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4話 ダンジョンギルドの試験

「ところで、お金を稼ぐと言っていましたが、どこで稼ぐのですか? そこら辺の人を斬りつけて、金を奪うのですか?」

「あのな。それじゃあ、ただの辻斬りじゃないか」


 そこまで堕ちるつもりはない。


「ちゃんとした手段で稼ぐさ」

「ですが、剣士は格下に見られているのですよね? そんな状況で、まっとうな仕事を斡旋してもらえるのですか?」

「剣士だとしても、稼ぐ方法はあるんだよ」

「それはなんですか?」


 マイペースに、ヒカリがそう問いかけてきた。


「ダンジョンへ潜る」




――――――――――




 今から100年ほど前……世界の各地にダンジョンと呼ばれる迷宮が現れた。

 街よりも広く、深さは計り知れない。

 ダンジョンを攻略するために、日々、人々は挑み続けているが、未だ最下層に到達した者はいない。


 やがて……


 ダンジョンは人々の生活の一部となった。

 ダンジョンへ潜り、中に落ちている色々な素材を手に入れる。

 あるいは、ダンジョンに徘徊する魔物を倒すことで、魔石という特殊な素材を手に入れる。

 それらを売ることで金を得る者……冒険者が誕生した。


 家を出た俺がレッドフォグを目的地にしたのも、ここにダンジョンがあるからという理由が大きい。

 金に困ったとしても、冒険者となってダンジョンに潜れば金を稼ぐことができる。


 ただ、一つ問題があった。

 誰でもダンジョンに潜ることができるというわけじゃない。

 中は魔物が徘徊していて罠も存在する。

 力のない者が挑むと命を落としてしまうかもしれない。


 そういった事態を避けるために、ダンジョンギルドが存在していた。


 ダンジョンギルトというのは、ダンジョンに関するありとあらゆる事柄を管理している組織だ。

 ダンジョンで手に入れたアイテムをギルドで買い取ってもらう。

 そして、ギルドは商店にアイテムを下ろす。

 忙しい冒険者に代わり、そういった仲介業者のようなことをしているのだ。


 他にも、ダンジョンの出入り口に人を配置して、中に入る人を管理したり……

 ダンジョンの攻略情報を販売しているなど、色々なことに手を伸ばしている。


 ダンジョンに潜るには、ギルドが発行した許可証が必要だ。

 勝手に中に入ることはできない。

 バレたら捕まってしまうし、アイテムを買い取ってもらうこともできない。


 なので、許可証を発行してもらうためにギルドを訪ねた。


「こんにちは。私は、ダンジョンギルドの受付を担当しているサナリー・クラウネルと言います。よろしくおねがいします」

「イクス・シクシスだ」


 明るく元気な受付嬢だ。

 これなら、スムーズに話が進むかもしれない。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「許可証を発行してほしい」

「新規の発行ですか? それとも、紛失などの理由での再発行ですか?」

「新規だ。新しく冒険者になろうと思っている」

「なるほど……はい、わかりました。では、こちらの書類に記載をおねがいします」


 サナリーから書類を受け取り、名前、年齢、職業などの項目を埋めていく。

 全ての項目を埋めた後、書類を渡す。

 すると、サナリーが顔を曇らせた。


「職業……剣士? え? 剣士……ですか?」

「ああ、そうだ」

「そういえば帯剣していますね……」


 俺の腰の聖剣を見て、サナリーは納得顔になる。

 ちなみに、ヒカリは剣になってもらっている。

 パーティーを組んでいると、手続きが面倒になるのだ。

 ヒカリは俺の剣なので、パーティーとは微妙に違うため、今は剣になってもらい姿を隠してもらうことにした。


 ちなみに、ヒカリとは別に、もう一本、帯剣している。

 こちらは実家から持ち出した剣だ。

 刃が潰れているが、幼い頃から使っているので愛着があり、いつも身につけている。


「今の時代に剣士なんて珍しいですね」

「色々とあってな」

「冒険者といえば、昔は剣士や槍士の方ばかりでしたから、前例がないわけではありませんが……うーん。ちなみに、イクスさんはどの程度の魔法を使うことができるんですか?」

