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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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花火を楽しみました

 翌日、俺たちは街を出てある場所へ向かっていた。

 それは明日行われる炎舞祭の会場である、火の国モーカ中央街。

 リザードマンの街、リザーディアから西に半日くらいの距離である。

 そこを目指し、ヘルメスを走らせていた。


「ん、なんだありゃ?」


 見つけたのは建物である。

 何だろう、少し変わった建物だな。

 広い空き地に工房のような建物が並んでいる。

 敷地もやたらと広く、近くの岩壁には幾つか穴が開いているのも見える。

 一体何の建物だろう……気になるしちょっと行ってみるか。

 俺はハンドルを傾け、ヘルメスをそちらの方へ向け走らせる。


 建物に近づくと、人影が見えた。

 毛むくじゃらの小男だ。

 この国に来てリザードマン以外の人を初めて見たな。

 男はヘルメットを被り、分厚い手袋に長靴を履いている。

 向こうは俺に気づいたのかこちらを向いた。


「こんにちは」

「おう、見かけねぇ顔だな。旅人さんかい?」

「はい、何をしている建物かと思いまして」

「ここは花火工房さ。打ち上げ花火を作ってるんだよ」

「おお! 打ち上げ花火ですか! いいですねぇ!」


 言わずと知れた夏の風物詩、まさかこの世界にもあったとは。

 妙にぽつんとしたところにあるわけである。

 花火工房は事故が起きた時の事を考え、周りに民家のない場所に建てられるのだ。


「ほう、花火を知ってるのか旅人さん。こりゃ話が早い。炎舞祭の事は知っとるかね? そこで我々ドワーフ族が技巧を凝らした細工花火が上がるんだ! 是非見てってくんな!」

「もちろんです! 楽しみにしています!」


 そう言ってドワーフの男と握手を交わす。

 いやー異世界の打ち上げ花火が見られるとは運がいい。

 俺は夏祭りの花火が好きで、よく見に行ってたものである。

 屋台でイカ焼きとかを食べながら見上げる花火は最高なんだよな。

 それが見られるとは、この国に来てよかった。

 高揚する俺とは反対に、クロと雪だるまはポカンとした顔をしている。


「ユキタカ、花火ってなんにゃ?」

「んー……なんて言えばいいのやら……地面から大砲を打ち上げて空中で破裂させるんだが、ただの爆発じゃなく色とりどりの炎がばらまかれて……炎の華って言うのかな。とにかくすごく綺麗なんだ」

