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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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頑張って歌います

「ではトリを務めますのはエントリーナンバー199、ユキタカさんです。現在最高得点のナギサさんより得点し、優勝出来るのか!? はたまた歌姫はその名を守り切れるのか!? 泣いても笑ってもこれで決まります! ユキタカさん、それでは前へどうぞ!」


司会の声と共に、拍手が起こる。

ついに俺の番である。


「ユキタカ、頑張るにゃ!」

「武運を祈るのだ!」

「ユキタカっちならきっとイケるぜ!」


三人の激励に、俺は頷いて返した。

ついでに親指も立てておく。

見送られながらステージへの階段を上っていく。

俺と目が合ったナギサは、挑発的な笑みを浮かべた。

お手並み拝見といこうかしら? とでも言わんばかりのナギサに、俺もまた同様に笑み返す。


拍手で迎えられながら、ステージの中央に進む。

先日と違い、観客は満員だ。

しかし俺の心は不思議と落ち着いていた。

あれだけ練習したからだろうか、これなら問題なく歌えそうである。


すぐに曲が流れ始めた。

いつもの、ではない。

この時の為に選んだ曲があるのだ。

それは夏メロの定番デュエット曲。夏といえばの有名グループが歌った名曲である。

俺も大好きでよく歌っていた。……男二人のデュエットでだが。

何故デュエット曲なのかというと、これを使うからだ。


取り出したるは声録機。

音声を録音し、また再生も可能な魔道具である。

これをこうして、こうだ。

スイッチを入れると声録機から予め入れていた歌が流れ始める。

それに合わせて俺も声を合わせる。

そう、俺の考えた手とは一人デュエットだ。


「ー♪♪ ー♪♪」


ざわり、と最初に違和感を表したのは審査員たちである。

俺の歌がどこかおかしい事に気付いたらしい。

それもそのはずだ。よく聞けば二種類の歌が同時に流れているのだから。

ちなみに一流のプロは一人で同じような事も出来るらしい。

映画か何かで声をハモらせるシーンがあったのだが、合成音でやろうとしたところ普通に一人でそういう声を出したという話を聞いた事がある。

トレーニング次第でなんでも可能とか、すごいね人体。


まぁ俺はそんな真似は出来ないので、普通に魔道具に頼ります。

魔法使っている人もいたし、これも反則ではないだろう。

審査員たちも特に難色を示している様子はないし。

一人デュエットに最初は戸惑っていた観客たちも、すぐに歌に集中し始めた。

観客の一人が鼻歌を口ずさみ、それは周りへと伝播していく。

よし、反応は上々。そしてこのまま終わりじゃないぜ。


鞄から取り出したのは、更なる声録機。

そのスイッチを入れると、録音していた俺の歌が流れ始める。

これはバックコーラスだ。

一人デュエットを思いついた時、ノリで作ったのである。


おおおおおお! と上がる歓声。

そう、一人デュエットを超えた一人コーラス。

ちょっとそこ、寂しい奴とか言わない。

とにかく、あとは力一杯歌い切るのみだ。


「――♪♪ ――♪♪!!」


余韻を残しつつ、曲が終わった。

しぃんとした静寂の中、ぱちぱちと拍手が鳴る。

それはナギサのだった。

続いてクロたちも、他の観客らも、俺を讃えるように手を叩く。

わあああああああああ!と歓声と共に鳴り響く万雷の拍手。

審査員たちが手元の札を上げる。

得点は……10、10、10、10、10。


「出ました! オール10点! と言うことは……ユキタカさんの優勝でーーーす!」


司会の声と共に、もう一度拍手が巻き起こる。

大歓声と拍手に包まれながら、俺は両手を上げてガッツポーズをした。


「おめでとうございます、ユキタカさん。見事な歌でした」

「ありがとうございます」

「何か一言、ありますか?」


俺はこほんと咳払いをし、声を張り上げた。


「えー、この度は応援ありがとうございました。優勝出来たのは皆様の、そして仲間のおかげです」

「ユキタカさんは旅人ですよね。どちらで練習されたのでしょう?」


司会の人に問われ、何を言おうか考えた時にふと思いついた。

そういえばあの小島に客が来るように言うのを忘れていたな。

いい機会だししっかり宣伝しておこう。


「あの小島です。旅館でも飲食店でも大いに歓迎されました。ぜひ皆さんも行ってみてください」

「そうなのですね。人魚伝説のある島と聞いていますが……」

「夜な夜な歌が聞こえる、と言う噂の正体は、俺の前に歌ったカイルだったんですよ。この大会に備えて練習していたそうです」

「おお! そうだったのですね! それは光栄です。カイルさん、ありがとうございます!」


司会の人に礼を言われ、カイルは照れ臭そうにしている。

その様子がおかしかったのか、観客席からどっと笑いが起きる。


「皆さま、お時間がありましたらこれを機に島に行ってみるのはどうでしょう! それではユキタカさん、ありがとうございました!拍手でお送りください」


ぱちぱちぱち、と拍手が鳴る中、ステージを降りていく。

とりあえず宣伝は出来たし、悪いイメージは払拭出来ただろう。

優勝も出来たし、万々歳といったところかな。

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