見えない場所に潜む者
「……魔物は、地面の中に潜んでいるんです」
「地面の中ですか!?」
「地中なら、確かに見渡しても何も見つかりませんよね~」
地面はさすがに土で遮られているので、探知魔法では探れない。
ぽっかりと空いた穴の中ならともかく、そんなものはないし……地面の中に隠れていているのなら、見ただけで発見できないのも当然だ。
多分、俺が見つけた緑色の草と見まがう何かは、魔物の触角みたいな物なんだろう。
地中から地上へ伸ばして、周囲の様子を窺っているのかもしれない。
触角は当然魔物の体に繋がっているので、それで魔力が漏れているというかその部分の魔力が反応していたんだと思う。
触角だとしたら、そこに魔力を集中する事で魔物の感覚が鋭敏になる……とかもありそうかな。
「本当に地中にいるとしたら、ヒミズデマモグでしょうか……?」
「ヒミ……?」
「ヒミズデマモグです。数は多くなく、発見される事も珍しいのですが……」
アマリーラさんは地中にいる魔物に心当たりがあるようだ。
そのヒミズデマモグ? は聞いた事がなかったので詳細を教えてもらう。
そもそもに、地中にいる魔物自体が地上を生きる人が把握するのは難しいため、珍しいんだけどそれはともかく。
本来はもっと東側で発見される事が多い魔物らしいけど、群れでの行動はせず、時折生息地からかなり離れた場所に出没する事があるそうだ。
長距離を移動する時は地中深くを移動するため、建物や森林に遮られずに移動する事が可能だとか……ただ、たまに水深の深い川に出る事があるらしく、複数生息していると目されている場所付近では、川を流れて来る事があるのだとか……。
なんとも間抜けな魔物だなぁ、とは思ったけど、それでも生きているらしく、人里付近に川を流れて来て再び地中に潜った後襲い掛かって来る、というのもあったらしいので油断は禁物。
俺が見つけた触角は、目のないヒミズデマモグの目の代わりをしている器官らしく、本当に目がないのか疑う程に周辺の状況を把握しているのだとか。
体長は大体人二人分の身長程度らしいから、三メートル前後かな。
大きな耳と突出した鼻という特徴以外にも、外側を向いている前足の鋭い爪は硬く、土を掘るのにも人を斬り裂くのにも使われるらしい。
なんらかの方法で地上に引きずり出せば、外側を向いている前足が邪魔であまり動く事ができず、Dランク程度の冒険者でも倒せるらしいけど、地中を人間が歩くよりも速く移動して、見えない地中から飛び出して爪で攻撃してくるのが厄介なのだとか。
地中にいる状態で、周囲が全て土であればBランクの冒険者でも苦戦するのだそうだ。
「大きなモグラですね」
「モグラ……とはなんでしょうか?」
「あぁいえ、気にしないで下さい」
「?」
アマリーラさんから教えてもらった、ヒミズデマモグの詳細から思わずモグラと言ってしまった。
モグラは知らないのか、アマリーラさんとリネルトさんは首を傾げている。
大きさとか特徴が全て同じではないけど、土の中を自前の爪……外側を向いた前足で掘り進んで移動する、と考えたらモグラしか思い浮かばなかった。
というか、日本にはヒミズモグラとか名前の似てるモグラがいたはずだし。
「それで、倒し方とか注意点はなんでしょう?」
「そうですね……我々の死角、地中から飛び出して来るので、とにかくどこから襲われるかがわかりません。しかも、潜って襲い掛かって来るのかと思っていたら、逃げていたという事もあるようです」
「逃げるのは、傷を負わせたからとも言われていますけどね~」
「……つまり、中途半端な傷だと逃げるし、地中のどこから襲って来るかわからないと」
確かに厄介な魔物だね。
地中は当然目で見て確認する事はできないし、三メートルくらいの巨体で人の歩く速度以上に移動するという事は、かなり深く潜行するはず。
後ろ足で通った穴も即座に塞いで移動するらしいから、穴を覗き込む事もできないし、深ければ地表に影響が少なくて移動先の検討が付かない。
「基本的には、罠を張って飛び出したところを捕まえ、地上に引きずり出します。ただ……その罠が今はありません」
「網を張るんですよね~。でも、ここにヒミズデマモグが出るなんて想像はしていなかったので~、罠を作っていません~」
「まぁ、それは仕方ないですよね。よく見かけるば場所ならまだしも、ここで見かける事はこれまでなかったみたいですし」
珍しくて、ここらで見かける事のない魔物相手に、先んじて罠を仕掛けておく事なんてできないからね。
「えーと、地中にいるから耳が大きくても、音ってほとんど聞こえないですよね?」
「……そこまではさすがに、わかりません」
そりゃそうか。
獣人のアマリーラさん達とか俺も、地中を潜って移動なんてした事がないから、耳で地上の音が聞こえるかなんてわからない。
けど……わざわざ触角と思われる物を、地表に出して様子を窺っているのを見るに、多分音だけでは地表の様子がわからないんだろう。
聞こえるか聞こえないかはともかくね。
つまり、地面から出て来るまでに、必ず触角を出して地上の様子を窺うという事だと思うから……。
「よし、アマリーラさん、リネルトさん。モグラ叩きをしましょう」
「モグラ、叩きですか?」
「なんだか楽しそうな響きですね~?」
「はい。多分ですけど、ヒミズデマモグが地中から飛び出す前に、緑色の触角……ほら、あそこで不自然に揺れているあれですけど、その触角を出すはずです。つまり、その触角が出た場所から出て来るわけですから、それを探して見つければ前もって構えていられます。突然でなければ、危険も少ないですよね?」
「あぁ、確かに言われてみれば、ほんの少しだけ違和感のある緑色の物が揺れていますね。ですが……あれをヒミズデマモグが移動した先ですぐに発見するのは、難しいかと……」
「そこはそれ、大丈夫です。多分、地中に触角すら入っている時にはわからなくなるんでしょうけど、触覚が出れば探知魔法で見つけられますから」
俺が考えたのは、地中を移動するヒミズデマモグを警戒するだけではなく、触角が出て来た位置を見つけ、飛び出して来るのを待ち構える方法。
まぁ、ハンマー的な物で叩いて潰すわけじゃないから、正しいモグラ叩きではないけど……気分はそんな感じだ。
触角が地表に出れば、ヒミズデマモグの魔力は探知魔法で正確な位置が発見できる。
草とすぐに見分けがつかないから、本来は発見するのが困難なはずだけど、探知魔法で場所がわかれば多少はなんとかなる。
アマリーラさんやリネルトさんもいるわけで、調べる目が三組あるわけだから。
本当は、周辺にいる兵士さんも加えたかったけど、同じような説明をもう一度するのが面倒だったりは……しないよ? うん。
まぁ、周辺警戒に忙しそうだという事で……ヒミズデマモグに関しては俺達で対処しよう。
ともかく、この方法なら危険も少なく、ほぼ地上に引きずり出しているのと近い状況にできるってわけだね。
きっとリクは兵士さん達を戦わせないように配慮したのでしょう……きっと……。
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