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10話 英雄への第一歩

「階層主?」


 ヒカリがきょとんと小首を傾げた。


「それぞれの階層を支配する魔物のことだ。強大な力を持っていて、他の魔物を従えている」

「1層のボスという感じでしょうか?」

「その認識で問題ないな」

「こんなところで遭遇するなんて……よくあることなんですか?」

「下層の階層主は自分だけの部屋を持ち、冒険者を待ち構えているが……上層の階層主は部屋を持つことなく、ダンジョンを徘徊しているからな。運が悪いと出くわすことになる」

「なるほど。それで……どうしましょうか?」

「とりあえず見学かな」

「え? 助けないのですか?」


 ヒカリが目を丸くした。


「階層主といっても、まだ1層だ。それほど強くはない。ミノタウロスの方がまだ強い。まあ、四人もいれば問題ないだろう」


 俺の言葉を証明するように、冒険者パーティーは連携のとれた動きを披露して、次々と攻撃魔法を放っている。

 それなりに善戦していた。


「下手に手を出すと、横取りってことで揉める可能性もあるからな。問題のないうちは見学しておいた方がいい」

「ですが、少しもったいないですね。階層主ならば、それに見合う稼ぎを得られそうですが……」

「ヒカリの言う通り、ちょっともったいないな。階層主となれば、魔石は5キログラムは固いだろうしな」

「今すぐ倒しましょう。横取りなんて気にしたらいけません」


 ヒカリの目が金マークになっていた。


「問題のないうちは手を出さないぞ。面倒事はごめんだ」

「残念です」

「まあ、階層主はしばらくしたら復活する。どういう仕組みかわからないが、階層主を含めて、魔物は一定周期で復活するんだ。それ故に、ダンジョンから魔物が消えることはない。ついでにいうと、ダンジョンの構造も一定時間で変化する」

「厄介な場所ですね」

「だからこそ稼げている、っていう現実もあるんだけどな。まあ、今回は運がなかったと思って諦めるしかない。おとなしく、階層主の魔石はあのパーティーに譲ることにしよう」

