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21話 ダンジョン攻略

 一悶着あったものの……

 メアリーもダンジョン攻略に参加することになった。


 魔法を使うことができず、剣で戦う俺は、遊撃隊として編成されることになった。

 基本は前衛。

 状況に応じて、臨機応変に立ち回る。


 自由に動いていいのは、楽といえば楽だが……

 その分、責任は大きい。

 戦線が崩壊しないように、各所をサポートしていかないといけないからな。


 メアリーは俺と一緒に行動することになった。

 本来ならば、別の隊に組み込まれる予定だったのだけど……

 俺と一緒がいいと、メアリーがダダをこねたのだ。


 ロズウェルが、「彼と一緒なら安心だ」とか過保護なことを言い出して……

 結局、俺とパーティーを組むことになった。

 まあ、今のメアリーの力なら足を引っ張られることはないだろう。

 俺としても、後衛は望むところなので、素直にメアリーのパーティー参加を受け入れた。


 こうして……

 俺、ヒカリ、メアリーの三人が遊撃隊となった。

 ヒカリは剣になってもらうので、俺とメアリーの二人だ。

 それでも、俺たちならばうまくやっていけるだろう。

 不思議とそう思うことができた。


 そして……


 ダンジョンの大規模攻略を開始する日が訪れた。




――――――――――




 冒険者、サポートのスタッフを含めて、総勢100人近くがダンジョンの前に集まっている。

 なかなか壮観な光景だ。


「いくぞ!」


 A班のリーダーが大きな声をあげて、ダンジョンへ突入した。

 残りの23人が後に続く。


 冒険者たちは、たくさんの街の人に見送られて、歓声を受けていた。

 街の人々にとっても、ダンジョンの攻略が進むことはうれしいことだ。

 それだけ多くの魔石が手に入るし、未だ見ぬ素材が落ちているかもしれない。

 それらを活用すれば、さらに街は発展できる。


「師匠、師匠。私たちはいつ突入するんですか?」


 メアリーが子犬のようにまとわりついてきた。

 尻尾があれば、ぶんぶんと横に振っていそうだ。

 わかりやすいヤツだなあ。


「俺たちは、しばらく待機だ」

「そうなんですか? 先陣を切って突入して、たくさんの手柄を立てないんですか?」

「そうしたいところだけど……」

「マスターは妙なところで慎重なので」


 俺の代わりに、というようにヒカリが口を開いた。


「未踏の階層に挑むのだから、なにかしらトラブルが発生する……とのことです。怪我人が出たり、想定以上の魔物が現れたり……遊撃隊は、そういう時に備えておかないといけません。なので、今はここで待機……というのがマスターの考えです」

「なるほどー、そう考えると、とても重要な役ですね。でもでも、応援に駆けつけるとしても、どうするんですか? ダンジョンはとても広いですから、マッピングされていたとしても、追いつくのには相当な時間がかかると思いますが」


