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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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南の国に着きました

「いただきますにゃ!」


 クロが手を合わせ、俺たちは食事を始める。

 十分に焼けたナマズの身は箸で簡単に裂ける程柔らかく、小さく切り分けて真っ白なご飯と一緒に口に入れる。

 ――うん、美味い。

 肉がしっかりしており、歯ごたえがあるが肉質はウナギに近い。

 ある程度タレのおかげのような気がしないでもないが、やはり濃い味付けとご飯は相性がいいな。


「美味しいにゃ!」


 クロは声を上げると、一心不乱に食べ始めた。

 すごい勢いだ。ご飯粒がヒゲについてるぞ。


「これはとても美味なのだ。魚肉だけでも食べ応えがあるのに、ご飯と濃い味のタレとの相性はバツグン。全てが上手く調和しているのだ!」


 雪だるまもまた気に入ったようで、お椀を手に取りかき込んでいく。

 うむ、いくらでも食べられそうだ。

 生卵をかけてもよかったな。

 今度どこかで仕入れておこう。

 そんな事を考えながら食べていると、ナマズ丼はあっという間になくなってしまった。


「……ふぅ、美味かった」

「ユキタカの料理は最高にゃ!」

「ごちそうさまなのだ」


 満腹満腹、やはり丼ものは満足度が違うな。

 残った半分は鞄に入れて保存し、もう半分は精霊さんに食べてもらおう。

 食事を終えた俺は河原に家を出し、そこで夜を明かした。

 川のせせらぎと虫の鳴き声がいいバックミュージックになり、その日はとてもよく眠れた。


 翌日、朝早く起きた俺が出立の準備をしていると、鞄から一枚の冊子が地面に落ちた。


「これは確か……マーリンから貰った魔道具の手引書だな」


 貰ったままいつか読もうと思って、鞄の中に入れっぱなしになっていた。

 何となくめくってみると、ヘルメスの頁に魔法を使う場合についての但し書きがされているのを見つける。

 そういえば俺には関係ないとスルーしてたっけ。だが魔法を手に入れた今は違う。

 クロたちもまだ寝ているし、読んでみるとするか。


「ええっとなになに……ユキタカへ、あんたが魔法を使えるようになった時の事を書いておくよ。世界は広い。いつかそういう事もあるかもしれないからね。……か」


 マーリンはこうなる事も予測していたのだろうか。

 全くありがたいぜ。とにかく読み進めていく。


 ――魔道具ってのは言葉の通り、魔法と似たような力を持つ道具だ。魔力を持たない者にも自由に使える便利なものだが、これには裏技があってね。魔道具の中には魔法を注ぎ込むことで新たな使い方が生まれるものもある。色々試してみる事だね。ちなみにヘルメスに火の魔法を注ぎ込んでみな。とっても面白いことになるよ。ひっひっ――


 ……とのことだ。

 どうなるか言わない辺り、マーリンらしい。

 まぁヤバそうならこんな書き方はしないだろうし、命に危険はないだろう。多分。


「さて、行くとするか」

「にゃ!」

「わかったのだ」


 クロと雪だるまをヘルメスに乗せ、俺も跨る。

 魔道具に対して魔法を注ぎ込む……だったか。

 こんな感じかな? 俺はハンドルを握り、ヘルメスに火の魔法を注ぎ込んでみる。

 するとヘルメスのライトが眩く光る。

 そして爆音と共に排気筒から炎が吹きあがり、車体が凄まじい煙に包まれた。

 わわ、な、なんだこりゃ!?


「ユ、ユキタカ殿、これは一体……?」

「お、俺にもわからん……」


 困惑していると、煙が徐々に腫れていく。

 露になったヘルメス、その漆黒のボディは深紅のメタルカラーに変化していた。

 それだけではなく形状も少し変わっており、どこか燃え上がる炎のような流線形になっている。

 変わったのはもちろん車体だけではない。

 ハンドルから今にも爆発しそうな凄まじいパワーが伝わってくる。


「おおっ! ばあさんが乗ってたヘルメスにゃ!」

「そうなのか」

「スッゴク速いんだにゃ! 早速走らせるにゃ!」

「お、おう……」


 俺はクロに急かされながら、アクセルをゆっくり回してみる。

 ドルルルルン! と爆音を鳴らしながら、ヘルメスが走り出した。


「うおおおおっ!?」


 は、速い! 速すぎる! なんだこの速度は。ヤバすぎるだろう。

 目の端にチラリと見えた岩山が、一瞬にして後方へ流れる。

 小石で車体が跳ねただけで、1秒くらい浮いた。

 今までとは比べ物にならない加速力である。


「ちょ、待て待て待て待て、なんだこれっ!?」

「とんでもない速さなのだ!」


 おいおい何百キロ出てるんだ!?

 姿勢を保つだけで精いっぱいである。

 雪だるまも俺に必死にしがみついている。


「にゃー! 速いにゃー! すごいにゃー!」


 だがクロは複座にて、両手を上げてはしゃいでいた。

 とても楽しそうで、全くビビっている様子はない。

 ……根性座っているぜ、全く。


 しばらく乗っていると、ようやく慣れて安定してきた。

 元々ヘルメスは魔法でバランス制御しているので、そう簡単にはこけないんだけどな。

 そうは言ってもあまり速すぎると俺の精神が持たないぜ。

 俺は少しずつ速度を緩め、ヘルメスを完全に停止させる。

 すると排気筒から炎が吐き出され、元の黒色に戻った。


「お、戻ったな」


 どうやらエンジンが止まると解除されるようである。

 あの赤いヘルメス、半端ない速度だったな。

 慣れるまではかなり手間取ったが、あのスピードはかなり便利だ。

 フォルムも格好良かったしな。

 よし、ヘルメス=ニトロと名付けよう。


「そして、丁度着いたみたいだな」


 青い空、白い雲、潮の香り……

 それに誘われるように坂道を登っていく。

 登り切った俺たちの目の前に一面の海が広がっていた。


「海にゃあ!」


 クロがぴょんと飛び跳ねる。

 予定では夜の到着だったが、ヘルメスのおかげで思った以上に早く着いたようだ。

 巨大な岩壁を見上げると、荒々しく文字が刻まれている。

『ようこそ南の国、ザパンへ!』――と。

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