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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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さらば雪国

 その日、俺たちはローザの家に泊まらせてもらった。

 泊まらせてくれた礼に、俺は厨房を借りて鍋料理を作った。

 寒いところで食べる鍋料理は絶品で、ローザたちも舌鼓を打っていた。


「美味しいにゃ!」

「ほう、確かにこりゃあ美味いじゃあないか!」


 ちなみに味付けはゴマダレである。

 ポン酢もいいが、俺はゴマダレの方が甘くて好みだ。

 茹でたグレイウルフの肉をさっとゴマダレにくぐらせ、食べる。

 うーん、美味い。


「はふはふ、はふはふ……むっ、この肉にからみつく複雑な味のタレ……今まで食べた事のない味わいなのだ!」


 ちなみに雪だるまからも好評だった。

 ただ熱いのは苦手なのか、ふーふーと息を吹きかけ十分冷ましてから食べていた。

 鍋は熱々が美味いが、冷ましても案外美味いもんだ。

 冷しゃぶってのもあるくらいだしな。


「ふぅ、食った食った。満腹じゃ」

「美味しかったにゃ!」

「大変美味だったのだ」


 食べ終えた皆がそれぞれ満足そうに息を吐く。

 俺も腹八分だ。


「ごっそさん。デザートは冷たいものにしよう。さっきのアイスクリームの余りでいいか?」

「にゃ!」


 というわけで先ほどのアイスクリームを持って来ようとしたのだが……うっ、溶けているだと?

 外に置いてたから平気かと思ってたが、それでも日差しがあったからか半分くらい溶けていた。


「あちゃあ、参ったな……雪だるま、ちょっと冷やしてもらっていいか?」

「お安い御用なのだ……ふーっ」


 雪だるまが息を吹きかけると、アイスクリームがすぐに冷えて固まっていく。

 おっいい感じに固まって来たぞ。

 今のうちにシャカシャカっとかき混ぜればアイスクリーム復活である。


「ありがとう雪だるま。ばあさんから貰った魔道具は冷やす能力ないから助かるよ」

「それ程でもないのだ」


 雪だるま謙遜しつつも、満更でもない顔だった。

 こうして見ると中々可愛らしいかもしれないな。


「にゃ! ボクの方が役に立つにゃ!」


 それを見たクロがフーッと唸る。

 おいおい、対抗意識を燃やすなって。

 それを見てローザはニコニコしている。


「おやおや、随分雪だるまに懐かれたようじゃのう」

「そうか?」

「そうじゃとも。のう雪だるまよ」

「ユキタカ殿のことは尊敬しているのだ」


 ローザの問いに雪だるまは頷いて答える。

 いつの間に尊敬されたのだろうか。


「雪だるまは私が最初に作った使い魔でのう、かつては一緒に世界を旅して回ったもんじゃ。さっきも言ったがこいつはかなりのグルメでの。腕のよい料理人には敬意を払っておるんじゃよ」

「俺は料理人じゃないんだが……」

「ユキタカのような腕を持つ者がそんなことを言ってたら、この世界の料理人はみんな仕事を辞めなきゃいけないよ」


 可笑しそうに笑うローザだが、本当に大したことはないんだけどな。

 俺じゃなくて俺の世界の料理が凄いだけだし。

 俺自身は簡単な料理しか作れないし。


「のうユキタカ、よかったらこの雪だるまを旅に連れて行ってみないかい?」


 雪だるまを連れて行け、だと?

 自分の使い魔を何故俺に?

 俺やクロはもちろん、雪だるま自身もポカンとした顔をしている。


「ローザさま! どういうつもりなのだ!?」

「あんたいつも言ってたじゃないか。また旅行に行きたいのだ。そうしたらローザさまに世界の料理を振舞ってあげられるのだ……ってね」

「そ、それは……」


 顔を赤らめながら、口ごもる雪だるま。


「雪だるまよ、私の事を心配しているんだろうが、気にすることはないんじゃよ。あんたの他にも使い魔はいるからねぇ。いつか帰ってきて、私に各地の美味しい料理を食べさせておくれ」

「ローザさま……!」


 感極まったのか、目を潤ませる雪だるま。

 マジでどうなってんだこの雪だるまの構造はよ。


「どうだい? ユキタカ。見ての通りこの雪だるまは氷を操る事が出来る。だから少々の暑さで参るような柔な身体じゃないよ。連れてって損はない」

「俺は……そりゃありがたいがよ……」


 氷があれば飲み物のバリエーションも増えるし、冷気が出せるなら暑い所に行くときも便利そうだ。

 いてくれると心強い。


「だが俺とはさっき会ったばかりだろ。そんな俺に大事な使い魔を預けていいのかよ?」

「いいさ。それに確かにあったばかりだけど、ユキタカが雪だるまを預けられる男だってのはわかってるつもりだよ」


 そう言ってローザはにやりと笑う。

 うーん、あの時は気まぐれでそうしただけなんだけどなぁ。

 そんなに評価されると困ってしまうんだが。


「じゃあ決まりだ。行っておいで雪だるま」


 雪だるまはおずおずと俺を上目づかいで見上げ、手を差し出してきた。


「……よろしくなのだ」


 俺はその手を軽く握った。

 そんな子犬みたいな目で見られたらそりゃつい手を取ってしまうだろう。

 まぁその、ともあれだ。

 雪だるまが仲間に加わった、のだ。


 ■■■


「それじゃあローザさま、さよならなのだ!」


 ヘルメスに乗り込んだ俺は、複座にクロを、後部席に雪だるまを乗せ、雪道を走らせる。

 氷の城の麓ではローザと他の使い魔たちが手を振っており、その姿はグングン遠くなっていた。

 雪だるまもまた、氷の城が見えなくなっても手を振っていた。


「いやー遊んだ遊んだ。いいところだったな。雪の国」

「にゃ、食べ物も美味しかったし、スキーも楽しかったにゃ!」

「新しい連れも出来たしな」


 俺の言葉に応じるように、雪だるまはくるりとこちらを向いた。

 そしてぺこりと頭を下げる。


「改めて、雪だるまというのだ。よろしくなのだ」

「おう、こちらこそよろしくな」

「なのにゃ!」


 雪だるまはいかにも真面目というか、礼儀正しい奴である。

 クロとも仲良くやれそうだ。


「おっ、国境が見えてきたぞ」


 高い壁の下には門番が立っている。

 これで雪国リティエともお別れか。


「ユキタカ、お土産屋さんがあるにゃ!」


 と思ったら、最後の最後でクロがストップをかけた。

 そういえば土産を買ってなかったな。

 俺は店に入ると、四角い銅板に雪の城と、「ようこそ雪国ラティエへ」という文字が描かれたキーホルダーを一つ買う。


「何でそんなもの買ってるにゃ?」

「ここへ来た記念さ」


 観光地にはどこにでもありそうなものだが、まさか異世界にもあるとは。

 思わず苦笑してしまう。

 それをヘルメスのキーに付けると、改めてヘルメスを走らせるのだった。

 さらばラティエ、また来るぜ。

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