黛麻友との日常
【浩一】
1
猫のイメージと言えば「きまぐれ」とか「自由奔放」みたいな感じだろうか。
なかには(犬と比べて)「懐かない」「人に媚びない」なんて思っている人もいるだろう。
個体差はもちろんあるけど割と当てはまるかもしれない。
そこに僕個人の意見を追加させてもらうならば、「しなやか」で、どこか「気品」を感じる動作と掴み所のない「ミステリアス」な行動には、不思議と「色気」がある。
…我ながら偏った意見だという自覚はある。
猫好きな人ならば、少しは理解してもらえるだろうか…。
とにかく。
これらの「猫」に対するイメージから「懐かない」を取り除いてみる。
するとどうだろう。
何故か「ほとんど黛麻友」になるから不思議である。
僕が裏山で出会った変な―――じゃなくて、不思議な少女―――黛麻友。
僕はあの日、彼女の黒い服装から「黒猫が化身した姿」などという妄想をした。
でも彼女は普通の人間の女の子だった。
当たり前だ。
奇しくもあれから彼女との交流を重ねているのだけど―――
やっぱり彼女は「猫」だった。
「猫みたいな女の子」という意味だ。
まず、元が美人なだけに黙っているだけでもかなり絵になる。
ごく稀に見せる憂いを含んだような表情は「ミステリアス」な雰囲気たっぷりだ(僕が初めて彼女と出会ったときは正にそうだった)。
実際に接するようになると「きまぐれ」とか「自由奔放」なんてレベルではない変な言動が目立つ。
しかし一方で、その所作をよく観察してみると一つ一つの仕草が実に繊細で「しなやか」であることがわかる。
おそらく彼女自身が持つ生来の「気品」を隠し切れていないのだ。
そして、そんな相反する特徴をあわせ持つ彼女にギャップを感じ、女性的な「色気」を感じてしまうことが、ときどき、ある。
一応、断っておくと、決していやらしい意味ではない。
とにかく「猫の人間版」もしくは「人間の猫版」みたいな感じなのである。
2
「おっ! 来たね、コウくん。待ってたよ。えへん☆」
草の絨毯に体育座りをしていた黛麻友がいつものドヤ顔で言った。
まったくもって謎のドヤ顔である。
て言うか、そのスカートだとパンツが見えそうで目のやり場に困るんだけど…。
今日の黛麻友は白地のTシャツに薄いピンクのカーディガンを羽織っている。下はやや短めのデニム生地のスカートだ。
おしゃれに無頓着な僕が、人様の服装をどうこう言うのはおこがましい。
それを承知の上であえて言おう。
ダサっ! と。
ほとんど無難にまとまったコーディネートなのに、どうしてその、「鼻の短いゾウみたいな、やたらカラフルな謎の生き物」がでかでかとプリントされたTシャツをチョイスするんだ…。
そんなセンスの悪さを会う度に披露してくれる黛麻友に、
「もしかして狙ってやってるのか…?」
そう思っていた時期もあった。
でもどうやら素で気に入ってるらしいということが最近分かった。
もはや慣れるしかない。
初めて会ったときの真っ黒な格好というのはあれ以来見ていない。
今思えば、あれはあれでかなり奇抜だったような気がする…。
僕にとって衝撃的な出会いだったあの日から既に一ヶ月。
初めて出会ったこの場所で、会って話をするのが日課になっていた。
と言っても、別に示し合わせて会っているわけではなく、各々が気が向いたときに訪れて、会えば話をするといった感じだ。
お互いの連絡先も知らないし、少なくとも僕から聞くつもりはなかった。
会うか会わないかの運の要素すらも『猫のような彼女』の気まぐれなのではないか?
そんな風に考えるとなんだか面白くて、振り回されるのも悪くないと思ったからだ。
「前から思ってたけど、「えへん」の使い方おかしくないかな」
「むむむ。正しい使い方とかあるの? 辞書に意味とか載ってるかなぁ…。まっ、どっちでもいいじゃん」
いいんかい。
「よく言うじゃん。やることに意義があるんだって。だからわたしの「えへん☆」も使うことに意義があるんだよ。えへん☆」
「さいですか…」
おざなりに返事を返すと、黛麻友は不服そうにぷくっと頬を膨らませる。
「コウくん適当っ!」
まぁ、僕たちはいつもこんな感じだ。