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8話 ミノタウロス

 五分ほど走ったところでメアリーの姿が見えた。


「い、いくぞっ、ファイアーデトネーション!」


 火球が撃ち出された。

 拳大のサイズで、速度はそれなりに出ている。

 獣が食らいつくようにして、獲物に着弾……爆発した。


 紅蓮の炎が吹き荒れる。

 数百度に達するであろう高熱の炎が渦を巻いて、対象を焼き払う。

 熱波がこちらまで届いてきた。


 これが魔法の力だ。

 非常に強力な力を秘めていて、無から有を生み出すことができる。

 神の御業といってもいいだろう。


「ほうほう」


 ヒカリが感心するような声をあげた。

 現代の魔法の力を見て、感心しているみたいだ。


 シャルアクと戦った時に、攻撃魔法は目にしていたのだけど……

 あの時は決闘の最中だから、気にする余裕はなかったのだろう。


「あの人、なかなかやりますね。あれでFランクというのなら大したものですね」

「それだけ魔法の力が優れている、ってことだ」

「ですが……あれでは足りませんね」


 やがて、炎の渦が晴れる。

 その中から、巨大な体を持つ魔物が姿を見せる。


 闘牛の全身をさらに筋肉で覆い、直立歩行させたような姿をしていた。

 丸太のような太さを持つ腕で、巨大な戦斧を手にしている。


 ミノタウロス。


 Cランクの魔物だ。

 討伐するには、同じくCランク並の力が……

 あるいは、複数のDランクの冒険者が必要と言われている。


 その豪腕から繰り出す攻撃は、一撃で人を死にいたらしめる。

 並の魔法使いでは、結界は簡単に破壊されてしまうし……

 なによりも驚異なのは、高い魔法耐性を持っているということだ。

 下級魔法はほぼ無効化してしまい、中級魔法以上でないとダメージを与えることができない。


 メアリーが使用したファイアーデトネーションは下級魔法なので、ミノタウロスに傷らしい傷は見当たらない。

 軽く皮膚は焦げた程度だ。

 怒りを買うだけに終わり、メアリーは絶望的な表情を浮かべた。


「ふむ。なぜ、こんなところにミノタウロスが……?」


 ダンジョンの1層は雑魚しかいないはずだ。

 最下級のFランクの魔物のみ。

 家を出る前に、ダンジョンについての予習をしたが……稀にEランクの魔物が紛れ込むだけで、Cランクのミノタウロスが現れたなんて話、聞いたことがない。


「マスター、どうしますか?」


 ヒカリに問いかけられて我に返る。

 考えるのは後回しにしないといけないか。


「正直なところ、ミノタウロスが相手だと苦戦するかもしれません……逃げますか? それとも、応援を呼びに行いきますか? どちらにしても、あの人たちは助かりませんが……まあ、仕方ないですね。ダンジョンに挑む以上、命を落とす覚悟はしているでしょう」

「いや。助けよう」

「え?」

「いくらなんでも、助けられる命を見捨てるのは後味が悪い。気に食わないヤツだが、助けることにしよう」

「あんな人のために命を賭けるのですか?」

「そこまでがんばるつもりはない」

「命を賭けるつもりはないけど、ミノタウロスと戦う……? えっと……私はマスターがなにを言いたいか、よくわからないのですが?」

「時間がない。ヒカリ、頼めるか?」

「は、はい。構いませんが……」


 不思議そうな顔をしながらも、ヒカリは剣になってくれた。

 俺は剣を手にして、ミノタウロスに向けて駆ける。


「おおおおおぉっ!」


 あえて声をあげて、ミノタウロスの注意をこちらに向けた。

 ミノタウロスは戦斧を振り上げて、俺を迎撃しようとした。


 ゴォッ!!!


