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5話 規格外の剣士

 シャルアクに勝利した結果、許可証を発行してもらうことになった。

 あれだけの力があるのなら問題ないですね、とサナリーに言われた。

 ただ、時間がかかるので後日になった。


 多少、遠回りすることになったけれど……

 これでダンジョンに入ることができる。

 しばらくはダンジョンに挑み、金を稼ぐことにしよう。


「それにしても、本当に魔法を斬ってしまうなんてすごいですね」


 準備もなしにダンジョンに挑むことはできない。

 必要なものを買いに出て……その途中、驚いた様子でヒカリがそんなことを言う。


「以前、私が起きていた時……500年前も魔法を斬った人なんていませんでした。それなのに、マスターは平然とやってのけて……私のマスターはとんでもないですね」

「……ちょっと待て。その口ぶりだと、確信があったわけじゃないのか? 聖剣なら魔法を斬ることができるとか、そういう能力があったんじゃないのか?」

「私は全てを斬ることができる、と言われていますが……持ち主の実力が足りていないとうまくいきません。それなりの……いえ、かなりの力量を必要とされるため、今までに魔法を斬るという偉業を成し遂げた者はいませんでした」

「おいおい……そうなのか?」


 予想外の答えに唖然としてしまう。

 あの場面で、できるかどうかわからない不確かなことをさせようとしていたのか。


「いえ、違いますよ。マスターなら……私のマスターならきっとできると信じていたんです。ただ、まあ……本当に魔法を斬るところを見せつけられると、やはり驚きもあり……なかなか冷静になれない、という感じでしょうか」


 なんだかんだで、ヒカリに信頼されているみたいだ。

 今まで、誰にもこんな感情を向けられることはなかった。

 悪い気分じゃない。


「それにしても、マスターは、いったいどのような修練を積んできたのですか?」


 ヒカリが不思議そうに問いかけてきた。


「マスターが並の剣士でないことは、神具である私からすれば、一目見ればわかることですが……どのようにして、それほどまでに強大な力を手に入れたのか、そこは理解できません」

「俺は大したヤツじゃない。ただの落ちこぼれだ」

「それは魔法に関することでしょう? 剣に関しては別です。とんでもないレベルに達していますよ。剣に限った話をするならば、世界で五本指に入るのではないかと」

「すごい話をするな。どう考えても買いかぶりすぎだ」


 小さい頃から修練しているが、大したことはしていない。


 筋トレに体幹トレーニングに走り込み。

 それから素振りをして、カカシに対して打ち込み。

 最後に、剣技教本などの参考書に書かれている技を繰り返し練習する。


 それだけだ。

 他に特別なことはなにもしていない。

 そんな俺が強いなんてことはありえない。


 そのことを教えると、ヒカリは納得できないというような顔をした。


「それだけの修練で、これだけの力を手に入れた? ありえないですね……どういうことでしょうか? ……ちなみに、素振は何回していたのですか?」

「真剣で1万回だな」

「いちっ……!?」

「ああ、そうそう。最近は慣れてきたから10万回に増やしたな」

「じゅ、10万……」


 筋トレは、腕立て腹筋スクワットなどを1000回、5セット。

 走り込みは100キロメートル。

 打ち込みは頑丈な木で作られたカカシが壊れるまで。


「特筆することのない普通の修練だろう?」

「どこが普通なのですか!!!」


 なぜかツッコミを入れられてしまう。


「おそろしい訓練をしているんですね……なるほど、それでこれだけの力を。納得です。しかし、よく体が壊れませんでしたね。普通なら体が壊れて……あと、心も壊れてしまいそうなものですが……」

「魔力がゼロだから、その分、体を鍛えようと思ったんだ。まあ……意味はなかったけどな」


 父さんと母さんの顔が思い浮かぶ。


 どれだけがんばっても、どれだけ修練を積み重ねても。

 決して認めてもらえなかった。

 意味のない無駄な作業だった、というわけだ。


「そんなことありません!」

「ヒカリ?」


 なぜか、ヒカリは怒ったような悲しむような顔をして、俺の言葉を否定する。


「マスターはがんばりました。すごくがんばりました。その努力は無駄ではありません。絶対にそんなことはないです。他の誰がなんて言おうと、私はマスターの努力を認めますよ。マスターは誰も真似できないほどの努力して、そして、強くなりました。力を得ました。そのことを私が保証します」

