過去5
9
数日が過ぎた。
やはりと言うべきか、わたしの立場は日に日に芳しくないものになっていった。
クラスで圧倒的な存在感と発言力を持つ山野さんに目をつけられてしまったのだから、そうなることは分かっていた。
でもそんな中、上原さんだけは今まで通りにわたしと接してくれようとしていた。
わたしは彼女のその気持ちに心から感謝した。
たまに抱きつかれるくらいで、困った子などと思っていたことを申しわけなく思った。
今はむしろ、わたしから抱きしめて感謝の気持ちを伝えたいくらいだ。
でも―――
いや、違う。
“だから”
わたしは自ら、上原さんを遠ざけた。
このままではきっと、この子までクラスで浮いた存在になってしまう。
妹のようなこの子に、辛く、苦しい孤独など味わわせたくなかった。
彼女はわたしとの関わりは断つべきなのだ…。
だけど心を鬼にして酷い言葉を浴びせても、どんなに冷たくあしらっても、彼女は折れなかった。
もはや最後の手段に打って出るしかなかった。
わたしの方が罪悪感で押しつぶされてしまう前に。
※
「マユちゃん…話って……何…?」
放課後、二人だけになった教室で上原さんが不安そうにわたしを見ている。
わたしは席を立ち、教室の後ろ側のドアまで歩いてから振り返った。
覚悟を決めて、
上原さんの目を真っ直ぐ見据えて、
わたしは言った。
「山野さんが言ってた話は“大体”本当のことだよ」
こんなことは言いたくなかった。
あんな根も葉もない話を認めるなんて絶対に嫌だった。
自分で自分を穢しているような気がした。自尊心を傷つけているような気がした。
わたしはこの瞬間、自らを辱めたのだ。
―――けど、構わない。
上原さんがわたしを嫌ってくれるのなら。
そして彼女が、これまでと変わらない学生生活を送れるのなら。
わたしが誰にどう思われようと構わない。
そう、
思っていたはずなのに―――
この期に及んでわたしは“全部”本当のこととは言えなかった…。
わたしは踵を返し、上原さんが嗚咽する声を背中に受けながらドアを開く。
『ごめんね…上原さん』
わたしの心の声と、
「ごめんね…マユちゃん」
上原さんの声が重なる。
振り返ることなく教室を出たわたしは、後ろ手でドアを閉めた。
果たして、彼女の謝罪は何に対するものだったのか…
このときのわたしには分からなかった。
10
学校での孤独な生活が再び幕を開けた。
そういう境遇には慣れているつもりだったし、以前のように大人しく勉強に打ち込んでいれば、どうということはない。
そう思っていた。
でも現実は少しだけ厳しかった。
休み時間に教室に響く“元・友達”の楽しそうな声を聞くだけで、わたしは泣きそうになってしまう。
少し前までは自分もその輪の中にいたのだという現実が、わたしの心を脆いものにしていた。
もともと難しいと思っていたわたしの夢の一つ、友達とハンバーガーを食べに行くことなど叶うはずもなかった。
唯一救いだったのは、中学の頃のように、ひどいあだ名で呼ばれたりはしなかったことだ。
※
みんなにはまだ内緒にしていた恋人の存在が、わたしの最後の心の支えだった。
さすがに彼の通う男子校まではわたしの悪い噂が届くことはないだろう。
ただ、絶対とは言い切れない。
そうなる前にわたしの方から話しておくべきかもしれない…。
山野さんはわたしが隠しごとをしていたことがショックだったと言っていた。
確かに友達や恋人、家族にはできるだけ隠しごとは少ない方がいいように思う。
でもわたしはこうも思うのだ。
友達や恋人だからといって、何もかも話さなければいけないのだろうか。
思い出したくない辛い記憶や、なかったことにしてしまいたい失敗の一つや二つ、誰にだってあるのではないだろうか。
すべてを包み隠さずに話すことだけが、本当に正しいことなのだろうか…。
そんな風に葛藤していた日々の中で、わたしは最後の心の支えだったはずの恋人とも別れることになってしまう。
それはもう、ひどい別れ方だった。
後にコウくんにその話をしたとき、コウくんはまるで自分のことのように悲しみ、悔しがり、憤っていたっけ。




