演習の終了とやり過ぎた責任を取る
「それじゃ、演習は……」
「もう続けられないの。今リクに向かって行こうと考える人は、ほとんどいないの。日を改めて心を落ち着ければ別だけど……なの」
怯えた目をした兵士さん達のほとんどが、俺が目を向けると後退りをする。
この状態だと、確かにユノが言うように演習を続けるのは、効果的じゃなさそうだね。
怖がらなくても……とは思うけど、俺がやり過ぎた結果だから仕方がない……反省しないと。
「えーと……あ、大隊長さん。演習は終了にしましょうか?」
「え、あ、うむ……そうですな。皆の動きが完全に止まったので見に来たのですが……兵士達も休息が必要なようです。演習は終了させましょう」
「あ、はい」
とはいえ、兵士さん達はまだ俺を包囲している状態……終了の宣言とかしてもいいのかな? と思って見回していると、包囲の外側から馬に乗ってこちらに来る大隊長さんを発見。
馬に乗っているため、視点が高いからか歩兵隊の隙間を通りつつ、唖然としながら周辺を見ていたので、声をかける。
大隊長さんは、兵士さん達にもう戦意がなく、継続が難しい事を理解して俺の問いに頷いた。
「戦意喪失により、全員戦線離脱扱いとする! 演習終了! 各自怪我人の手当てをしてやれ!」
「「「「「は……了解しました!」」」」」
大隊長さんの宣言で、演習は終了。
号令に対し、一瞬なんの事かわからない様子の兵士さん達だけど、すぐに正気に戻って退避を始める。
怯えた雰囲気や、緊張感みたいなものが漂っていたけど、ようやく弛緩した空気が流れ始めた……一部はまだ、怯えた視線を俺に投げかけていたけど、まぁこれは俺の自業自得だから仕方ない。
……加減が上手くできなくて、ごめんなさい。
「あ、ちょっと待って下さい!」
「っ!?」
「リク様、どうかされましたか?」
ぼんやりと兵士さん達の動きを見ていて、怪我をした人達の応急手当てや、運んで行こうとしているのに気付き、静止する。
一部の兵士さんが体をビクッとさせていたけど、攻撃とかしませんから。
俺がやり過ぎた事だから、責任は取らないと……見た所、致命傷と言えるほどの深手を負っている人はいないけど、絶対骨が折れているとわかる人も結構いるからね。
後遺症とか残っちゃったら、いけないし。
「治療は俺が責任をもって行います。なので……そうですね、手間をかけてすみませんが、怪我をした人を俺の前に並ばせて下さい」
「は……リク様がですか? 並ばせるのは構いませんが……一人で手当てができる人数ではありません」
「大丈夫です。手当というか、そのまま治療ですから。えーと、できれば怪我の酷い人からでお願いします。軽い人は、最後の方で……」
戸惑う大隊長さんに、何でもない事のように伝えて並ばせるようお願いする。
痛みが強いだろうから、重傷の人はできるだけ先に治療してあげたい。
俺の治療は消毒したり包帯を巻いたり、といった一般的な手当てではなく、そのまま治療……魔法で自然治癒力を引き上げて、酷い怪我を治すものだ。
エルフの村で部位欠損すら治療してしまったのは、自分でも驚いたけど。
その後、大隊長さんの指示の下、無事な兵士さんが俺の前に怪我人を連れて来て並べ、治療に当たった。
何故か、ユノが楽しそうに列整理をしていたけど……特に何もないのに「列を乱さないで下さいなの! 徹夜で並ぶのは規則違反ですなの!」とかは言わなくて良かったと思う。
日本にいた時の知識なんだろうけど、怪我をした兵士さん達が不思議そうにしていたから。
怪我して動けない人もいるのに、列を乱すとか、徹夜で並ぶなんてできないって……。
ユノの声に苦笑しながら、自分のした責任として、怪我をした人たちの治療……指示を出す大隊長さんは、俺の近くで様子を見ていたけど……治療した本人以上に、大隊長さんが一番驚いていたけど。
その時、「戦力として以上に、軍に多大な継戦能力を与える治療の方が……」とか、「だがやはり、演習とはいえ五百名の兵士を相手に、一人でこれ程の戦果を出せる方が……」なんて呟いたりしていた――。
ちなみに、怪我人の中で重傷者は中隊長さんや小隊長さんなど、隊長格の人が多かった……俺、無意識のうちに兵士さんの中から強そうな人を探し出して、向かって行っていたらしい。
探知魔法で周囲を把握していたおかげ、かな?
「……リク殿、予想以上どころか、もはや予想する事すら意味がないように思うのだが?」
「どんな予想をしていたのかわかりませんけど、意味がないとまでは……」
「さすがリク様です。五百名の兵士を相手に、たった一人で一歩も引かずに戦い抜くとは……正直、これほどとは思っていませんでした」
途中で騎馬隊で怪我をした人たちも合流し、全兵士さん達の治療を終わらせた後、日が沈み始めたのを感じながら、呆れ顔のシュットラウルさんの所へ。
予想に意味がないなんて事はないと思うけど……それはともかく。
賛辞を送ってくれるアマリーラさんは、小さく何事か呟いている……よく聞こえなかったけど、結果に驚いているのかなと思う。
「ともあれ、リク殿。演習の参加感謝する。兵士達も、気が引き締まった事だろう。今回の事を糧に、有事に備えて欲しいものだ」
「いえ、俺も色々と参考になりましたから。数人と同時に、とかなら経験がありますけど……統率された集団とは初めてだったので。むしろこちらがありがたかったくらいです」
「初めてであの成果か……末恐ろしいな」
呆れ顔を引き締め、シュットラウルさんが頭を下げてお礼をする。
俺自身も得る物があったし、訓練にもなったから、感謝するのはこちらの方だ。
……後半、やり過ぎた部分もあったけど……疑似的に戦争を経験するという意味では、良かったんだと思う。
もしかして、ユノはそれを俺に経験させたくて、演習をやるべきだと言ったんだろうか?
「閣下、失礼いたします……」
「うむ……そうか、わかった」
シュットラウルさんやアマリーラさんと話していると、大隊長さんが近付いて来て礼をしながらシュットラウルさんに報告。
大隊長さんは何度か俺の方に視線を向けていたから、多分俺に関する事も含まれているんだろう。
「リク殿、兵士達の全てが、怪我もなく無事のようだ。いや、怪我をした者も問題なく治療されているのを確認、と言った方が良いか。多少の怪我はするものだろうと思っていたが、ありがたい」
「いえ、もとはと言えば俺がやり過ぎたのが原因ですから。擦り傷とかくらいなら、気にしませんでしたけど……骨折はさすがに……」
大体一撃で済ませていたから、足一本や腕一本が折れているくらいだったけど、それでも放っておいたら完治するのも時間がかかるからね。
ちょっと血がにじむ程度の擦り傷くらいなら、俺も兵士さん達も気にしなかったんだろうけど、あらぬ方向に足や腕が向いている状態のままだと、生活が不便だからね。
……後遺症とかも考えると、兵士としての復帰が難しい人とかもいただろうし。
演習に参加したのは俺のため以外にも、兵士さん達の戦力向上のためであって、兵士さんの数を減らしての戦力を下げるのが狙いじゃないからね――。
戦力アップのための演習が、戦力ダウンを招いたら本末転倒です。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
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