ナギサは実は……
「やったにゃユキタカ! おめでとにゃ!」
ステージから降りると、クロが勢いよく俺の身体を駆け上り、肩に座る。
「ユキタカ殿、見事な歌だったのだ」
「あぁ、流石はユキタカっちだぜ」
雪だるまとカイルも拍手で出迎えてくれた。
他の参加者たちも同様にだ。
俺はどうもどうもと言いながら頭を下げ、礼を言う。
「――ふぅ、やるじゃない。負けたわユキタカ」
人混みの中からナギサが出てきて、右手を差し出す。
「見事な歌だったわ。完敗よ」
俺はナギサの右手を取り、握手を交わした。
「ありがとう。でも実力では全然ナギサには及ばないよ」
「なーに言ってんの。実力なんて関係ないわ。どんな手を使っても勝った方が偉いのよ」
どこぞの世紀末世界住民のような発言である。
というか別に卑怯な手を使った認識はないぞ。不本意だ。
「とにかく、いい魔道具の使いっぷりだったわ。――流石はマーリンの後継者ね」
ナギサの言葉に俺は驚き目を見開く。
「! 俺を知っているのか?」
「えぇ、マーリンには世話になったからね。波の魔女ナギサ。それが私の名よ」
ナギサは得意げに胸元に手を当て、ふふんと鼻を鳴らした。
いきなり絡んできたから何者かと思っていたが、まさかナギサが魔女だったとは。
「驚いたな……」
「んにゃ、びっくりしたにゃ!」
「てゆーかクロは知ってるでしょ! 前に会った事あるしっ!」
「……にゃ?」
ナギサが声を荒らげるが、クロはキョトンとした顔で首を傾げた。
全く憶えられていない事にナギサは驚き呆れている。
「……あんたまさか、こうしないと思い出さないって言うんじゃないでしょうね……」
ナギサはクロをジト目で睨みつけると、何やらぶつぶつと呟き始める。
と、ナギサの足が眩く光り、その下半身が人魚のような尾ひれに変わった。
まるで人魚のようである。
「あーーー! 思い出したにゃ! その下半身はナギサだにゃ! 美味しそうだったから憶えてるにゃーーーっ!」
「……あ、あんたって猫は……」
ようやく思い出したクロを見て、ナギサは頭を抱えている。
下半身で憶えてるのかよ。せめて顔で憶えてやれ。
「人間の顔は全部同じに見えるにゃ。あ、でもユキタカとマーリンは憶えてるにゃ!」
「……そいつは光栄だ」
まぁ俺から見ても猫の顔の区別なんてつかないしな。
……とフォローしようかと思ったが今までの魔女も全く憶えてなかったじゃないか。
まぁいいけどさ。
「えーと……それでナギサ? 俺のことは他の魔女から聞いたのか?」
「えぇ、この間サラと一緒に温泉に入ってきたのよ。その時にアンタの事が話題に出てね。マーリンの後継者が世界中を旅して回っているから、見つけたら会ってみるといいってさ。それでこっちに戻ってきて大会に出ようとしたらいるじゃない? だから声をかけたってわけ」
「……なるほど」
――火の魔女サラ。竜の姿をした魔女で、火の国モーカでは色々と世話になった。
それにしても二人揃って温泉に入る姿はあまり想像出来ないな。
そんな事を考えていると、ナギサが悪戯っぽい表情を浮かべて俺に身体を寄せてきた。
「それよりユキタカ、あんた料理がすっごく上手いんだって? 私にも何か作ってちょうだいよ!」
ぺろりと舌なめずりをするナギサ。
もしや俺に声をかけたのは食事目当てなのだったのかもしれない。
「あぁ、そりゃ構わないが……」
「ダメにゃ!」
俺の肩に乗っていたクロがナギサを睨む。
「確かにユキタカの料理は世界一美味しいにゃ! でもナギサはシツレーだにゃ! お断りするにゃ!」
毅然とした態度のクロに、雪だるまとカイルも頷く。
「そうなのだ。ユキタカ殿を知りたいだけならやり方は幾らでもあったはず。にも関わらず試すようなやり方は無礼千万なのだ」
「おうおう、その通りだぜ人魚ちゃんよ。ごめんなさいの一つくらい言った方がいいんじゃねーの?」
俺はそこまで気にしないんだけどな。
三人に責められ、ナギサはたじろいでいる。
「うう……わ、悪かったわよ試すような真似をしてっ! 反省してるわ。ごめんなさいっ! ……これでいいでしょ!」
「にゃ! 許すにゃ!」
「って何でお前が偉そうにしてるんだよ」
腕組みをするクロの額にデコピンをした。
「痛いにゃあ!?」
ペチンと小気味良い音が鳴り、クロは頭を抱える。
「そんなに気にしないでくれ。……それで料理を作ればいいのか?」
「ゆ、許してくれるの……?」
涙目のナギサに首を振って返す。
「あぁ、俺は気にしてないよ」
「うぅぅ……ユキタカぁ……あんたってばいい奴なのねぇ……」
感極まったのか、ナギサはウルウルと目を潤ませている。
なんか面白い子だな。最初は面倒なタイプかと思ったが、意外に素直なのかもしれない。
「そだにゃ! ユキタカは世界一のお人好しなのにゃ!」
えへんと胸を張るクロ。
こらこら、お人好しってのは褒め言葉じゃないぞ。