 直上からの一撃。

 大地を断つような勢いで戦斧が振り下ろされた。


 俺は剣を盾のように構えて……

 戦斧が触れた瞬間、斜めに傾ける。

 傾けた刃に沿わせるようにして、戦斧を受け流した。


 戦斧は床に流れて、ミノタウロスの体勢が崩れた。

 その隙を見逃すようなことはしない。


 剣を鞘に戻して、前かがみになるように構えた。


「一之太刀……疾風!」


 一閃。


 力だけではなくて、速度も乗せた超速の一撃。

 ミノタウロスの首が吹き飛んだ。

 やや遅れて胴体が地面に倒れて……その体が魔石に変化した。


「……え?」


 ぼんっ、という音と共にヒカリが擬人化をして、目を丸くした。

 少し離れたところにいるメアリーも唖然としていた。


「えっと……マスター? 今、なにをしたのですか……?」

「なに、って……ヒカリは一緒に戦っていたんだから、わかるだろう? ミノタウロスの首を切り落とした。それだけだ」

「それだけ、って……ミノタウロスはCランクの魔物ですよ? 魔法に高い耐性を持っていて……それだけではなくて、その体も鉄のように硬いです。なので、いくらマスターでも苦戦は必須と思ったのですが……あんなにもあっさりと。しかも、一撃で倒してしまうなんて……マスターは、想定していた以上にすさまじい力を持っているんですね」

「俺の力なんて大したことないさ。魔法を使えない、落ちこぼれの剣士であることは間違いないからな。ミノタウロスを倒すことができたのは、ヒカリの力によるものが大きいだろう」

「いえいえいえ。いくら私でも、ミノタウロスを一撃で倒すことなんてできませんからね? いえ、本気を出せば可能ですが、今は7割の機能がロックされている状態ですし……」

「この前、ナイフを簡単に斬っていたじゃないか」

「あれは薄いからできたのです。ミノタウロスは鉄の塊みたいなものなので、さすがに無理ですよ。それなのに、どうして……? そういえば、技のようなものを使っていましたが、アレは?」

「抜刀術だ。超高速の一撃を叩き込む、必殺技だ。力だけではなくて速度もプラスされるから、切れ味が何倍、何十倍にも上昇する」

「な、なるほど……そんなトンデモ技を身に着けていたのですね。もしかして、それも漫画で覚えて……?」

「よくわかったな。そのとおりだ」

「マスターは、私が思っていた以上にとんでもないですね……これからは、トンデモ剣士と呼びましょうか……?」

「俺は普通の剣士だぞ?」

「ぜんぜん普通じゃないですから」


 ツッコミを入れられてしまう。

 最近、このパターンが多いような気がした。


「ひとまず、この話は置いておいて……おい、大丈夫か?」


 メアリーに声をかけた。

 見た目、怪我をしているようには見えない。


「そ、そんな……あのミノタウロスを一撃で……? しかも、魔法を使わずに剣で倒した……? そんなバカなことが……いや、でもこの目でしっかりと見て……幻覚? いや、そんなことは……」

「おい、大丈夫か?」


 なにやらブツブツとつぶやいていた。

 恐怖で気が触れてしまったのだろうか?


