タコ焼きパーティをします
「あー、楽しかったにゃ!」
結局代わる代わる、ぶっ通しで丸一日歌い通した。
昔は友人たちと徹夜でカラオケやった事もあるが、久しぶりだからか流石に堪えたぜ。
時々女将さんが飲み物を差し入れてくれたのがとてもありがたかった。
だがいつもクロが歌ってる時に来てたな。……やはり一部の猫マニア垂涎の曲なのかもしれない。
「のどが、いだいにゃあ……」
クロがガラガラ声で鳴く。
一日中歌ってたもんな。俺もちょっと喉が痛い。
「ちょっと待ってな」
鞄から取り出したのは瓶詰めの錠剤、万能薬だ。
これを飲めばあらゆる怪我や病気が立ち所に治る。
もちろん痛めた喉にもよく効く。
万能薬を取り出し、トローチよろしく舐めているとすぐに喉の調子が回復した。
「治ったにゃ!」
「喉がスースーするのだ」
二人とも回復したようである。
さすが万能薬、便利だ。
「しかし俺たちの歌も案外捨てたもんじゃないよな。折角だし予選に出てみようぜ」
「それいいにゃ! ボクも出てみたいにゃ!」
「賛成なのだ」
「よし、やってやるか!」
「おー! にゃ!」
ノリと勢いで参加が決まった瞬間、きゅーとクロの腹から情けない音が聞こえた。
「……ユキタカ、お腹が空いたにゃ」
「そういえば朝から何も食ってないな」
歌うのに夢中で食べるのを忘れていたのだ。
もう夕方だし、昼兼夕食としよう。
「よし、じゃあタコ焼きでも作るか!」
カラオケで頼むものといえばタコ焼きと相場が決まっている。
ピザやスパゲッティも捨てがたいが、歌いながら焼けて適当に軽く摘まめるのがいいんだよな。
市場で買ったタコも余っているし。うん決まり。
そうと決まれば精霊刀を取り出した。
「じゃあ精霊さん、タコ焼きプレートの生成を頼む」
そして土の精霊にお願いし、作ってもらう。
岩の板が生成され、それに小さな丸いくぼみがたくさん空いていく。
タコ焼きプレートの完成だ。
テーブルの上に鍋敷きを引いてその上にプレートを置き、今度はタネを作り始める。
タネの作り方は小麦粉と水を1対2で入れ、卵を三つ投入。
ぐりぐりとかき混ぜて粉を溶いていく。
「次はこのキャベツをみじん切りにしてくれ」
取り出したキャベツを風の精霊に頼み、みじん切りにして中に入れてもらった。
これでタネが完成。
今度は火の精霊に頼み、プレートを熱してもらうと白い煙が出始める。
いい頃合いだな。
「まずはプレートに油を敷いて、そこへタネを落としていく」
白くトロッとしたタネを、まんべんなく穴に注いでいく。
この際少々零れても気にしない。どうせ後で丸めてしまえばいいのだ。
すぐにタネは固まり始めるので、その前に小さく切ったタコをひょいひょいっと入れていく。
いい感じに焦げ目がついてきたところで、くるっとひっくり返していく。
そのまま裏面をしばらく焼いて、皿に取ってお好みソースをかける。
爪楊枝を差して、出来上がりだ。
「ほらよ、食べてみな」
「まんまるにゃ!」
「こんな料理は初めて見るのだ!」
二人は珍しさに目を丸くしながらも、タコ焼きを一口に頬張る。
「んむ……っ!? これは美味いのだ! アツアツの生地の中にタコが入っているというのも面白い! 一つずつ摘まんで食べれて皆で食べるには丁度いいのだ!」
「んあっついにゃ!」
感想を述べる雪だるまの横で、クロはあまりの熱さに口から出した。
猫舌のクロには熱すぎたようだ。ふーふーと必死に息を吹きかけている。
「クロ、いったん皿に置け。割って中身を出せば冷ましやすい」
「わかったにゃ……」
クロが皿に置いたタコ焼きを爪楊枝で割ってやると、ホカホカの湯気が上がる。
そこに冷たいお好みソースを付ければ、すぐに冷めるのだ。
冷めたタコ焼きもこれはこれで美味いものである。
クロは恐る恐る舌で舐め、さめたのを確認しぱくっと食べた。
「美味しいにゃ!」
そして飛び出すいつものセリフ。
安心して俺も食べ始める。うん、美味い。
どろりとした濃厚ソースが生地とタコに絡み、いい感じの味になっている。
鰹節があってもよかったかな。今度作っておこう。
「さーてどんどん焼くぞ! しっかり食えよ」
タネはまだ十分あるからな。
焼けたタコ焼きを取っては食べて、また作る。
まさにタコ焼きの無限ループだ。
「うにゃあ……もう入らないにゃあ……」
「満腹なのだ」
「……ちょっと作りすぎたかな」
こういう粉ものっていくらでも食べられそうだから、食べる量をちょいちょい見誤るんだよな。
でも美味かった。たまにはこういうのも悪くない。
「休憩も終わったしまた歌うにゃ!」
まだ歌うのかよ。猫曲のレパートリーが豊富すぎる。
というわけで、その日も旅館に泊まったのである。
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「すみません女将さん、何から何まで」
「いえいえ、いいんですよ。他にお客さんもいませんし、色々と申し付けてくださいな」
翌日、前日の疲れで朝遅かった俺たちの朝食を女将さんは用意してくれた。
まさにいたせり尽くせりである。
もちろんその分の代金は払っているけれども。
久しぶりの客だからか、女将さんはとても丁寧に仕事をしてくれているようだ。
「旅人さん。よろしければ本島へ戻った時にこの島のよい評判を流してきてくださいまし。そうしたら他のお客さんも来ていただけると思いますので」
そういえばカイルの歌で人が寄り付かないんだったな。
だが今カイルは停滞した時の部屋にいるし、これで出場出来ればもう歌に島民が悩む事もなくなるだろう。
「もちろんそうさせて貰います。ですがもう真夜中の歌は聞こえなくなると思いますよ」
「?」
女将さんは俺の言葉に、キョトンとしていた。