「むむむ、全然わからないにゃ」

「全く想像が出来ないのだ」


 うむぅ、説明が難しい。

 困惑する俺の背中を、ドワーフの男が叩く。


「なぁ旅人さん、よかったら花火を見ていくかい?」

「ええっ!? いいんですか?」

「あぁ、その口ぶりだと余所でも花火を見たことがあるんだろう? ワシらが作ったのも見て意見を聞きたいのさ」

「しかし今は昼ですし、祭り直前で打ち上げ花火を上げるわけにもいかないのでは……」

「心配するなって、小さいやつだからよ」


 ドワーフの男はそう言って、にやりと笑った。


 ■■■


 案内されて向かった先は、洞窟の中である。

 ここは花火の実験場だろうか。

 進むにつれ、辺りは暗くなっていく。

 奥まで行くと足元がようやく見えるくらいだ。


「……よし、この辺りでいいだろう。この洞窟で花火の実験をしているんだ。ここなら昼間でもよく見えるぜ」


 ドワーフの男は立ち止まると、持っていた手提げ袋を地面に降ろした。

 そこにはスーパーなどでよく見る、花火セットのようなものが入っている。


「どれでもいいからよ、気に入ったのを手に取ってくんな」


 袋の中を見てみると、手持ち花火にロケット花火、ミニ打ち上げ花火のようなものが沢山入っている。

 何だか懐かしいな。

 こんな玩具花火を触るのは子供の頃以来かもしれない。


「ユキタカ、これどうやって触るにゃ?」

「ここに導火線があるだろ? 火をつけるんだよ」

「わかったにゃ」


 そう言って導火線をじっと見つめるクロ。

 途端、花火がパァンと大きな音を出して爆ぜた。

 それに驚いたのか、クロはぴょんと飛び上がる。


「にゃっ!? な、何が起こったにゃー!?」

「……お前こそ何をしたんだよ」

「ちょっと魔法で火をつけたにゃあ」


 やはりそうだったか。

 恐らく火薬部分に一気に火が付き、爆発を起こしたのだろう。

 まぁ俺の言い方も悪かったな。

 それを見たドワーフの男はくっくっと笑っている。


「はっはっは! 初めての人は大抵やっちまうんだよな。いや悪い悪い、旅人さんが花火を知ってたから、使い魔さんたちも知ってると思ったからよ。……花火ってのはこうやって遊ぶのさ」


 ドワーフの男はそう言うと、指先から小さな火を生み出し導火線に火をつける。

 その火に焼かれながら、みるみる短くなっていく導火線。

 本体に辿り着いた瞬間、先端から火花が噴出し始めた。

 パパパパパ、と静かな破裂音が辺りに鳴り響き、赤、白、黄色の綺麗な火の華が宙に咲いた。


「これは綺麗だにゃ!」

「何とも美しいのだ」

「驚いたかい? これが花火だよ。ほら持ってみな」

「ありがとうなのだ」


 雪だるまはドワーフの男から差し出された花火を受け取る。

 パチパチと弾ける花火を見て、クロと興味深そうに見ていた。


「ボクもやりたいにゃ!」

「あぁいいぜ。花火は沢山あるから好きなのでやるといい」

「じゃあ……これにするにゃ!」


 袋から取り出したのはロケット花火だ。

 口で咥えたロケット花火の導火線に、魔法で火をつける。

 シュー……と導火線が短くなっていき、パァン! と弾けた。

 放たれたロケットの先端部分が洞窟の壁にぶつかり、何度も跳ねる。


「にゃっ!? びっくりしたにゃ!」

「はっはっは! 面白いだろう。旅人さんもやってみるといい」

「では……」


 お言葉に甘えて、取り出したのはミニ打ち上げ花火だ。

 これ、結構派手で面白いんだよな。


「雪だるま、火を貸してくれ」

「わかったのだ」


 雪だるまのやっていた花火を借りて、導火線に当てていく。

 しばらく当てていると導火線に火がついた。

 シュー、と音を立て上っていき、そして。


 パァン! パパパパパ! パァン!

 大口径の噴出口から連続して花火が上がる。

 クロはぴょんと飛び退き、俺の背後に隠れて様子を伺う。

 しばらくすると安全だと思ったのか、身を乗り出し花火を食い入るように見ていた。

 しばらくすると勢いが弱まっていき、パチパチと小さな火が時折爆ぜるだけとなる。


「今度はボクがやるにゃ!」

「自分もやってみたいのだ」


 我先にと花火を楽しむ二人を見て、ドワーフの男は満足げに頷くのだった。


「どうやら気に入ってくれたようだな。よかったぜ」

「ありがとうございました。楽しかったです」

「楽しかったにゃ!」

「ありがとうなのだ」


 礼を言われ、ドワーフの男は白い歯を見せて笑った。


「楽しんでくれて何よりだ! 明日の本番にはもっとすげぇ花火を上げるからよ、楽しみにしててくんな!」

「はい、楽しみにしています」


 そう言って俺たちはドワーフの男に手を振り、花火工房を去った。


「ユキタカ、打ち上げ花火楽しみだにゃあ」

「あぁ、クロが想像するよりずーっとすごいぞ? びっくりして腰を抜かさないようにな」

「そんなに……わ、わかったにゃ……」


 俺が脅すと、ビビってしまったのかクロは身体を縮こめる。

 それでも楽しみなのか、少しだけ尻尾を立てていた。

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