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22話 災厄の予兆

 トラップを解除した後……

 俺たちは地上へ戻った。

 今まで通り、なにか予想外のことが起きた時のために待機する。


 そのまま陽が暮れた。


 夜になり、A班が地上へ帰還して、B班にバトンタッチされる。

 ダンジョン攻略は順調で、8層に到達したらしい。


 その後……


 夜にトラブルが起きることもなく、俺たちはぐっすりと寝ることができた。

 俺たちが出動したのは、面倒なトラップを解除する時の一回だけだ。

 他に事件らしい事件はない。


 翌朝……

 C班が出動した。


 攻略している階層は9層だ。

 しかも、10層に繋がる階段も見つけているという。


 ここから先は未知の領域だ。

 なにが起きるかわからない。

 常識では計り知れないトラブルが起きるかもしれない。


 いざという時に備えて、俺たちも最初から同行することにした。

 そして……レッドフォグのダンジョンの未踏地。

 10層へ足を踏み入れる。


「ここが10層ですか……意外と普通ですね」


 隣を歩くメアリーがそんな感想を漏らした。


 メアリーの言う通り、10層になったからといって目新しいことはなかった。

 今までの階層と大して変わらない。

 魔物の強さは増しているが、十分に対処可能なレベルだ。

 冒険者たちが魔法を使い、周囲の魔物を掃討していた。


(マスターは戦わないのですか?)


 すでに剣になってもらっているヒカリは、念話で話しかけてきた。

 普通に声を出してもヒカリは聞き取れるのだけど……

 傍から見ると独り言をつぶやいているように見えるので、念話で返す。


(戦いたいところではあるが……)


 遊撃隊とはいえ、のんびりしていたら魔石も何も手に入れることはできない。

 ただ……剣士なんて呼んでいない、という雰囲気なんだよな。


 他の冒険者たちは、ほとんどの者が第一線で活躍するベテランだ。

 そんな者が、ぽっと出の剣士を……しかもFランクの冒険者を頼りにするわけがない。

 ここに来てから厳しい視線を向けられてばかりで、友好的なものはまるでない。

 こうして戦いになったとしても、剣士の出番はないというように、即座に魔法が発動されて魔物が駆逐されている。


(まあいいさ。俺の場合は、1階層奥に進むだけでも報酬がもらえる。かなりの額だ。それで十分だ)

(……私は不十分ですが)

(なぜだ?)

(私の大事なマスターをバカにされるのは許せません)

(……ありがとな)

(え?)

(ヒカリがそう思ってくれているなら、それでいいさ。他のヤツにどう思われようと知ったことじゃない。だから、俺はまったく気にしていない)

(マスター……はいっ、私はいつまでもマスターの味方ですからね!)