 冒険者を目指しているだけあって、いい着眼点を持っている。

 メアリーは将来、良い冒険者になるかもしれないな。


 ……などと、冒険者になったばかりの俺がそんなことを考えてみる。


「移動にはポーターを使う」

「ぽーたー?」

「魔道具だ。設置に少し時間がかかるが……あらかじめ設置しておけば、そこに一瞬で移動できるという優れた魔道具だ」

「おぉ、そんなものがあったんですね! あれ? でも、そんな便利なものがあるのなら、もっとダンジョン攻略が進んでいてもいいんじゃあ?」

「ダンジョンは一定期間で……おおよそ一週間毎に構造が変化するからな。構造が変化した後にポーターを使おうとしても、座標がズレているから正常に作動しないんだよ」

「なるほどなるほど。短期決戦の時にしか役に立たないというわけですね」

「そういうことだ」

「それにしても、さすが師匠! ダンジョンについて、とても詳しいですね。ただ強いだけじゃなくて、たくさんのことを知っているなんて、さすがです!」

「あー……まあな」


 実のところ……

 メアリーの修行に付き合う一方で、ダンジョンについての知識を叩き込んでいた。

 未踏階層へ挑み、最下層を目指すとなると、力だけではなくて知識も求められるだろう。

 そう思い、色々と勉強していたのだ。


 あらかじめ知っていたわけではないので、そこまでキラキラした目を向けられると、なんていうか……メアリーを騙しているみたいで、ちょっと心が痛い。


「それにしても、マスターはすごいですね」


 なぜか、ヒカリまでのっかってきた。


「なにがだ?」

「私はマスターと一緒にいたので、勉強のことも知っていますが……この一週間で、ダンジョンに関する基礎知識は全て習得して、かなりディープな情報もあらかた覚えてしまったではありませんか」

「それのなにがすごいんだ?」

「自覚なしですか……さすがマスター」


 尊敬と呆れが混じったような、そんな複雑な目を向けられた。


「あれほどの膨大な知識を一週間で覚えるなんて、普通の人はできませんよ? 習得が追いつかなかったり、どこかで忘れてしまったりするものです。ですが、マスターはそんなことはなくて……マスターは剣技だけではなくて、記憶回路も特別なのですか?」

「これくらいは他のヤツもできると思うが……まあ、記憶力にはそれなりに自信はあるな」


 小さい頃から魔法に関する書物を読み続けてきた。

 途中、剣技に切り替えたものの……

 その後も両親によって、半ば強制的に読まされてきた。


 そんな経験があるものだから、物を覚えることは得意になったのかもしれない。


「なるほど、そういう理由があったのですね。納得です。苦手なことも手を抜くことなく真正面から向き合う……マスターはしっかりとした努力ができる方なのですね。尊敬します」


 渋々やっていたのだけど……

 手を抜いていないことは確かなので、なんとも言い返しづらい。


「それじゃあ、師匠は魔法の知識も豊富なんですか?」

「一通りの教本は読んだし、魔導書なんかも何冊か手につけていたが……その中身を実践できる機会がなかったからな。正しいかわからない、曖昧な知識だ」

「残念。師匠に魔法も教えてもらおうと思ったのに」

「最初に言っただろう。俺は魔法を教えることはできない、と。なんなら、今から他のヤツの弟子入りし直すか?」

「そんなことしません!!!」


 軽い冗談で言ってみると、ものすごい勢いで反論された。


「私の師匠は師匠だけです! 他の人なんて、絶対に考えられませんっ!!!」

「お、おう……そうか」

「だから、これからもよろしくおねがいしますね、師匠!」

「わ、わかった……わかったから、顔が近い」


 メアリーは本当にわんこみたいなヤツだな。

 直情的で、とにかくまっすぐに行動する。


 そんなヤツに慕われるのは……

 少しくすぐったいながらも、悪い気分ではなかった。


 師匠なんて柄ではないのだが……

 それでも、メアリーのためにできることはやろう。

 そんなことを思った。


「マスター、なにか起きたみたいですよ」


 ヒカリの視線の先を追うと、待機していた冒険者たちが慌ただしい姿を見せていた。

 なにかあったのだろうか?

 俺は立ち上がり、話を聞くために移動した。




――――――――――




 A班は順調に下層へ降りていき、5層へ到達したらしい。

 しかし、そこで特殊なギミックがしかけられている部屋を見つけたらしい。


 道が二手に分かれていて、片方は堅牢な扉。

 片方にスイッチ。


 スイッチを押すと扉が開くが、地面に大きな穴が空いて戻れなくなってしまうという。

 スイッチをもう一度押せば、穴は元に戻るが、扉も閉まってしまう。

 魔法を使い飛行すればいいのかもしれないが、その部屋では魔法が使えないらしい。


 まだ5層だ。

 ここで戦力を分散させるようなことをしたら、この先を進むことはできない。

 どうしたものかと迷い、進行が止まってしまったらしい。


「というわけで、俺たちの出番だ」


 ポーターを経由して、5層へ降りた。

 そして、問題のスイッチがある部屋に移動した。


 部屋は広く、一辺が50メートルほど。

 高さは15メートルほどだろうか?


