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特盛り魔道具で異世界ぶらり旅  作者: 謙虚なサークル
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寒い時はすき焼きです

 山から滑り降りた時、すでに辺りは薄暗くなっていた。

 ここは街から少し離れた雪原である。

 ヘルメスを停めた場所からも少し離れているし、今から街へ戻るのは骨が折れそうだ。


「仕方ない、今日はここで一夜を明かすか」

「にゃ!」


 雪も少し降り始めているし、今から移動すると遭難してしまう。

 人目もないから家を出しても問題ないだろうしな。

 一応周りを確認し……うん、誰もいないな。

 いきなり懐からでっかい家を出したら驚かれるからな。警戒しないと。

 俺は鞄から家を取り出し、目の前に置いた。

 鞄から取り出された家は一瞬にして巨大化し、一軒家となる。

 うーん、何度見てもすごい。


「ここは雪が積もっているから、アンカーを打たないとな」


 家の中に入り、テーブルの上部を外すと操作盤が現れる。

 ボタンがずらっと並んでおり、ここを押せば天候対策も出来るのだ。

 えーと確か雪用は……これだ。

 ポチッとボタンを押すと、ズズンと音がして軽く揺れた。

 家の底から魔力のアンカーを生み出し、地中深くに突き刺さったのだ。

 これで雪崩などで動くことはない。


「ふぅ、とりあえず一息ついたな。寒いから風呂に入ろうぜ」


 散々滑って身体が濡れているからな。

 風邪を引いちまうぜ。


「……ボクは後でいいにゃ」

「ダメだ」

「にゃーーー!」


 俺はクロを捕まえ、風呂場へと行く。

 湯は精霊刀で生み出した水を、熱して使う。

 アッと今に湯船が完成。

 クロを抱きかかえたままざぱっと入ると、冷え切った身体に暖かい湯が染みていく。


「にゃはぁぁん」


 クロも何だかんだ言いながら、心地好さそうだ。

 風呂から出たらしっかりと身体を乾かす。

 精霊刀はここでも大活躍だ。

 タオルで拭いた後、軽く風を出してもらって髪と身体を乾かした。

 ただ熱風が出せないのは欠点だな。

 異なる精霊の力は同時には出せないのである。

 ふぅ、さっぱり。


「ほらクロ、次はお前だぞ」

「にゃあ」


 今度はクロの身体へ風を当てていく。

 ぶるるると身体を震わせると、濡れてしっとりしていたクロの毛がブワッと逆立った。

 ふわふわモフモフ、いつものクロだ。


「……外は吹雪いてきたな」


 窓を見れば辺りはもう暗くなっていた。

 びゅうびゅうと風の音が家の中にまで聞こえてくる。


「ユキタカ、お腹空いたにゃ」

「そういえばそろそろ晩飯の時間だよな」


 あれだけ運動をしたから腹も減ってきた。

 早速何か作るとしよう。


「まだグレイウルフの肉があったよな。寒いしすき焼きにでもするか」

「にゃ! すき焼きは大好きにゃ!」


 ソファの上でぴょんぴょん飛び跳ねるクロ。

 俺は鞄からグレイウルフの肉を取り出すと、切り取って薄くスライスしていく。

 こんな事もあろうかと、いい部分だけ残しておいたのだ。

 赤身に指した脂身が綺麗に霜を振っており、とても美味そうだ。


 スライスした肉をフライパンに入れ、玉ねぎと白ネギを刻んで投入。

 そこは醤油、砂糖、みりん、酒を入れ、じっくり煮込むだけ。

 手間暇いらずの楽チン料理だ。

 本当はしらたきや豆腐が欲しいけど、残念ながらそんな食材は手元にはない。

 まぁすき焼きはネギだけでも十分美味いので問題なし。


「んー、いい匂いが漂ってきたにゃあ」


 精霊刀で熱していると、フライパンの中がぐつぐつと沸騰してきた。

 そろそろ食べごろかな。

 蓋を取ると、白い湯気がもわっと上がる。


「うん、いい感じだ」

「にゃあ! にゃああ!」


 肉の匂いでテンションが上がっているのか、クロは何度も鳴き声を上げている。

 椅子に座ったまま、両手をたしたしとテーブルに叩きつけている。


「早く欲しいにゃ!」

「はいはい」


 俺はそう返事をすると、用意した小鉢に卵を割って入れた。

 それをかき混ぜ、十分煮えた肉とネギをその中に入れてクロの前に置いた。


「お待ちどうさん」

「にゃっ!」


 クロはそう一鳴きすると、すき焼きにむしゃぶりつきガツガツと食べ始める。

 相変わらず美味そうに食べるな。

 俺も食べるとするか。

 小鉢に卵を入れ、その中に肉とネギをどばどばっと投入。

 俺は卵は混ぜずに食べる派である。

 熱々の食材で卵が少し固まったのを崩して食べるのが美味しいんだよな。

 それに白身だけでも案外コクが出るもんだ。

 肉とネギを箸でつまんで一口。


「……うん、こいつは美味い」


 醤油と砂糖で甘辛く煮つけた肉に旨味が染み込み、いい塩梅になっている。

 ごはんが欲しくなる味だ。

 肉をつまんでは小鉢に入れ、食べていく。


「おかわりにゃ!」


 クロがあっという間に食べてしまったので、すぐにつぎ直してやる。

 俺もおかわりだ。

 んー、美味い。いくらでも食べられるな。

 そろそろ卵が温まって来たので箸で分断すると、半熟の黄身がとろりと溶け出す。

 この部分が濃厚で美味いんだ。

 肉と絡めて味わって食べる。

 至福の時である。

 冷えた身体もあったまってきたな。


「ふぅ、腹いっぱいになってきたな」

「にゃあ」


 クロも満腹なのか、腹が膨れていた。

 俺もこの辺にしておくか。

 後は精霊さん達に食べてもらおう。


「精霊さん、残りは食べてくれ」


 俺の呼びかけに応じ、精霊刀が淡く光る。

 そこから無数の光が伸び、残った肉を食べていく。

 しばらくするとフライパンはピカピカになり、精霊刀も満足そうに光り輝いていた。


「ごちそうさま」

「にゃ!」


 手を合わせ、ほっと一息。

 やっぱり寒いときは鍋だよな。

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