「魔法は使えない」

「え?」

「まったく使えない。生まれつき魔力がゼロなんだ」

「となると……うーん、難しいですね。魔法が使えないのにダンジョンに潜るなんて、自殺行為ですよ? 死ぬとわかっていて送り出すことなんて、できませんよ」

「無理はしないと約束する」

「ですが……」

「上層だけでもいい。1層のFランク魔物しか相手にしない。それなら、剣でも戦うことができるだろう。それでもダメか?」

「うーん……そうですね。それなら……」

「なんていうことでしょう。すばらしい勘違い野郎がいますね」


 突然、見知らぬ男が会話に割り込んできた。

 整った顔をしていて、その気になれば初対面の10分で女を口説き落とせるだろう。


「キミ、あまり無茶を言うものではありませんよ」

「なんだ、あんたは?」

「私は、キミがなろうとしている冒険者ですよ。キミの先輩であり……そして、善意の忠告者というところですね」


 一つ一つの仕草がキザったらしい。

 早くもイライラしてきた。


「魔法を使えないのにダンジョンに挑むなんて、無知無謀の極み。愚かとしか言いようがありませんね。悪いことは言いません、やめておきなさい」

「俺がどうしようと勝手だろう。あんたに、俺の行動に口を出す権利なんてないはずだが?」

「無謀なことをしようとしている若者を止めることが、私たち大人の義務ですよ」


 コイツも父さんや母さんと似たようなことを言う。

 どうして人の人生に口を出してくるのか?

 俺の人生は俺だけのものだ……どうするかは俺が決める!


「忠告ありがとう。でも、俺はダンジョンに挑むのをやめるつもりはない」

「やれやれ、聞き入れが悪いのですね。魔法を使えないと聞きましたが、魔力が失われているだけではなくて、礼節と知識も失われてしまったみたいですね」


 さすがにカチンと来た時……


「さっきから黙って聞いていれば……つまらないことばかり口にしてくれますね。いい加減にしてくれませんか? 私のマスターを馬鹿にするのならば、それ相応の考えがありますよ」


 ぼんっ、という音と共にヒカリが現れた。


「な、なんだ!? いきなり女の子が……突然現れたように見えたけれど、誰なんですか?」

「私のことはどうでもいいです。それよりも、マスターに対する暴言の数々、とても見逃せたものではありません。謝罪してください」

「ふんっ。なぜ彼に謝罪しなければいけないのか理解できませんね。彼は魔法が使えない。つまり、無能ということ。剣士などという無能しかいない職についているのだから、どのようなことを言われても仕方ないと思いますが?」

「私のマスターをここまで馬鹿にするなんて……!」

「どこの誰か知りませんが、このような無能と一緒にいない方がいいですよ?」

「私は望んでマスターと一緒にいるのです。余計なお世話です」

「魔法を使えない無能なのに? ふむ……もしかして、キミも残念な子なのですか? 無能は無能を呼ぶ、ということですか」

「……なら、俺と試合をしてくれないか?」


 俺は無能だ。

 魔力はゼロで魔法を使うことができない。

 だから、俺についてだけならば、まだ我慢はできた。


 しかし、ヒカリは関係ない。

 ヒカリまでバカにされると、非常にイライラした。

 我慢できずに口を出す。


「試合だと?」

「そこまで言うんだから、あんたはさぞかし優秀なんだろ? 稽古をつけてくれよ。俺のような無能に、魔法使いの力を教えてくれないか? なあ、いいだろう。とても優秀な魔法使いさん」