「いえ……そういうわけにもいかないかもしれませんよ」


 ヒカリが焦りを含んだ声でそう言った。


「ファイアーデトネーション!」

「エアロデトネーション!」

「フリーズデトネーション!」


 冒険者パーティーが魔法を乱打する。

 炎、風、氷……色々な属性の攻撃魔法が炸裂して、階層主の巨大な体を包み込んだ。

 破壊の嵐が吹き荒れて、階層主の体を傷だらけにする。


 しかし……


 超高速で階層主の傷が再生した。

 時間を巻き戻しているかのような異常な速度だ。

 ダメージを与えても与えても、すぐに回復してしまう。


「くそっ、なんて再生速度だ!」

「これが階層主の力……1層だからといって甘く見ていたか!」


 冒険者パーティーに焦りの表情が浮かぶ。


「みんな、離れて!」


 冒険者パーティーの一人が杖を構えた。

 その先端に光が収束していく。


「メガ・ライトデトネーション!」


 中級魔法が炸裂した。

 光があふれて、世界を白く染めていく。

 全てを埋め尽くす光の奔流に階層主が飲み込まれた。


 例えるなら、下級魔法は剣や槍などの対個人の武器だ。

 対する中級魔法は、対攻城兵器。

 威力も範囲も下級魔法とは桁違いで、Bランクの上位の魔物にまでダメージを与えることができる。


 それだけの威力を持つ中級魔法が使われたのだから、階層主とはいえ無事でいられるはずがない。

 ないのだけど……


「ガァアアアアアッ!!!」


 光が晴れると、右肩から先が消失した階層主の姿があった。

 肉と骨が覗いていて、血が滝のように流れ出る。

 しかし、その血が生き物のようにうねり、手の形を取る。

 やがて実体を伴い、右肩から先が再生した。


 再生したものの、痛みは感じていたらしい。

 怒りの咆哮を響かせながら、部下を率いて突撃する。


「ひっ!?」

「し、シールドデトネーション!」


 とっさに、冒険者パーティーの一人が防御魔法を唱えた。

 不可視の壁ができて階層主の一撃を受け止める。

 しかし、他の雑魚にまでは手が回らなかったらしく、乱打を受けていた。

 雑魚の攻撃は結界でなんとかなっているか、階層主の攻撃まで防げるとは思えない。

 攻撃力だけなら、ミノタウロスに近いものがありそうだ。


 ……これ以上はダメだな。


「ヒカリ、頼む」

「はい。マスターの望むままに」


 ヒカリが聖剣に変化して、俺の右手に収まる。


「はっ!」


 剣を手に駆けて、その勢いのまま斬りつけた。

 階層主の肩から腹にかけて深い傷ができる。

 しかし、それもすぐに再生してしまう。


 とはいえ、今の一撃で倒すつもりはない。

 こちらに注意を向けるためのものだ。


「き、君は……?」


 冒険者パーティーのリーダーらしき男が驚いた顔で尋ねてきた。


「コイツは俺が引き受ける。あんたたちは雑魚を頼む」

「わ、わかった!」


 剣を持つ俺を見て、男は微妙な顔になるが……

 このような状況で言い争いをしている場合ではないと悟り、すぐに決断を下した。

 仲間に指示を出して、群れるゴブリンたちを蹴散らしていく。


 いい判断だ。


「グルァ!!!」


 そして狙い通り、階層主は怒りの表情で俺を睨みつけた。

 俺を一番のターゲットとして認識したらしい。


「ガアッ!!!」


 階層主が巨大な棍棒を振り下ろしてきた。

 遅い。

 俺に近接戦を挑むなら、もっと鍛えてから出直してこい。


 一気にしとめる。


 俺は魔剣を鞘に収めた。

 それから前かがみになるように構えて……


「一之太刀……疾風!」


 超速の一撃が階層主の首を斬り飛ばした。

 階層主とはいえ、所詮はゴブリンの亜種。

 そんなヤツに負けるつもりは……


「……おいおい」


 斬り飛ばされた頭と胴体の間に血管のようなものが無数に走り、結合して……再生した。

 まさか、頭を斬り飛ばされても再生できるなんて……


 さすがに予想外だ。

 どうするか?


「グアアアッ!」

「ふっ、はっ!」


 怒り狂う階層主の攻撃を避けながら考える。


(とんでもない再生能力ですね)


 ヒカリが念話で話しかけてきた。


(そうだな。上級魔法で塵も残さずに吹き飛ばさないと、倒せないのかもしれない)

(あるいは、粉微塵に斬り刻むとかでしょうか)

(それは疲れるから、あまりやりたくないな)

(え? できるんですか?)

(できるが、それが?)

(冗談で言っただけなんですが、本当にできるんですか? え? え? おかしくないですか?)

(別におかしくないと思うが)

(おかしいですよ! 普通に考えて、そんなことできませんからね?)


 ヒカリと話をしながら、時折、剣を振るう。

 試しに足の腱を斬るが、すぐに再生して動けるようになった。


「まてよ?」


 ふと思い、連続で階層主を斬りつけた。

 左右の胸の辺りが切り開かれて、二つの心臓が一瞬露わになった。


「なるほど。あれが異常な再生能力の正体か」


 二つの心臓を持つことで、階層主は異常な再生能力を得ているのだろう。

 おそらく、二つの心臓を同時に潰さないといけない。

 片方をつぶしても、すぐに再生するだろう。


(二つの心臓を同時に潰さないといけない……ですか。難しいですね……少しでも遅れれば、すぐに再生してしまう。マスターの斬撃がいかに優れていたとしても、一度に二箇所を攻撃することはさすがに……)

(なんだ、簡単な話じゃないか)

(え?)

(種がわかればつまらない話だな。さっさと終わらせることにしよう)

(え? え? 鉄の塊のような肉体を突き破り、二つの心臓を同時に潰すなんて……いったい、どうするつもりなんですか? いくらなんでも、そんなことは……)

(うん? そんなに難しい話じゃないだろう)

(いえいえいえ、難しいに決まっているじゃないですか。いったい、どうすればそんなことが……)

(まあ、見ていてくれ)

(……さすがに、驚き疲れてきましたよ)

(なんで驚く?)

