7話 いざダンジョンへ!
今の手持ちは3万リム。
宿に泊まるとしたら、安いところでも一泊5000リムくらいはかかる。
このままだと一週間も保たない。
早急に金を稼ぐ必要がある。
さっそくダンジョンへ向かうことにした。
レッドフォグのダンジョンは街の中心に位置している。
この街は、ダンジョンの調査を行う人々が集まってできたと言われている。
最初はダンジョンの周囲にキャンプ地を建てて……
やがて、商人が目をつけて宿を整備して、商いを始めて……
そうすることで人が集まり、今のような街へ成長したらしい。
街の中心にダンジョンがあると不安に思うかもしれないが……
魔物はダンジョンの中でしか生きられないと言われている。
ダンジョンの中に満ちる瘴気が魔物の生命線なのだ。
瘴気のない地上に出ると、魚が丘に上がったように死んでしまう。
そのため、ダンジョンが街中にあっても問題はないと言われている。
もっとも、放置しておくわけにはいかないので、ダンジョンギルドなどが入り口を厳重に管理しているが。
「止まれ」
ダンジョンの入り口に来たところで、武装した男に止められた。
ダンジョンギルドの関係者だろう。
「見ない顔だな」
「最近、この街へやってきたばかりなんだ」
「ダンジョンへ?」
「ああ、そのつもりだ。許可証ならある」
許可証を見せると、男は一歩後ろに下がった。
「確かに」
「問題はないな?」
「そちらは?」
男がヒカリを見た。
「俺の……仲間だ」
迷いながらも、結局、仲間と言うことにした。
「ふむ……まあ、問題はないだろう」
男が横に移動して道を開けてくれた。
「見たところ、新人だな? 無理はしないで、自分の力に見合ったところで活動をするように」
「わかった、気をつけよう」
男に軽く手を振り、入り口へ移動する。
脇にカードをかざすような魔道具が設置されていた。
これが入り口のキーか。
カードをかざすと扉が開いて、ダンジョンへの道ができる。
さあ、いよいよだ。
――――――――――
「ふっ!」
剣になってもらったヒカリを横に薙いだ。
ゴブリンの体が上下に分断される。
その体は天に送られて、小さな宝石が残された。
全ての魔物は、この小さな宝石……魔石が核となって動いている。
人でいう心臓のようなものだ。
ダンジョンは魔石と瘴気を生み出すことができる。
大小様々な魔石が生み出されて……
それに瘴気がまとい、魔物という存在になる。
魔石は魔力が秘められているため、魔法全盛期の今の時代、貴重な鉱物としてそれなりの価格で取引されている。
大体、1グラムで100リムというところか。
ゴブリンの魔石は3グラムほどなので、300リムの稼ぎになる。
強い力を持つ魔物ほど、魔石も大きくなる。
また特殊な形をした魔石、特殊な輝きを持つ魔石もあり、それは価値が高くなる。
(さっきからゴブリンばかりですね。せっかくなので、もっと強い魔物と戦いませんか? ミノタウロスとかジャイアントワームとか……1層をうろうろしてないで、もっと下に降りましょう)
ヒカリが念話で話しかけてきた。
(却下だ。多少の知識は持っているとはいえ、俺たちはダンジョン初心者だ。まずは最上層……1層で無理なく戦い、知識と経験を蓄える必要があるからな。いきなり無理はできない)
(なるほど、マスターは堅実な方法を選ぶのですね。どんなに力があったとしても、油断することなく周囲の足場を固めていく……さすが、私の自慢のマスターです)
(納得してくれたのなら……ん?)
ヒカリと話をしながら1層を歩いていると、女の冒険者と遭遇した。
かなり若い……15くらいだろうか?