「おいこら、聞いているのか?」

「えっ?」


 パチパチと軽く頬を叩いてやると、ようやくメアリーがこちらを見た。


「大丈夫か?」

「あ、うん……大丈夫だよ。問題ないと思う」

「ならよかった。それで……なにがあったんだ?」

「なにが……って?」

「ミノタウロスだよ。1層にミノタウロスが出るなんて聞いたことがない。異常事態だ。なにかしらおかしな現象を目撃したとか……心当たりはないのか?」

「そ、それは……」


 メアリーが気まずそうな顔をした。

 まるで、いたずらがバレた子供みたいだ。


「心当たりがあるんだな? しかも、お前が原因と見た」

「うっ……」

「答えろ」

「……わ、わかったよ、素直に答えるよ。手っ取り早く功績を立てようとして、その……蠱毒の法を使ったんだ」

「こどくのほう? 魔法の一種なのでしょうか?」


 ヒカリが不思議そうな顔をした。


「外法と呼ばれるタイプの魔法だ。複数の魔物を生贄にして、強力な魔物を生み出すことができる」

「なかなかえげつない魔法ですね」

「禁呪に指定されている。普通は、Eランクが使えるような魔法じゃないが……なぜメアリーが?」

「たまたま、蠱毒の法の効果を持つ魔道具を手に入れたんだ。それで、手柄というか、名声を手に入れようと思って……でも……」

「ミノタウロスっていう予想以上の大物が飛び出した、っていうわけか。納得だ」


 話の筋は通っているし、メアリーがウソをついている様子もない。

 想像もできないような異常事態ではないと判明して、安心した。


「蠱毒の法を使うなんて、バカなことをしたな。こいつは強い魔物を生み出すが、そのせいでダンジョン内の魔物の生態系を崩すことがある。そうなると、強い魔物が上層で湧くようになったり……最悪、魔物の山が出現するスタンピードが発生するんだぞ。知っていたのか?」

「そ、そんなことが……」


 そのことは知らなかったらしく、メアリーは愕然とした顔になる。

 ウソはついていないみたいだ。

 それなら、強く責めるのも酷というものか。


「わ、私をどうするつもりなの……?」

「うん?」

「禁呪を無断で使用した者には罰が与えられる……ギルドに報告すれば、許可証は一発で剥奪されちゃう……キミは、私をどうするつもりなの?」

「別になにも?」

「……え?」


 メアリーがぽかんとした。

 それに構うことなく、俺はミノタウロスの魔石を回収した。

 さすがにCランクの魔物だけあり、魔石のサイズは大きい。

 ずしりとした感触がある。

 3キログラム……というところか?


「俺は運がいいな。まさか、ダンジョンの攻略初日で、30万も稼げるなんて思ってもいなかった。取り分は俺が9で、お前が1でいいな?」

「え? え?」

「なんだ、不満なのか? ミノタウロスを召喚したのはお前だから、少しは分け前はやるが……でも、お前の命を助けて、ミノタウロスを倒したのは俺だ。9対1が妥当なところだと思うが……」

「そ、そうじゃなくて……私をギルドに突き出さないの?」

「しない。面倒事は嫌いだ。それに、反省しているんだろう? なら、これ以上とやかく言う必要はない」

「……」


 メアリーはぽかんとして……

 ややあって、ポロポロと涙を流し始めた。


「な、なんていう人なんだろう……バカな私を咎めないで、その罪を見逃して、更生の機会を与えてくれるなんて……」

「マスターはそこまで考えていないと思いますよ」

「そこ、うるさいぞ」


 ヒカリがこそこそとささやくので、睨みつけてやる。

 すると明後日の方向を見て、ひゅーひゅーと口笛を吹く真似をした。


「くっ……私は自分が恥ずかしいよ! 魔法が使えるっていうだけの理由で、キミほどの力を持つ剣士を侮辱しちゃうなんて……過去の自分に出会えるなら、その場で殴り倒してやりたいくらいだよ! ごめんなさいっ、本当にごめんなさい!!!」

「あー……そんなに気にするな。間違いは誰にでもあるものだから……な?」

「でも、私は自分が許せないよ……! 力があるとうぬぼれて……いや、それだけじゃないよ。それ以前の問題だ。私はキミみたいな高潔な心は持っていない……最初から、人としての格が違っていたということだね……くっ、それなのになんて態度を!」

「えっと……俺の話、聞いているか? ホント、そんなえらい人間じゃないからな、俺は?」

「照れていますね」

「だからそこ、うるさいぞ」


 ヒカリがニヤニヤと笑っていた。

 ちょっと腹立たしいものの……

 ヒカリと話をしていると、不思議と和んだ。


 思えば、こんな風に気軽に話をしたことがなかった。

 誰も彼も俺を落ちこぼれと蔑み、哀れみ……

 まともな会話が成立したことがない。


 でも、ヒカリは違う。

 普通に話をしてくれて……

 ありのままの俺を見てくれている。


「……仲間っていうのも、悪くないかもな」

「はい? 今、なにか言いましたか?」

「なんでもない」


 照れくさい気持ちになり、適当にごまかすのだった。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!


※明日から12時に一度の更新になります。

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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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