「ヒカリ……」

「マスターの修練は、きちんと活かされていますよ。でなければ、あのキザな男に負けていたはずです。それだけじゃなくて、私と出会うこともなかったと思います。マスターが修練を積み重ねたことで、私たちは出会うことができた。この出会いに、意味を求めてはいけませんか?」


 その言葉は素直にうれしい。

 心に染み渡るみたいで、ドロドロとした暗い感情が消えていくのがわかる。


 ただ、俺はひねくれているから……


「……そっか」


 そんな一言を返すだけで終わりにしてしまう。

 ダメな男だな、俺は。


「ところで、剣技教本なんていうものがあるんですか? 魔法こそが最強と言われている時代なら、剣技教本なんてものはないと思うのですが」

「普通の剣技教本はないな。あったとしても昔のもので、大抵が博物館に納められている。役に立たない代物だ。だから、漫画を代わりにしたんだよ」

「漫画……ですか?」

「魔法全盛期の時代だけど、漫画なら、まだ剣を使う主人公が出てくるんだよ。創作物の中だから、現実はあまり関係ないんだろうな」

「漫画を参考にしていた、っていうことは……漫画に出てくる技を実際に練習してみたり? そんなことをしてたわけ?」

「ああ、そうだ」

「くすくす」


 ヒカリに笑われた。


「漫画を参考にしたと言われても……さすがにそれは現実的ではないかと」

「そんなことはないぞ? 漫画だからってバカにするな。けっこう役に立つからな」

「どのように役に立つのですか? いくらなんでも、漫画のような必殺技が現実に使えるわけではありませんし」

「いや、そんなことはな……っ! こいつ……!?」


 ないと言いかけたところで、男とぶつかる。

 ごめんよ、と言って男は立ち去ろうとするが……


「待て!」


 イヤな予感がして財布を確かめると、なくなっていた。

 おそらく、魔法を使いかすめとったのだろう。


「どうしたのですか?」

「あの男はスリだ!」


 急いで追いかけるが、男は魔法を使おうとしていた。

 おそらく、魔法で逃げようとしているのだろう。


 それならば……


「ヒカリ!」

「はい」


 目で合図を送ると、こちらの意図をすぐに察してくれて、ヒカリは剣に変化した。

 剣を構えて駆ける。

 男と交差した瞬間、剣を振る。


「な、なんだ? 剣だと……?」


 男が訝しげに自分の体を見た。

 傷がついていないことに安心するが……


 ……ハラリ。


「なぁっ!!!?」


 時間差で男の服がズボンから上着まで、全部、バラバラに切り刻まれた。

 下着一つを残すだけになり、あられもない姿を晒す。


「財布、返してもらうぞ?」

「ひっ、ひぃいいいいい、すみませんでしたぁあああああっ!!!?」


 財布を返すと、男は泣きながら逃げ出した。

 後に残るのは、切り刻まれた男の服だけだ。


「い……今、なにをしたんですか?」


 擬人化したヒカリが、驚いた様子で尋ねてきた。


「見ればわかるだろう? 脅しとして、男の服を斬ったんだよ」

「いえ、そういうことを聞きたいのではなくて……どうしたらそんなことができるのですか? 男の服だけを斬り刻むなんて……」

「練習したからな」

「練習……ですか?」

「ほら、漫画ではよくあるだろう? 悪人をこらしめるために、服だけを斬る。典型的なパターンだよな」

「まさか……」

「俺も練習をして、同じことができるようになったんだ」

「漫画は誇張表現されているので、現実にそんなことができるわけないんですけど……」

「できるぞ?」

「いや、まあ、確かにできましたが……普通に考えて、ありえないことですよ? 体を一切傷つけることなく、全身の服だけを切り刻む。しかも、一瞬の間に。そんな芸当を可能にするには、どれだけの精密な剣技が要求されるか……考えただけで頭が痛くなりますね」


 ヒカリは頭を抱えた。

 クラクラしている様子だ。

 大丈夫だろうか?


「と、いうわけだ」


 俺はヒカリにドヤ顔を見せた。


「漫画に描かれている技はたくさんある。それを習得すれば、強くなることができる。漫画も立派な教本になるだろう?」

「漫画に出てくるようなとんでも技を習得できるわけないと思うのですが……」

「俺は習得したぞ?」

「それはマスターが例外であって、普通は無理ですよ。私のマスターは、どれだけ規格外なのでしょうか……?」

「いや、これくらい誰でもできるだろう?」

「できませんからっ!!!」


 再びツッコミを入れられてしまうのだった。

本日19時に次話を投稿します。

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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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