(いえ……とにかく、できるのならお願いします)


 矢を引き絞るように聖剣を構えた。

 体をまっすぐにして……駆ける!


「ニ之太刀……紫電!」


 一瞬で階層主との距離を詰めた。

 その勢いのまま聖剣を突き出す。


 三段突き。


 階層主の左右の心臓と、ついでに頭を潰しておいた。

 階層主は悲鳴をあげることも許されず、倒れて……その体が魔石に変化した。


「終わり」


 主がやられたことで配下のゴブリンたちは恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 冒険者パーティーが唖然としていた。

 なにを驚いているのだろうか?


「驚くに決まっていますよ」


 ぼんっ、と擬人化したヒカリがどこか呆れるように言う。


「視認できないほどの速度で動いただけではなくて、超威力の突きを同時に三つも放つ……マスターは、どれだけ人間離れした動きを見せれば気が済むんですか? それだけの力を持つことは、私としては誇らしくありますが、さすがに驚きの方が大きくなってきました……」

「剣の初心者に同じことができるかと問われたら、できないと答えるが……多少練習すれば、これくらいは問題なくできるようになるだろう? 無名の剣士の俺ができるんだから、他の人もできるはずだ」

「できませんから!」


 できないのか?

 そうなのか……?


 他の剣士を見たことがないから、その辺りのことは、よくわからないんだよな。

 一般的な魔法使いの実力ならわかるが、一般的な剣士ってどれくらいの実力なんだ?

 俺は愚直に剣の練習を続けただけだから、大した力は持っていないと思うのだが……

 しかし、ヒカリは違うと言う。

 少しは自信をもっていいんだろうか?


 いや……自信過剰は禁物だ。

 驕ることなく、常に上を目指していないと、すぐに剣が鈍ってしまうだろう。

 剣に関しては、これからも謙虚な気持ちを忘れることなく、まっすぐに向き合っていかないといけない。


「やれやれですね。マスターにかかれば、階層主すら雑魚というわけですね」

「再生能力だけが取り柄の階層主なんて、雑魚だろう? 俺が特別なわけじゃないさ。ある程度の魔法使いなら簡単に倒すことが……」

「できませんから!」


 再びツッコミを入れられてしまう。

 なぜだろうか?

 俺、おかしなことは言っていないよな……?


「あ、あの……」


 冒険者パーティーのリーダーに声をかけられた。

 彼ら、彼女たちは怪我はないみたいだ。


 冒険者パーティーは横に並ぶと……

 揃って頭を下げた。


「「「「ありがとうございました!」」」」


 それから、代表するように一人が話をする。


「あなたのおかげで助かった。本当に感謝している。ありがとう」

「……別に。俺は階層主の魔石が欲しかっただけだ」

「それでも、ありがとう。あなたがいなかったら、俺たちはここで死んでいただろう。命の恩人だ。本当にありがとう、あなたは俺たちの英雄だ!」

「剣士なのにすさまじい力を持っているんだな。本当にすごいと思う。憧れるよ。どうしたら、そんな風になれるんだい?」

「あっ、こら。一人で抜け駆けしないで。あたしにも話をさせなさいよ。こんにちは、剣士さま。助けていただき、ありがとうございます♪ よかったら、今度お食事でも……」

「露骨な真似はしないように。なにはともあれ、本当にありがとうございました。すばらしい腕をお持ちなのですね。憧れてしまいます」


 冒険者パーティーは全員、目をキラキラとさせて、あれこれと話しかけてきた。

 まるで、おとぎ話に出てくる勇者と出会ったような反応だ。


 振り返ると、ヒカリが優しい笑顔を浮かべていた。


「マスターが評価されて、私はとてもうれしいです。これからも、この調子でがんばりましょう。マスターならきっと、本当の英雄になれるはずです」

「……どうだろうな」


 この先、どうなるかはわからないが……

 俺は剣士として、ヒカリと一緒の道を歩いていこうと思う。


『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

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突発的な新連載第二弾です。
まったりのんびりな作品です。よろしければどうぞ

少女錬金術師のまったり辺境開拓~賢者の石を量産してやりたい放題やります~
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