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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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カラオケを歌います

「とりあえずカイルはあそこからしばらく出てこないだろうが……このままじゃ目立つよな」


 停滞した時の部屋はかなりデカいし、誰かが入ったら面倒な事になる。カモフラージュしておくか。


「こいつを使おう」


 鞄を漁り、取り出したのは迷彩缶というスプレーのような魔道具である。

 中に入っている泡は空気に触れると固まり、周囲の風景に溶け込むというものだ。

 スプレーを吹きかけていくと停滞した時の部屋を泡が包んでいき、みるみるうちに岩山の姿になっていく。


「おおー、すごいにゃ!」

「見た目は完全に岩山なのだ。手触りも」

「質感だけだけどな。中身は意外ともろい」


 作った岩を軽く小突いてみると、ボロっと崩れた。

 泡で構成されているから固いのは表面だけだ。

 仮に途中でカイルが出てきても、簡単に破壊できるので閉じ込められることはない。


「ふわぁ……しかし眠くなってきたな」


 随分夜更かしをしてしまった。

 早く旅館に帰って寝るとしよう。


 翌日、ぐっすり寝て起きた俺たちはのんびり朝風呂に入り、ゆっくり朝食を食べた。


「ユキタカ、今日はどうするにゃ?」

「うーんそうだな……折角だしカラオケでもするか!」


 実は声録機はまだあるのだ。

 旅館には人はいないし、大広間を貸して貰えるかもしれない。

 ちょっと頼んでみるか。


「女将さん、大広間を借りたいんですが構いませんか?」

「はぁ、別に構いませんが……一体何をなさるのですか?」

「カラオケ大会ですよ」


 女将さんはカラオケという単語に馴染みがないのか、首を傾げていた。


「歌を歌うんです。少しうるさくなりますが大丈夫ですか?」

「あぁ、その程度でしたら。他のお客様もいらっしゃいませんし、普通に歌うだけならなんの問題にもなりませんよ」

「ありがとうございます。これ、代金です」

「あらあらよろしいのに……でもありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


 念の為、あとで文句を言われないよう心付けを渡しておく。

 銀貨三枚を渡すと、女将さんはホクホク顔で引っ込んでいった。


「さーて歌うぞ!」

「にゃあ!」

「こほん、自分も歌は好きなのだ」


 クロも雪だるまもやる気十分だ。


「じゃあ誰から歌う?」

「ボク、ボクにゃ!」


 クロは特にやる気十分だ。


「クロ殿に譲るのだ」


 というわけで雪だるまが譲り、最初はクロが歌う事に決まった。


「さて、好きな曲を入れてくれ」


 声録機には声を抜いて曲だけが流れる、カラオケモードとでもいうべき機能が備わっている。

 これを作る際、マーリンは世界各国の作曲家に録音させて貰ったと言っていた。

 ……なんというか、すごい情熱である。

 まぁ俺も学生時代は新曲が出るたびに録音して集めていたので人の事は言えないが。


「ボクは……これにゃ!」


 クロが選んだのは猫百匹大行進という曲だった。

 軽快な音と共に、気の抜けたようなラッパの音がプカプカと鳴り響く。


「にゃーにゃー♪ にゃにゃにゃにゃにゃー♪ ふふふーん♪ にゃー♪ にゃにゃー♪ ふふーん♪」


 メロディーに乗せてにゃんにゃんと鳴き始めるクロ。

 なにこれ、ちょっと頭痛くなってきたんだが。

 俺が頭を抱えている間にも曲は進み、結局最後までこんな感じであった。


「……終わりにゃ!」


 ぱちぱち、と一応拍手をしておく。


「しかしなんというか、奇妙な歌だな……」

「にゃ! ボクはあまり難しいのは歌えないにゃ!」


 まぁクロの記憶力では歌なんか覚えられそうにないしな。

 一部の猫マニアからは絶賛されそうだし、これはこれでって感じもする。


「では次は自分が……ラティエに古くから伝わる歌を歌うのだ」


 今度は雪だるまが声録機のスイッチを入れる。

 重々しい音と笛の音、なんとなく演歌を思わせるような曲が流れ始める。

 曲名は大雪山おろし、雪山で武闘家が修行する風景を思わせるような男らしい曲である。

 雪だるまの声はコブシが利いており、味わい深い歌だった。


「……ふぅ、お粗末様なのだ」

「雪だるま、上手にゃ!」

「おう、大したもんだ」


 俺は雪だるまに惜しみない拍手を送る。

 演歌というのは地味に難しく、歌唱力を問われるジャンルである。

 照れてはいるがかなりの実力者だ。


「次はユキタカ殿の番なのだ」

「おっと、そうだな」


 あれだけの歌の後ではちょっとやりにくいが……まぁ楽しむとしよう。

 俺も学生時代はカラオケにはかなり行ってたし、そらで歌える曲もいくつかある。

 マーリンの集めた曲の中に、俺の持ち歌に非常によく似たメロディの歌があるのだ。

 具体的にはサ〇ンとかミス〇ルとか、いやぁ世界が違っても似たような歌は生まれるものである。

 日本で生まれた歌と同じメロディラインの歌が遠い外国に存在していてたりするもんな。


 俺は声録機を操作し、目当ての曲を選んだ。

 良く聞き知った音楽に合わせ、歌い始める。

 久しぶりで最初は少々戸惑ったが、途中からは慣れてきて終わる頃にはビブラートを聞かせる余裕も出てきた。

 アウトロの心地よい余韻を感じながら深い息を吐く俺を、二人が拍手を送ってくる。


「おおー、ユキタカも上手にゃ!」

「初めて聞く歌なのだ。見事なものなのだ」

「ありがとさん」


 とりあえず一巡が終わり、またクロが歌い始める。

 今度は違う曲だが、やはりまたにゃんにゃん言っていた。

 ……それにしてもこの世界には猫用の歌でもあるのだろうか。

 流石は異世界といったところかな。

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