サラリーマンの全裸事情
通報しないで!
私は風呂が趣味の、ごくごく普通のサラリーマンだ。
風呂といっても、温泉も大好きだがね。
一日の終わりに入る風呂の心地よさは、何物にも代えがたい。
そんな風呂で、事件が起こるのは本当に止めてもらいたいものだ。
ハックシュン!
…風邪引いたかな、やっぱり。
▼二日前▼
一日の終わりの風呂。
頭に生えた髪を慎重に、ヘアシャンプーとリンスで洗う。
そういえば、ボディシャンプーの容器は横にデコボコが付いているらしい。
これでボディシャンプーとヘアシャンプーを間違えるなんてことは二度としないな。
昔、スーパーマリオくんという漫画で、
「ホップ! ステップ! シャンプー!」
という台詞を読んだことがある。
何故か忘れられない台詞だ。まぁこんな話はどうでもいいか。
「~♪ ~~♪」
何の曲か、ぼんやりとは思い出せないが、どこかで聞いた曲を鼻で歌う。
「ガチャン」
鼻歌の中に、おかしな音が混じりこむ。
頭に付いたシャンプーをシャワーで洗い流す。
風呂場の扉を開けようとするが、
何故かビクともしない。
「えっ? 嘘ッ!」
本気で驚き、扉にタックルする。
ムカつくことに、この扉は鉄かステンレスか? よくわからないが、堅い素材でできている。
シャワーで窓を割ることも考えたが、さすがに全裸の今にそれをやるのは危険すぎる。
突然だが、私の住まいは借家の一戸建てだ。
住宅街の真ん中辺りに位置していて、ご近所付き合いも今のところ良好だ。
借家だからどうこう言う気は無いのだが、風呂場に一つの扉がある。
その扉から裏庭に出ることができるのだ。全くもって使用用途がわからない。
その扉は、現在シャンプー等を置いている棚の後ろにある。
まさか、これが役立つ日が来るとはな…。
棚を開かなくなったクソ扉の方に寄せる。
私の住んでいる県は、夜は気温が一桁になる。
全裸、しかも気温が一桁の世界に出てどうするか? という疑問が出るが、そこのところも大丈夫だ。
二件横、そこから向かいの家は私の友人の家だ。
そこに辿り着き、着替えを貰ってからゆっくりと鍵屋を待つことにしよう。
体を洗うためのタオルを股間に装着し、シャワーで熱湯と言えるほどの熱さのお湯を浴びる。
裏庭に飛び出した。
一気に鳥肌が立ち、歯がガタガタと音を鳴らし始める。
体を洗うタオルの色は青だ。
それを股間にあてがった全裸の成人男性など、即通報されて御用になるだろう。
裏庭の横の塀に飛び乗り、玄関の方に移動する。
子どもの頃はよく塀の上を歩いたものだが、今やると上手くいかないものだ。
その時感じたなんともいえない気持ちは、既に私がやばくなっていた証拠なのかもしれない。
今よくよく考えると、上手くできなかったのはどう考えても裸足のせいだ。
塀からゆっくりと降りて、家の前の道路を見渡す。
横に車はナシ! カーテンが開いている家もナシ!
冬の夜空の中、駆ける一人の男。
全裸で青いタオルさえ持っていなければ、かっこいい絵になったであろう。
友人の玄関をドンドンと叩き、インターホンを連打する。
こういうときに限って、出てくる気配がない。
塀をよじ登り、家の中に侵入する。
不法侵入だ! と言われようが、緊急事態だ。問題ない、きっと。
庭に面している大きな窓から、家の中を覗く。
残念だが、窓から見えるリビングにも気配はない。
二階のベランダによじ登り、部屋の中を覗く。
そこには、我が救世主とも言える友人が、ベッドで寝転がっていた。
窓ガラスを壊す勢いで叩くと、友人がビクッと反応してから起き上がる。
こっちを向くと、彼は
「ギャアアアアア!」
と叫んだ。なんとも失礼である。
その後、友人の家に無事に上がることができた。
鍵屋が既に開いていなかったので、着替えを借りて一泊。
無事に我が家の扉を開けてもらい、帰ることができた。
▼二日後▼
友人が作ってくれた鍋をつつきながら話す。
「…いや、すまんかった。今日もありがとうな」
友人が、鍋を食べながら言った。
「風邪なんだろ。また今度、何か奢ってくれたらええわ」
「一つ聞きたいんだけどさ。どうだった?」
そう言うと、友人が「は?」という顔をする。
「何がどうだった? なんだよ」
「いや、俺の姿見た感想だよ」
友人がご飯を口にかきこみ、うなりながら言った。
「殺そうかな、って」
これが友人とは、世の中は大変世知辛いものである。
これは私の話ではありません。私が聞いた話です。本当です。
これだけ言わないと通報されそうで本気で怖いです。ここまで言ったから大丈夫でしょう。
私の話、と明言してないから大丈夫大丈夫。
そういえば、何で風呂場の鍵、閉まったんでしょうか?
謎ですね。
改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。