 そして、最奥に小さな凹みがあり、そこにスイッチがある。

 その手前まで移動して、試しにスイッチを押してみると……


 ゴゴゴッ!


 大きな音と共に床が消えてしまい、大穴ができた。

 スイッチの手前、3メートルほどの床を残して、部屋の床が全て消えてしまう。

 もう一度スイッチを押すと、床がせり上がり、元に戻った。


「シンプルですが、なかなか厄介なトラップですね……」

「これって、もしかして私たちがスイッチを押して、ここに残って救助を待つ……って流れですか?」

「スイッチを押すのは間違いないが、救助を待つ必要なんてないぞ」

「え?」

「それじゃあ、いくぞ」


 改めてスイッチを押した。

 床が消えて、遠くで扉が開く音がした。


 手を振り、入り口で様子を見ていた冒険者に合図を送る。

 すると、冒険者は頷くような仕草をして部屋を出ていく。

 本隊に合流したのだろう。


「え? あれ? 師匠、あの人、行っちゃいましたけど……?」

「俺たちは自力でなんとかするから、構うことなく先に進んで欲しい、とあらかじめ伝えておいたからな」

「えええぇっ!? 自力で、って……ど、どうするんですか!? この部屋、魔法が使えないんですよね!?」

「マスターは、なにか解決策が?」

「魔法を使う必要はない。跳んで、乗り越えればいい」

「「はい?」」


 ヒカリとメアリーが揃って首を傾げた。

 この人なにを言っているんだろう? というような目をしていた。


「ヒカリは剣に。メアリーは俺にしがみついてくれ」

「わかりました」

「は、はい」


 言われた通り、ヒカリは剣になる。

 俺はそれを腰に収めた。


 メアリーが抱きついてきたので、片手で支えてやる。


「いくぞ」

「え? いくって……ひやあああああぁっ!!!?」


 床を蹴り、大きく跳んだ。

 助走する場がないものの、5メートルほどを跳ぶことができた。


 そこで体が重力に引かれてしまい、穴に落ちていく。


「おち、落ちるぅ!? 師匠、落ちてますよぉおおおおおっ!!!?」

(マスター!? どうするつもりなんですか!? このままだと……!)


 慌てる二人とは別に、俺は落ち着いていた。


 足に感覚を集中させて……

 そして、空気を蹴る!


「へ?」

(は?)


 メアリーとヒカリの声が重なったような気がした。


「こうして戻ればいい」


 空気を蹴り、その反動で跳ぶ。

 特殊な体術を用いた技で、名前を『虚空舞』と呼ぶ。

 これを使えば、生身で空を駆けることができるのだ。


 俺は何度も空気を蹴り……

 そして、大穴のある部屋を抜けて、床のあるフロアへ戻ることに成功した。


「……」

「……」


 擬人化したヒカリとメアリーは、唖然としていた。


「あの……マスター、今のはいったい……?」

「『虚空舞』って呼ばれている特殊な体術の一種だ。ごらんのように、宙を駆けることができる」

「そ、それも、もしかして、漫画で覚えた技なのですか……?」

「そうだけど……よくわかったな? 空を飛べるかもしれないと、わくわくしながら練習して習得したんだが……思いの外、使い勝手が悪くてな。短距離しか跳ぶことはできないし、それほど移動速度は早くないし、魔法の方が便利だな。やはり、俺なんかよりも魔法の方が優れているということか」

「「マスター(師匠)の方がよっぽど優れてるんですけどねぇ!!!?」」


 ヒカリとメアリーが揃って大きな声をあげるのだった。

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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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