表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

2話 聖剣

 明け方……まだ父さんも母さんも寝ている時間に俺は家を出た。

 いや、家を捨てた。

 その後、すぐに馬車に乗り街を離れた。

 そのまま最東端に位置する街、レッドフォグに移動した。


 このウルグ王国は、大陸の南に位置する国で広大な領地を持っている。

 実家がある街とレッドフォグは、馬車で一週間はかかるほどに遠い。

 俺が家を捨てたことをしれば、両親は追手を放つだろう。

 あの人たちは、自分の思い通りにならないと気が済まないタイプなのだ。

 だが、これだけの距離があれば、そうそう簡単に見つかることはないだろう。


 できることならば国境を越えて、隣国のエンデュミオン魔法国へ行きたいところなのだけど……

 あいにくと、俺は通行許可証を持っていない。

 誰も彼も受け入れていたら、やがて国がパンクしてしまうし、犯罪者が紛れ込んでしまうこともある。

 なので、通行許可証を持たない者は入国することはできないのだ。


 通行許可証はいくらかの金と、第三者に身分を保証してもらわないと発行できない。

 今の俺には無理だ。

 いずれなんとかしないといけないな。


「ここがレッドフォグか」


 馬車に揺られること一週間……俺はレッドフォグに着いた。


 あちこちに露天が並んでいて、行き交う人々を呼び込む威勢のいい声が響く。

 活気のある街だ。

 レッドフォグはエンデュミオン魔法国に一番近い街なので、交易が盛んなのだ。

 巷では商業都市と呼ばれている。


「さてと……まずは金を作るか」


 家を出る際に、自分の金だけではなくて、金になりそうな物をいくつか持ち出している。

 貴族の家に飾られていた美術品などだ。

 きっと、それなりの値段で売れてくれるだろう。


 とはいえ、そんなものを普通の店で売れば怪しまれてしまい、憲兵隊に通報されてしまうかもしれない。


 でも、これだけの規模の街だ。

 探せば、裏の売買ルートを見つけることができるだろう。




――――――――――




 街の中心部から離れたところにある酒場を訪ねた。

 なけなしの金などを使い情報収集をしたところ、この酒場で違法品の売買が行われているらしい。


 昼ということもあり、客はまったくいない。

 カウンターの向こうにいるマスターらしき壮年の男が、ちらりとこちらを見た。


「……いらっしゃい」


 愛想のないマスターだ。


「注文は?」

「エンデュミオン魔法国産の酒をロックで」

「……度数は?」

「50%」


 マスターは無言でカウンターの奥にある棚に手を伸ばした。

 棚が横にスライドして、隠し通路が現れる。

 この奥に違法品を売買している店がある。

 さきほどのやりとりは一種の暗号で、知らないものは店に入ることができないという仕組みだ。


 隠し通路を移動して地下に降りると、広い空間に出た。

 倉庫のように、あちらこちらに色々な物が置かれている。


「いらっしゃい」


 奥に店主らしき……男? が見えた。

 疑問形になったのは、全身をローブで隠しているせいだ。

 顔もすっぽりと覆われている。

 声と背丈から男だろうと判断した。


「おや? お客さん、見たことのない顔だね」

「旅をしてる」

「ほうほう。それなのにウチを見つけたのかい。なかなか優秀じゃないか」


 店主はクックッと気味の悪い笑い声をあげた。


「それで、どんなものをお望みかな?」

「売りたいものがある」


 家から持ち出した美術品を店主の前に並べた。


「ほうほう。これはこれは、なかなかの品だ」

「いくらで売れる?」

「鑑定しないといけないから、すぐに答えることはできないね。ただ、パッと見でわかるくらいのいい品だ。値は期待していいよ」

「そうさせてもらおう」

「鑑定するのに時間をもらえるかい?」

「どれくらいかかる?」

「30分ほどだろうね。その間は、店を見てるといい」


 違法品を取り扱う店なんて初めて訪れる。

 興味がないといえばウソになるので、商品を見て回ることにした。


「色々なものがあるな……」


 剣や斧といった武具に始まり、高級店で取り扱うようなドレスも並んでいた。

 武具は今は使われることなんてないから、ただの観賞用だろう。

 それだけではなくて、用途のわからない謎の薬や、動物の剥製。

 明らかにこの国のものではない美術品なども見えた。


 高く売れるのならばなんでも……という感じだろうか?


