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幸せになるための条件  作者: 日暮絵留
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思惑

【瑞希】

         1

 今日は久しぶりに由香子と遊んで本当に楽しい一日だった。

 会うこと自体が久しぶりだった。

 由香子に言わせれば、きっとあたしたちはしょっちゅう会ってる方だと思う。

 でもあたしにとってはそうじゃない。

 電話で話すことは結構あっても、やっぱ、会って話すのは違う。……まったく違う。


 あれは『あたし』じゃないから―――。


 携帯越しの声は所詮、本人の声をまねただけの機械音でしかないって何かで見たことがある。

 その点、空気を振るわせて直接耳に入ってくる声は間違いなく本人のものだ。

 そっちの方が断然いいに決まっている。

 他ならぬ由香子の声であれば尚更だ。

 由香子はあたしのたった一人の親友であり「恩人」でもある。

 こっちに転校してきてから、クラスに馴染めず孤独な毎日を過ごしていたあたしを救い出してくれた由香子。


『これ、わたしが好きなアニメのキャラクターなんだ。…四条さん、知ってる?』


 今でも脳内で完璧に再生できる。

 あのときのことを由香子がどう思ってるのかは分からない。

 もう忘れてしまっているかもしれない。

 だけど、あたしにとっては本当に救いの一言だった。

 一生忘れない。

 あの言葉があったから由香子と仲良くなれた。それをきっかけにしてクラスのみんなとも打ち解けられた。

 あたしは以前の学校でそうだったように、徐々にクラスのムードメーカー的存在になっていった。学年が変わって、クラス変えがあってからも、それは変わらなかった。

 その後、中学を卒業するまで、由香子と同じクラスになることはなかった。

 それでも由香子はあたしと仲良くしてくれた。

 高校は由香子と同じところを受験した。

 一年のときは同じクラスになれたけど、看護師を志望していたあたしは二年のときに理系クラスを選択し、由香子と別のクラスになった。

 それでも毎朝、由香子と一緒に通学した。

 卒業後は医療系の専門学校で医学を学び、今は看護師として働かせてもらっている。

 ずっと憧れていて、どうしてもなりたくて、自ら掴み取った夢。

 実際になってみると子供の頃に描いていたそれとはまるで違い、大変なことも多い。

 当然だ。人の命に関わる仕事なのだから。

 あたしはそのことに誇りを感じている。

 今のあたしが在るのは間違いなく、由香子のお陰だ。

 どんなに感謝しても、どんなに恩返ししても、足りない。

 もし、由香子への恩返しになると言われれば、あたしは人をあやめることすらいとわないだろう。

 由香子のためだったら、なんだってする。


 たった一つ、「浩一と仲直りをする」ということ以外なら―――。


 由香子が知らない浩一の正体をあたしは知っている。

 本当はそれを由香子に伝えたい。

 でも駄目なんだ。

 やっぱりあたしから話すべきことじゃないから…。

 それに、仮にあたしから話しても、きっと由香子は信じてくれない。

 由香子と浩一の繋がりは、悔しいけど、あたしとのそれよりも大きいから…。

 だから由香子自身が気づいてくれなきゃ駄目なんだ。


 お願い。早く気づいて。由香子。


 浩一が本当はどういう奴なのか―――


 そして、


 一刻も早く浩一そいつとの繋がりを絶って。


 由香子は、もう、浩一そいつと関わるべきじゃないんだよ―――

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