 今のヒカリは剣になっているのだけど……

 にっこりと笑っているような気がした。




――――――――――




 10層の探索が無事に終わり、11層へ続く階段を見つけた。

 多少の怪我人は出ているが、脱落者はいない。

 いいペースだった。


 11層へ降りる前に、ポーターを設置することになった。

 周囲を警戒しつつ、冒険者たちが作業にあたる。


「やあ、イクスじゃないか」


 のんびりと作業を眺めていると、聞き覚えのある声が。

 振り返ると、アトリーの姿があった。


「アトリーか。久しぶりだな」

「久しぶり。イクスも攻略に参加していたんだね」

「ああ。アトリーもな」

「これでも、一応、Cランクだからね。ロズウェルさまから声をかけてもらったよ。イクスもロズウェルさまから?」

「そういうことだ。誰かさんの推薦があったおかげでな」

「あはは、余計なことをしたかな?」

「いや。素直に助かる。今は仕事が欲しいからな」

「そうか。ならよかったよ」

「アトリー、誰と話をして……むっ」


 もう一人、見覚えのある顔が現れた。

 ただ、アトリーのように親しげな笑みは見せていない。

 こちらを睨みつけている男は……スタックだった。


「貴様か……このようなところでのんびりしているとは、良い身分だな」

「俺は魔法が使えない。日常的な魔道具ならともかく、ポーターのような専門的な魔道具を設置することはできない。なら、周囲の警戒をする方が効率がいいと思わないか?」

「無駄話をしているように見えたが?」

「これでも警戒は続けている。事実、周囲に魔物はいないだろう?」


 図星らしく、スタックはなにも言えない。


 俺に対して悪感情を持つのは勝手で、理由もわからなくはないが……

 俺がおとなしく言われるがままにされると思わないでほしい。

 頭に来た時は、普通に嫌味を混ぜて言い返す。


「ちっ……まあいい。お前に構っている時間は私にはない。アトリー、ついてこい」

「どうしたんですか?」

「10層の一部で妙な魔力反応があった。我々で調査に赴く」

「攻略はどうするんですか?」

「そちらは別に進めておく。我々も、そこの男と同じような遊撃隊なのだ。妙な魔力反応……気になるから捨て置くことはできない」

「わかりました。お供します」

「準備ができたら声をかけろ。急げよ」


 言うだけ言って、スタックはこの場を立ち去る。

 俺の近くにいたくないという感じだ。


 そんなスタックの気持ちを察したらしく、アトリーが苦笑する。


「すまないね。スタックさまも悪い人ではないのだけど、ちょっと気の難しいところがあって……」

「アトリーも大変だな、あんなヤツと一緒にいないといけないなんて」


 スタックは、アトリーも遊撃隊と言っていたから……

 常に一緒に行動しているのだろう。


 すごいな、と尊敬する。

 あんな男と一緒にいたら、俺なら、ストレスで円形脱毛症になる自信があるぞ。


「じゃあ、僕は行くよ。イクスは、このまま11層へ?」

「その予定だ」

「そっか。がんばってほしい。それと、気をつけて」

「アトリーもな」


 互いの健闘を祈り、俺たちは別れた。


「「むぅ」」


 近くで話を聞いていたヒカリとメアリーが、揃って頬を膨らませた。


「あの男……私の大事なマスターをバカにしすぎでは? 許されることではありませんね」

「兄さんったら、しつこいんだから……おはようの挨拶を大嫌い! に変えてやろうかな?」


 近頃、息の合う二人であった。




――――――――――




 スタックとアトリーは本隊から離れて、別行動をとっていた。

 スタックが感じたという、妙な魔力反応を調べるためだ。


 踏破したばかりの階層を二人だけで……というのは、多少、不安がある。

 ただ、攻略隊が大半の魔物を倒している。

 魔物は周期的に湧いてくるが、さすがに数時間で復活はしない。

 早くても半日はかかる。


 故に、二人だけで行動をしても安全なのだ。


「ところで、妙な魔力反応というのはどの辺りで?」

「この先だ」


 スタックはマッピングした地図を取り出して、ダンジョンの左端を指さした。

 ちなみに、本隊は右端にいる。


「本隊からだいぶ離れてしまいますね」

「すでに大半の魔物は掃討されている。それに、この階の魔物の力は判明したし、階層主の部屋も避ければ問題はないだろう」

「そうですね。でも、気をつけていきましょう」

「わかっている」


 二人はしばし無言で歩いた。

 少しして、スタックが不思議そうにアトリーに問いかける。


「お前は、あの男と仲が良いのか?」

「あの男? ……もしかして、イクスのことですか?」

「ああ、ソイツだ」

「うーん、どうでしょうね。僕としては仲良くなりたいと思っていますが……彼の方はどう思っているのか」

「剣士を友にしたいと言うのか? ヤツは魔法を使えない役立たずなんだぞ?」

「確かに、魔法は使えないみたいですが……でも、剣士としてはとんでもない力を持っていますからね」

「アトリーもヤツを持ち上げるのか……」

「事実ですから。持ち上げているつもりはありませんよ」

「ふん……どいつもこいつも、目がおかしいのではないか? たかが剣士なのだぞ。我々魔法使いにひざまずくべきなのだ」

「……そうですね」


 スタックはぶつぶつと文句を並べるが……

 悪態ばかりをついていたため、アトリーが浮かべた表情に気づくことはなかった。


 アトリーはひどく暗い顔をして、冷たい笑みを浮かべていた。


「ここだな」


 1時間ほど歩いたところで、スタックとアトリーは目的地に到着した。

 小さな部屋だ。

 一辺が5メートルほどで、高さは2メートルほど。

 行き止まりで、なにも置かれていない。


「……なんだ、あれは?」


 部屋の中央に漆黒があった。


 黒い……果てしなく黒い霧が渦を巻いている。

 黒い渦は少しずつ大きくなっている。


 時折、黒い渦の中央に別の光景が見えた。

 魔法で別の場所と繋げているかのように、なにかが見える。


 目を凝らして見ると……


「ひっ!?」

「これは……なんて数の魔物だ」


 スタックとアトリーは顔を青くした。

 千を越える……いや。

 万に届きそうな魔物の群れが蠢いているのが見えた。

 魔物の群れはこちらに手を伸ばしていて、今にも這い上がってきそうだ。


 それを見たアトリーは、最悪の可能性を思いついた。


「もしかして、これは……スタンピードの予兆か!?」


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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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