 色々なものが並んでいて、けっこうおもしろい。

 見ているだけで楽しむことができて、いい時間つぶしになった。


「ん?」


 店の奥に移動したところで、ふと、目を惹かれるものを見つけた。

 ゴミ箱のようなところに、無造作に剣が詰め込まれていた。

 どこか惹かれるものを感じて、手に取る。


「店主、コイツは?」

「ん? ああ、それかい。ソイツは聖剣エクスカリバーだよ」

「もしかして……これは神具なのか?」

「ああ、そうだよ」


 神具。

 神が作ったと言われている武具のことだ。

 その数は限られていて、世界で12本しかないらしい。


 曰く、100年使い続けても刃こぼれ一つしない。

 曰く、鉄をバターのように切り裂く。

 曰く、戦況を一人で覆すような秘めた力が存在する。


 その真偽は不明だが、絶大な力を秘めていると言われている。

 俺は剣士なので、当たり前のように神具のことを知っているが……

 そうでない世間の魔法使いたちも、神具のことを知っている。

 それほどまでに知名度が高い。


「エクスカリバー……」


 まさか、こんなところで伝説の神具と出会えるなんて……

 不思議と目を離すことができなかった。

 運命というのだろうか?

 輝く剣は俺の心をがっちりと掴み、離してくれない。


「かつて魔王を倒したと言われている、聖剣エクスカリバー。ウチのおすすめの品……だったものさ」

「だった? どういうことだ?」

「今は魔法全盛期の時代だろう? 神具とはいえ、誰も剣なんて求めていなくてねえ……観賞用ですら手にとってもらえない。置いといても店のスペースを圧迫するだけでね。捨てようと思っていたところさ」

「神具を捨てる? 冗談か?」

「本気だよ」


 神具だとしても、剣ならば価値はまるでないということか……


 剣は時代遅れの代物。

 実際に手に取ることはなくて、観賞用にすら扱ってもらえない。

 世知辛い世の中だ。


「お客さん、そいつが気に入ったのかい?」

「ああ」

「なら、買うかい? 今なら、100万リムにまけておくよ。おっと、金がないなんて言わないでくれよ? お客さんが持ってきたものは、なかなかの品でね。100万で買い取ろうと思う」

「ってことは、あれらの美術品と交換……っていうことか」

「ケチはつけていない。適正な鑑定額だよ。いい買い物だと思うが……どうする?」

「買った」

「まいどあり!」




――――――――――




 非合法の店を後にして……

 それから宿にチェックインした。


 部屋に移動して、聖剣エクスカリバーを机の上に置いた。


「おもいきった買い物をしたんだけど……不思議と後悔していないんだよな」


 この剣を手元に置いておきたい。

 そんな欲求があり、今は満たされた気分だ。


 それに、俺は剣士だ。

 一応、家を出る時に愛用の剣を持ち出しているが……

 それは刃が潰れていて、ほぼほぼ鈍器のようなものなので心もとない。

 なので、伝説の聖剣を使えるというのなら心強い。


「とはいえ、これで新たに金を稼ぐ必要が出てきたな……多少の金はあるが、すぐに尽きてしまうだろうし……うん?」


 今、聖剣が動いたような……?

 不思議に思いながら、じっと見る。


 カタッ。


「動いた……よな?」


 カタカタカタッ。


「絶対に動いてるぞ!?」


 触れていないのに、聖剣が小刻みに振動した。

 その動きはどんどん激しくなり……


 ぼんっ。


 ……という音と共に、剣が消えた。

 その代わりに女の子が現れる。


「ふぅ、よく寝ましたね」

「なっ……なっ……」

「あなたが……私のマスターですね? この度は、廃棄される予定だった私を助けていただき、ありがとうございます」


 女の子がペコリと頭を下げた。

 対する俺は、頭を抱えて絶叫する。


「ど、どういうことだっ!?!?!?」


 聖剣が……女の子になった!?

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