セールの日
【由香子】
1
今日は待ちに待ったセールの日。
「ふんふふん♪」
鼻歌まじりに向かっていると、インターの敷地内にある映画館の辺りに見覚えのある顔を見つけた。
気づかれないように近づいて声をかけてみる。
「よっ、浩一じゃん」
「ゆか…っ? ゆかじゃないか!?」
振り向いた浩一はウチを見た途端、何故かきょどり出した。
…これは何かありそうね。
「浩一が映画なんて珍しくない?」
「ゆ、ゆかの方こそ…。映画はテレビで放送されるまで待つタイプだろ?」
「まあ、そうね」
「じゃ、じゃあ、なんでこんな所にいるんだよ。ゆかには映画館なんて…にっ、似合わないぞ」
映画館が似合わない女って、どんな女よ。
「ウチが用があるのはインターの方。たまたま浩一を見かけたから声かけたの」
「な、なるほど。…買い物か?」
「そゆこと。浩一、なんの映画見るん?」
「えっ? えっと―――」
映画のタイトルを聞いて、ウチには少し、ひっかかるものがあった。
「そう言えば新作始まったんだっけ。ウチもCM見て、見たいと思ってたんだよねぇ」
「えっ、そうなのか? 意外だな」
「あれ? 言ったことなかったっけ? ウチ、あのシリーズ結構好きなんだ」
「初耳だよ。…たぶん」
「そっか。うん、確かにそうかも。よく考えてみれば、誰かに言ったことってないかも」
「ふ、ふーん…」
「あのシリーズってさ、あんまり女子受けよくないんだわ。だからって男子の輪に混じったらハブられるかもしれないし…」
これは主に学生時代のことを言ってるけど、今の職場でもそういうのは割とある。
社会とか人間関係って結構面倒くさい…。
「映画館で見たいとは思っても、一人で行くのは嫌なんだよね。でも男の人と見に行ったら後で面倒くさいことになるかも知れないじゃん? もし誰かに見られたりして、変な噂になったらマジで最悪だし」
それに、もし相手をその気にさせちゃったら申しわけないもんね。ほら、ウチってば、そこそこ? イケてるし?
「やっぱりそういうものなのかなぁ…」
「ん? なんか言った?」
「あ、いや、なんでもない。こっちの話」
「てか、そっちこそ、あのシリーズに興味があったなんて意外」
「あ、いや、別に興味があったってわけじゃないんだ。…友達が見たいって言うから、その付き添い。えっと…ほら」
そう言って浩一は二人分のチケットを見せてきた。
―――ふふん。
実はさっき、映画のタイトルを聞いたときに思ったのよね。
浩一が一人で見に来るとは思えないって。
そしてもしかしたら“例の女の子”と一緒なんじゃないかって。
「そっか。確かに浩一が好き好んで見るような映画ではないもんね」
「ま、まぁね…」
「てか、友達ってウチみたいに、見たくても見られない女の子とか? まさか新しい彼女さんだったりして!?」
ちょっと白々しいかな…
いや、相手は鈍感な浩一だから特に問題ナッシング。
「かっ、彼女なわけないだろ確かに女の子だけどデートとかそういうんじゃなくてあくまで友達としての付き合いだよ大体恋愛は懲り懲りだって前にも言ったじゃないか」
超早口。どんだけー。
「そう言えばそうだった。ごめんごめん」
とか言いつ、もう少しだけ探らせてもらおう。
許せ、浩一。
「でもさ、浩一がそう思ってたって、相手がどう思ってるかは分からないじゃん? もしかしたら気があるかもしれないよ?」
「それなら大丈夫。向こうも僕と似たようなものなんだ。お互いに事情を知った上だから、変に意識しないでいられるんだよ」
なるほど。
少なくとも本人たちにはその気はないってことね。
でもこれからデート(と、あえて言うけど)を重ねていけば、どうなるかは分からないと思うなぁ。
てか、あの映画は毎回えっちぃシーン(しかも結構濃厚な)があるのも売りの一つなのよん? お二人は平気なのかしらん。
「で? さっきからその“お友達”の姿が見当たらないのはなんでよ?」
「女性は大変だよね…」
浩一の視線の先には女子トイレから伸びている行列があった。
「ウチもたまに男子の方に入っちゃおうかなって思うことがあるわ…」
「そういう、おばちゃん的な発言はどうかと思うぞ、ゆか」
「………」
「………」
「いやいや、しないって。冗談だよ。冗談」
「て言うか、男がその逆をやったらセクハラだとか猥褻物陳列罪だとかで大問題なのに、おばちゃん―――女性ならやっても問題なしってのは納得がいかないぞ」
「いや、ウチにそれを言われても」
「………」
「………」
「じゃ、そういうことだから。また後で」
おい。どんな会話の終わり方だよ、それ。
「あれ? 紹介してくれないの?」
「な、なんでさ…?」
「同じ映画を好きな仲間ができるかも知れないじゃん。てか、逆になんで紹介してくれないのよ」
リエコちゃんのときとは大違いね…。
まあ、ある意味では浩一が成長したってことかも知れないけどさ。