「……キミは、やはり口の聞き方がなっていないようですね。いいでしょう。特別に、この私が相手をしてあげましょう」

「あ、あのー……勝手に私闘をされると、すごく困るんですが……というか、ここで暴れないでくださいね?」


 サナリーがおずおずと口を挟んできた。




――――――――――




 広場に移動した。

 どこからか話を聞きつけたらしく、たくさんの見物人がいる。


「なになに? どうしたの、これ?」

「閃光のシャルアクさんに噛みついたバカがいるんだってさ。しかも、そいつは魔力ゼロの無能らしい」

「ありえなくない? シャルアクさんにボッコボコにされるといいんじゃない」


 どうやら男はシャルアクという名前らしい。

 それなりの力があるらしく、知名度は高いみたいだ。


「えー……では、僭越ながら私が審判を務めますね」


 騒動に巻き込まれたサナリーが、睨み合う俺とシャルアクの間に立つ。


「ルールは単純明快で、相手を気絶させるか動けなくした方が勝ち。ただ、やりすぎには注意してください。ひどい怪我を負わせたり、万が一、殺害したら普通に憲兵隊に突き出しますからね? ホント、くれぐれも自重してくださいね?」

「心配する必要はないですよ、サナリーさん。この私を誰だと? 閃光の二つ名を持つ、Dランクの冒険者ですよ。無能を相手に本気を出すなんてことはありえませんね。すぐに終わらせてやりますよ」


 生意気がヤツだけど……

 力はあるらしく、大きな魔力を感じる。

 二つ名を持つ冒険者というのは伊達じゃないらしい。


 さて……勢いで戦いを挑んだものの、どうするか?

 剣で魔法に勝つなんて不可能だ。

 しかし、ここまできて引き下がるわけにはいかない。

 できることならば、最低限、引き分けに持ち込みたいが……


「マスター。私を使ってください。一緒にあのいけすかない男を叩きのめしましょう! 私のマスターを馬鹿にしたこと、後悔させてやります」

「……やれやれ。頼りになるヤツだな、ヒカリは」


 こんな時でも、ヒカリは一切臆することはない。

 そんな彼女を見ていると、悩んでいたのがバカらしくなる。

 全力でぶつかり、一矢報いてやるか。


「いきます!」


 ぼんっ! という音と共にヒカリが消えて、剣となり、俺の右手に収まる。

 その異様な光景に周囲がざわついた。

 シャルアクも唖然としていた。


「な、なんですかそれは……? 女の子が剣になったように見えましたが……さきほどもいきなり現れましたし……」

「お前に教える義務も義理もないな」

「私に向かって、またそのような口を……さっきは一瞬で終わらせると言いましたが、気が変わりました。徹底的にいたぶり、調教してあげますよ」


 シャルアクの魔力が膨れ上がる。

 ピリピリと肌が刺激されるようで、頭の中で警報が鳴る。


 俺は努めて冷静を保ち、剣を構える。


「それでは……始め!」


 サナリーの合図で試合が開始された。


「サンダーデトネーション!」


 シャルアクが電撃を放つ。

 紫電の一撃は、地を這う獣のように疾走して、俺に食らいつこうとした。


 俺は横に跳んで避けようとして……


(大丈夫です、逃げる必要はありません)


 頭の中でヒカリの声が響いた。


(な、なんだ!?)

(剣の状態だと声が出せませんからね。なので、代わりに、こうして念話で話をすることができるんです)

(なるほど……とことん規格外の剣だな)

(それよりも、逃げる必要なんてありませんよ。アレを斬ればいいだけの話です)

(アレって……魔法を斬れ、っていうのか!? そんなことができるなんて話、聞いたことがないぞ)

(大丈夫です。私とマスターなら、なんとかなると思います。そのための聖剣。そのための修練。マスター、あなたは剣士なのでしょう? なら、アレを斬ってみせてください。私のマスターには、それだけの力があるはずですよ。私を信じてくれませんか?)


 ヒカリの言葉は、不思議と俺に自信を与えてくれた。


 やれるというのならば……

 やってやろうじゃないか!