ぎりぎりで成人しているという感じだ。
なにも手にしていないところを見ると、やはり魔法使いなのだろう。
魔法があれば攻撃だけではなくて防御もできる。
体を張るタンクなんてものは、今の時代必要とされていない。
「こんにちは!」
「……ああ」
挨拶をされたので、適当に頷いておいた。
「見ない顔だね。もしかして、街にやってきたばかりなのかな?」
「ああ、そうだ」
「そうなんだ。私はメアリー。Eランクの冒険者だよ」
ダンジョンに挑む冒険者は、その力、功績に応じてランク分けされている。
一番低いのがFで、一番上がSだ。
「イクス・シクシスだ。Fランクだ」
「ということは、冒険者になったばかり? 一つしかランクは違わないけど、先輩として、できることはしてあげたいかな。なにかわからないことがあれば、なんでも聞いてちょうだい!」
「その時は頼りにさせてもらう」
「ところで……もしかして、イクスは剣士なの?」
帯剣しているので、俺の職業を当てるのは簡単だ。
ごまかすつもりもないので、素直に頷いておいた。
「ぷっ」
我慢できないといった様子でメアリーは小さく笑った。
「あはは、ごめんね。今の時代、剣士なんてものがまだ存在しているなんて……少し驚いちゃってさ。悪気があったわけじゃないんだ」
ウソつけ。
おもいきりバカにしてただろうが。
「失礼な人ですね。あなたには、マスターを笑えるほどの力があるのですか?」
我慢できないという様子で、ヒカリが擬人化してメアリーに噛みついた。
「え? 今、なにもないところから現れた……?」
メアリーがきょとんとした。
ただ、あまり気にしなかったらしく、話を続ける。
「キミは、もしかしてイクスの仲間?」
「仲間というよりは従者のようなものですが……それが?」
「キミはけっこう強そうだね。強者のオーラっていうものを感じるよ。それなのに、どうしてイクスの仲間をしているの? うーん、もったいないなあ……そうだ。私と一緒に来ない? 今なら私がキミの面倒を見てあげるよ」
「頭が沸いているのですか?」
「え?」
「なぜ、マスターよりも遥かに格下の人についていかないといけないんですか? 普通に考えて、そんなことはありえないですね」
「……私が剣士より劣るっていうのかな?」
「その通りですね。あなたとマスターでは、天と地ほどの力の差がありますから」
「ぐっ……!」
メアリーが顔を赤くするが……
「……まあいいや。私はこんなところで時間をつぶしているわけにはいかないし。せっかくのチャンスを逃すわけにはいかないからね」
「チャンス?」
「それじゃあ、私は行くよ。役立たずの剣士と一緒に、せいぜいがんばるといいよ。じゃあね、あはははっ」
メアリーはうざい笑い声を残して、奥に消えた。
「なんですか、あの女は……? 私のマスターを馬鹿にするなんて許せません。ちょっと斬り刻んできてもいいですか?」
「買い物してきていい、みたいな気軽なノリで恐ろしいことを言うな。放っておけばいいさ」
「どうしてですか? マスターは頭に来ないのですか?」
「いつものことだ。慣れている」
魔法が使えず、剣士として生きてきて……
その中で、何度、バカにされてきただろうか?
俺にとってはそれが当たり前のことなので、今更、特に思うことはない。
すると、ヒカリは複雑な表情を浮かべる。
「そんなの……寂しいです。そんなことに慣れてしまうなんて……それは、ダメなことだと思います」
「それは……そうかもしれないな」
でも、本当に今更なのだ。
小さい頃から染み付いた感情は、簡単に消えることはない。
「モヤモヤしますが……ですが、マスターがなにもしないというのなら、私はそれに従います。ですが、覚えておいてください。私は、マスターをはダメなんて思っていません。むしろ、飛び抜けた力を持つ、すさまじい剣士だと思っています。私はマスターの味方です」
「……ありがとな」
心に染み付いた感情は二度と取れないと思っていたのだけど……
ヒカリと一緒にいると、不思議な感覚がした。
イヤな思い出が消えていくような……そんな気がした。
「さて……メアリーのことなんて忘れて、俺たちは俺たちで狩りを続けるか」
「やはり、下に降りませんか?」
「ダメだ」
「残念です……」
「退屈なのか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、下層を攻略すれば、自然とマスターの名声も高まると思いまして」
「色々と考えてくれてるんだな」
「マスターのためですから」
「まあ……それでも、今はパスだ。やはり堅実にいこう」
「わかりました」
ヒカリが納得してくれたところで、一層の探索を再開しようと……
「ひいいいいいぃーーー!!!?」
探索を再開しようとしたところで、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
メアリーのものだ。
「マスター、どうしますか?」
「さすがに放っておくわけにはいかないな」
俺たちは悲鳴の方に駆け出した。
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