化したような姿のワイバーン。
トカゲの尻尾のように、再生力が強いのかも? と思ったけどユノには否定された。
となると、可能性としては普通のワイバーンではなく、何かしらの方法で作り出されたワイバーンであるのかもしれない。
エクスプロジオンオーガとかみたいに、爆発力を強化されているような、再生力を強化する研究がされていても不思議じゃない。
「でも、魔力にそこまで不自然な点はなかったんだけど……いや、魔力量が低かったのはなんらかの影響があったからかもしれない。とにかく、倒してしまおう」
俺達が悠長に話している間に、二体のワイバーンほぼほぼ再生を終えるくらいになっていた。
俺が斬り取った翼は新しく生え、ユノが斬り取った両足もまた新しく……あっちは、足先の指? がまだ完全じゃないみたいだけど。
とにかく、ワイバーン相手に話しは通じないだろうし、調べるにしても生け捕りも難しそうだ……傷付けても再生するからね。
捕まえるための道具なんかもないため、倒すしかないと判断。
ユノと俺は再生が完全に終わる前に剣を振るい、ワイバーンを倒した。
その際、ちょっといたぶるようになってワイバーンには申し訳なかったけど、一瞬で息の根を止めるのではなく、ある程度何度か剣を振るって倒した。
やっぱり、部分に拘わらず生きていれば再生する事がわかる。
他にも、動くのに支障が出る程の傷を負った場合は、再生に集中するためワイバーンの動きが鈍ったり、ほぼ動かなくなる事。
他にも、圧倒的にこちらが優位なのにもかかわらず、ワイバーンが逃げる素振りを見せなかった事などが観察できた。
正直、やっていてあんまり気分のいいものじゃなかったけど、相手の事を知るために必要だったから……ここにいるワイバーンを倒しても、全てが解決するわけではなく、わからない事が多過ぎるからね。
そして、最終的に首を落としてしまえばもう再生をする事はなかった……いや、一瞬だけ斬り取った首の断面がうごめいて再生しようとしていたぽいけど、すぐに絶命して再生できなかったんだと思う。
「……ちょっと気持ち悪いな」
「リクはもう少し耐性を付けた方がいいの」
「いや、平和な日本で暮らしていた人間からすると、これでも随分耐性が付いた方だと思うんだけどなぁ」
斬っては再生させ、最後には斬り取った断面を観察……周囲にはワイバーンが食い荒らしたと思われる、魔物の死骸。
多分この世界に来てすぐの俺なら、耐えられなかっただろう光景が広がっていた。
……これでも、グロテスクな物への耐性が随分できたと思うんだけどなぁ……ユノからするとまだまだだったみたいだ、中々厳しい。
暗いから細部まで見えないのが多いけど、明るい所だったらさらに酷い事になっていたかもしれない、俺が。
「さて、と。それじゃ皆を呼ぼうか。探知魔法で周辺をちょっと調べたけど、ほとんどの魔物を倒しているみたいだし」
「こんな場所に呼ぶなんて、リクも中々なの」
「いや、そうかもしれないけどさ……皆、俺より耐性ありそう、というかあると思うんだ」
俺やユノだけで調べるのではなく、皆を呼んで一緒に調べた方がいいと思い、呼ぼうとするとユノから呆れ顔をされた。
確かに、モニカさん達は女性だし、惨状とも言える状況の場所に呼ぶのは酷だと、通常なら思うのかもしれない。
でも、センテの南で調査をしていた時、魔物死骸とか平気な顔して触っていたしなぁ……食べられた痕を調べるとか、解剖に近い事もしていたし。
俺も顔をしかめるくらいだったのに……。
ソフィーとフィネさんは、冒険者としてそれなり長く活動しているし、モニカさんは獅子亭で色々慣れているからなんだろうと思う……調理とかね、うん。
「とにかく、皆を呼ぼう。じゃないと、周辺の魔物が殲滅されそうだからね」
「魔物がいなくなるのは、いい事なの」
魔物が減れば、それだけ危険は少なくなるのは確かだけど、その後の処理に時間がかかる。
オークなどはモニカさんが持って帰って、換金しようとするだろうし、それだけでも相当な荷物だ。
討伐証明部位を切り取るだけの魔物であっても、腐ったり他の魔物を寄せ付けないために、埋める必要があるからね――。
切羽詰まった状況でなければ、魔物を倒す際にはその後の計画も大事なようです。
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