 俺は剣士だ。

 魔法だろうとなんだろうと、斬ってみせる!


 覚悟を決めて、その場に踏みとどまる。

 そして剣を構えて……一閃。

 シャルアクの電撃を一文字に切り裂いた。


「な、なんだと!? 私の魔法を……斬った!? そんなバカな! ありえません、そのようなことは聞いたことがありません! 歴史書を見てもそのようなことを成し遂げた人はいません! あ、ありえませんっ!?」


 魔法を斬るという前代未聞の出来事に、シャルアクが大きな動揺を見せた。

 ここだ!

 その隙を見逃すことなく、一気に駆けて懐に潜り込む。


「くっ!? だ、だが、私たち魔法使いには結界があります! 武器なんかで結界を突破することは不可能ですよ!」


 魔法使いの強力なところは、攻撃だけではなく防御も優れているところだ。

 戦闘の際は、常時、結界と呼ばれる防護壁を周囲に展開させている。

 鋼鉄の盾に守られているようなもので、普通の武器ではまず突破することができない。

 故に、武器は時代遅れの代物として扱われるようになった。


 突破することができない結界……しかし、俺はそれを突破する!

 聖剣を横に薙いで……

 キィンッ! と結界が砕ける音が響いた。


「なぁっ!!!? 結界まで斬ったというのですか!? あ、ありえない、バカな!!!?」


 驚愕するシャルアクを聖剣の腹で殴りつける!


「ぐあああっ!!!?」


 ホームラン!

 野球のボールになったように、シャルアクが大きく吹き飛んだ。


 そのままゴミ捨て場に頭から突っ込む。

 ピクピクと痙攣しているところを見ると、生きているみたいだ。


「えっと……」


 唖然とするサナリー。


「お、おい……シャルアクさんが負けたぞ。しかも、一撃で……あいつ、実はとんでもないヤツなのか?」

「今、魔法を斬っていたよな……? そんなこと聞いたことがない……すごい、すごすぎる……」

「剣士が魔法使いに勝つなんて……なんて人だ。すごいなんてものじゃない、歴史に残る偉業だ……お、おい。ここに世界記録の審査員はいないのか!?」


 周囲の見物人たちも、なにが起きたか理解できない様子で目を丸くしていた。


「す、すごいです……! イクスさんは剣士なのに、シャルアクさんに勝つなんて……ううん、勝つというレベルじゃなくて、圧勝……まるで相手にしていなかった。なんて人なんでしょう……」


 サナリーも驚いていた。

 そんなサナリーに声をかける。


「審判、勝負はついたと思うが?」

「え? あっ……そ、そうですね! えっと……勝者、イクスさん!」

「やりましたね♪」


 ヒカリが擬人化して、笑顔でVサインを決めた。


「おめでとうございます、マスター」


 ヒカリが祝福してくれるものの、いまいち実感が湧いてこない。


「すごいな……まさか、本当に魔法を斬ることができるなんて……」


 自分でやったことなのだけど、実感が湧いてこない。

 それほどまでに、俺がしたことはありえないことなのだ。


 不可能を可能にしてしまう力……それが、聖剣エクスカリバー。

 改めて、その力を思い知る。


「ヒカリの力に素直に感動したよ。すごい。いや、すごいっていうものじゃないな、これは……語彙が貧弱で悪いが、とにかくすごいな」

「やっ、えっと、あの……そこまでべた褒めされると、さすがに恥ずかしいのですが……」

「照れているのか?」

「それは、まあ……照れますよ。大事なマスターが、私のことを褒めてくれているのですから……ありがとうございます。マスターのお役に立てたみたいで、とてもうれしいです」


 ヒカリは頬を染めながらも、ニッコリと笑う。

 とても綺麗な笑顔だ。


「改めて、ありがとな」

「どういたしましてです」


 パートナーであるヒカリに感謝の言葉を捧げた。

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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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